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Sonnar T* 135mm F1.8 ZA (SAL135F18Z)

現在の人物撮影に於いて135mmと言う焦点距離は常用するのにギリの焦点距離と言う印象ですが、望遠レンズらしい圧縮効果が判りやすく出始める望遠レンズ入門的焦点距離のレンズで、かつて存在した〝人物撮影 85mm派 vs 100mm派〟では85mm派に属し、35/85/135の組み合わせで望遠側を担当するレンズでもありました。


135mmの単焦点はAFとなって以降各社発売はしましたが、フィルム時代は100-300や80-200mm、2000年前後には70-200mmや70-300mmズームレンズに取って代わられた焦点距離の一つと言え、PENTAX/MINOLTAは早々に消え、NikonはDC機構と言う個性的な仕様で発売したものの評価(というか、理解かな…)は上がらずGタイプに刷新されず廃盤、CanonだけはEFマウント全盛時にLレンズ沼の入口(撒き餌)として名を馳せ2021年までカタログラインナップに残っていたという状況でしたが(2022年現在は廃盤)、発売以降25年以上刷新される事無く販売されるというシーラカンス的な存在でありました。
MINOLTAからはSTF 135mm F2.8 [T4.5]というMFレンズが1999年に発売され、その後SONYにも受け継がれましたが、これは特殊な例でしょう。

主流がレフ機からミラーレスに変わった2022年現在もズームに飲み込まれた焦点距離である事に変わりはなく、絶滅したと言える200mm単焦点に比べれば数はありますが、カメラメーカー製もレンズメーカー製も多くはありません。

柳川みあ


Sonnar T* 135mm F1.8 ZA (SAL135F18Z)は2006年にKONICA MINOLTAからSONYにカメラ事業が移管となった後の製品発表で存在が確認されたレンズで、先述したように世間はズームレンズ全盛、使用頻度の高い50mm前後の標準域とは異なり中望遠/望遠域は使用頻度が少なく、高性能であっても単焦点レンズはマニアックな存在で、当時APS-Cしかボディがなかった事もあって同時発表されたPlanar T* 85mm F1.4 ZAに比べ少々影の薄い存在でありました。

たぶん、殆どの人は85mmの後に135mmを入手していると思います。 自分もそーですけど。
人気の有る焦点距離のPlanar T* 85mm F1.4 ZAに比べ不人気焦点距離故にこのレンズの評価はゆっくりと上がっていった感じですが、使用者の多くから高い評価を得られたレンズであり、85mm F1.4 ZAより高い評価をする人も少なからず存在したレンズです。

発表当時、αユーザーには〝フルサイズ願望〟があったので、その登場を予見するようなFullFlame対応の85mmと135mmの発表は現在では想像できない程大きく、この後すぐにFullFlameボディが登場するかのような、まさに糠喜びフィーバー(ふるい)。
検索したら記事が出てきたのでリンクしておきます。



レンズは長く巨大な鏡胴を備え重量は約1kgとヘヴィ級。
同時期に存在したNikon DC-Nikkor 135mm F2DやCanon EF 135mm F2L USMより明らかに大きく、フィルター径は77mmとF2.8大口径標準ズームと殆ど変わらない大きさで、とても気軽に撮影に持ち出せる代物ではありませんが、冷静に考えると135mmと言う焦点距離からして気軽ではないw

ある程度の大きさと重さは〝質〟を感じさせる要素となりますが、この大きさと重さは使用者に〝覚悟〟を要求しますね。

金属製の鏡胴と金属とプラで構成された立派なレンズフードはこの時代のFullFlame用 SONY Carl Zeissではデフォ。 確かフードだけで1万円したような記憶が…
フォーカスリングも金属製で細かい溝が刻み込まれ手間暇掛かってる感がありますが、フォーカス時にリングを非回転とする為にクラッチ機構を仕込んだ為か若干遊びが有り、MF時の減衰感は良いけど、操作性は若干気になる部分があります。

単体で見ると気付かないような違いなのですが、大口径に属するレンズは普通のαレンズよりマウント部の電子接点が小型(薄く)になっていて、既存の規格内で少しでも開口部を稼げるよう涙ぐましい努力がなされています。
それによって接触不良が増えるような事は無いので実用上は気にするような事ではありませんが。

フォーカス動作はインナーフォーカスで、同時発表のPlanar T* 85mm F1.4 ZAとは異なりフォーカス動作で全長は変化せず、EDレンズの採用も含め85mmに比べ今風と言える構成ですが、AF駆動はボディ側でレンズモーターSSM/SAMではありません。
このタイミングではSSMレンズの動作機種が限られていたαフィルム機での使用も多少考慮していたのかも知れませんねぇ。

このレンズが高評価であるのは描写と共にボディ駆動としては高速なAFがあると思います。

AF合焦速度が速いと言う事になっているMINOLTA時代の超音波モーター採用レンズ、AF APO TELE ZOOM 70-200mm F2.8G (D) SSMやSONY Vario-Sonnar T* 24-70mm F2.8 ZA SSMと体感的に変わらないか、むしろ速いと思えるAF速度で、超音波モーター搭載レンズと異なり明確な動作音はしますが、騒々しいと言う程でもなく、動体撮影が苦手なAマウントαシステム内では数少ない〝スポーツ対応〟レンズと言えます。
まぁ、LA-EA5を利用した場合はそんなでも無いし、EFマウントやFマウントの〝速い〟レンズに比べたら遅いでしょうけど。


ゴツい見た目からは想像出来ない優しい描写

意外なのは最短撮影距離が72cm(倍率0.25)と近接に強く、焦点距離の短い85mmより寄れる事で、この近接性能は屋内スポーツや鉄道等の動体撮影や人物撮影だけでなくブツ撮り/ネイチャーへの対応も可能なレンズとして高い汎用性を持つ事になりました。
マクロと呼ぶには倍率0.5倍は必要ですが、0.25倍であれば〝マクロモード〟は名乗れる倍率で、通常使用するのに〝寄れない〟と感じる事は多くないでしょう。

開放F値がF2.0からF1.8へ向上した事により〝撮影出来なかったものが撮れるようになる〟事は多くありませんが、最短撮影距離が90cmから72cmになる事で撮れる(表現出来る)ようになる事はある。


描写は絞り開放から安心感のある描写。
他社製135mmより10年かそれ以上設計が新しいので細かく見れば優れていたかも知れませんが、Nikon DC-Nikkor 135mm F2DやCanon EF 135mm F2L USMも同様に高性能だったので、このレンズに限った訳ではなく135mm F2クラスは高性能なレンズが多いですね。

F1.8 開放
F1.8 開放 中央切りだし
F2.5 中央切りだし 
F4  中央切りだし
F5.6 中央切りだし
F8  中央切りだし

絞り開放でも十分な解像力がありますが、MAX性能はF4~F8あたり。 周辺までを考慮するとF11までなら開放よりちょっと良い程度の性能を発揮します。
明確な圧縮効果を得る為に絞り込む場合も性能が極端に低下しないのは使い勝手が良いですね。

解像力は当時の2400万画素ボディだけでなく、4200万画素でも6100万画素でも大きな不満は無いですが、2022年現在のレンズに比べれば間違いなく劣るでしょう。
でも、実用上は不足を感じる事はぜーんぜん無いですね。

F1.8 開放 40mほど先の信号にピントを合わせた
F1.8 開放 中央切りだし 必要十分な先鋭感


つぎは口径食と絞り羽根形状が判りやすい点光源描写を見てみましょう。

F1.8 開放
F2
F2.8
F3.5
F4

開放では口径食の影響で点光源の歪みが目立ちます。
F4まで絞れば口径食は解消しますが、羽根形状は少々カクカクが目立ち始めるのでF3.5辺りが円形を保つ限界でしょう。
MINOLTAやAマウント時代のSONYレンズの円形絞りは、ホント外しがなくて、どのレンズも9枚羽根なら1.5段は確実に円形を保つし、7枚羽根なら1段は円形を保つので羽根形状の精度はホント信頼出来る。

点光源の縁はクッキリ系ですが、大きく目立たず馴染むような描写をします。 若干の偽色も認められるので実写では多少影響があるでしょう。
こういったクッキリ系の縁描写はEDレンズというのを使用していると発生しやすいのですが、最新設計のレンズに比べ縁の描写はクッキリし過ぎてません。
点光源内部に渦巻きのような描写は見られずスッキリしています。

点光源内部に渦巻きがなく縁もクッキリ系ながら固すぎない

同じCarl Zeissでも、以前感想文を書いたPlanar T* FE 50mm F1.4 ZA (SEL50F14Z)とは描写が全く違いますよね。
別項で書きましたが青いバッジは良くも悪くもMTF至上主義でボケ描写に一貫性はなく、Aマウント時代のCarl Zeissは完全にMINOLTA風味です。


精度の高い羽根形状と高い描写力はイルミネーション撮影の際には頼りになります。
口径食を抑制するようにF2.5~F2.8に絞って撮影しますが、点光源周囲にシアンの偽色が発生する場合もあるものの、点光源の乱れは最小限に抑えられ安心して撮影出来ます。

F2.5
F2.5 華井アロマ
F2.5 朝比奈 夢空

ボケ量をある程度稼がないとイルミネーションはショボく見えてしまうので、全身を撮るなら135mmは最低限欲しい焦点距離なのですが、ボケ量が少なく見えてしまう横位置でも必要になる場合が多い焦点距離でもあります。
逆にボカし過ぎても点光源が一体化し安っぽくなってしまうので、適度な距離感は必要ですね。


条件の厳しいイルミネーションで不満は無いので、一般的な自然光環境下で不足があるはずがありません。
口径食を考慮しておけば、どのような状況でも安心して使用出来るスーパーレンズです。

高崎真梨子
今田詩音


百川晴香

個人的に背景が判別不能となった所謂〝バカボケ〟は好まないので引きのカットが多いですが、135mmに対して〝ボケ過ぎる〟とするのは〝望遠レンズの使い方が間違っている〟だけですw
ボケ量と圧縮効果が望遠レンズの特徴ですが、その焦点距離に適した状況や設定で撮らないと〝過ぎる〟のは135mmに限った話ではなく、超広角レンズを標準域のレンズと同様に扱って「小さく写り過ぎるw」というのと同じです。
ズームレンズ時代となって〝自分は動かず被写体を寄せる〟事だけにズーム機能(焦点距離の変化)を使うようになり、その〝正しいとは言えない〟扱いと同じように単焦点も扱うようになってしまった弊害のひとつじゃないかなぁ。

135mmはボケ量を誇るのではなく、空気感を表現しやすく映画的なドラマを作るのが得意な焦点距離に感じますね。
35mmが親近感だとしたら135mmは手の届かない何か。
200mmでも300mmでも望遠はそういうもんでしょうけど。

Sonnar T* 135mm F1.8 ZA と同時発表の85mm ZAがポートレートに注力し前ボケより後ろボケの滑らかさを特徴としていたのに対し、135mm ZAは後ろボケの滑らかさでは劣るものの、その多くはボケ量でカバーしてしまい結果遜色ない印象を与え、前後共に二線ボケが少ない扱いやすい描写としたことで85mm ZAに比べ洗練された描写に思えます。

これは85mm ZAには採用されなかったEDレンズってのの存在が大きい気がします。
2022年現在のレベルでは強力な補正効果は感じませんが、色収差が85mm ZAに比べ少なく、結果として纏わり付く変色は少なめでクリアな印象が、現在のレベルでは柔らかさとクリアさを共存させた〝ちょうどいい〟感じに思えます。
マクロレンズであるがボケマスターであるMINOLTA AF MACRO 100mm F2.8に近いというか…

〝ボケ〟というのは肉眼では見えない特殊効果みたいなものなので、その優劣…と言うか善し悪しは個人的趣味に左右され定量的評価をするのは難しいのですが、クリア過ぎず柔らか過ぎない絶妙なさじ加減が綺麗だけど無機質に思える最近のレンズとの違いでしょう。
個人的に好ましいと思えるボケ描写にはある程度の雑味というか〝存在し得ないものの存在〟が必要なのです。


Sonnar T* 135mm F1.8 ZAに対してはこの描写力から〝神レンズ〟と称したい気持ちもありますが、135mmクラスにはMINOLTA STF 135mm F2.8 [T4.5] (SONY 135mm F2.8 [T4.5] STF)という〝絶対神〟が存在する為、神の称号を与える事は出来ません。 なぜなら、絶対神には口径食なんて無粋なものは存在しない。

最近は神様も敷居が低くなっていて鰯の頭みたいな風潮が感じられますが、うちの神様はそう簡単に凌駕出来る存在であってはならないので、神に最も近い場所に存在したスーパーレンズと言う感じですね。
STFは確かに凄いのだけど完全MFは効率が悪く、夕暮れになると手持ちでの使用は困難になってくるので、Sonnar T* 135mm F1.8 ZAの方が秀でた面はありますが、それでも神では無い。

Sonnar T* 135mm F1.8 ZA、高い近接能力を備えた汎用性の高いレンズではありますが、モーター非内蔵なのでミラーレスボディでAF使用するにはマウントアダプター( SONY LA-EA5 )の利用と共にボディ側の制限が有り、その上、ただでさえ巨大なレンズがマウントアダプターの存在で全長は200mmクラスと変わらなくなり可搬性は劣悪と、135mmと言う焦点距離を抜きにしても万人にお勧め出来るようなレンズではありません。

普通の感覚であれば利便性の高い望遠ズームの方が良いし、70-200mmがあればカバー出来てしまうので135mmの単焦点を使う理由は一般的には多くないですが、F値による撮影状況への対応力や70-200 F2.8に対して絶対重量の軽さと言った面を考えると135mmが必要なんですよね。
MINOLTA時代のAF 135mm F2.8くらいにコンパクトであれば可搬性は上がるけど、焦点距離的に使用頻度が上がる訳ではないので希に使う分には重さは許容出来る、、、

鼻デカ写真を撮る動物写真ジャンルの魚眼レンズみたいに〝頻繁に使用しないが絶対に必要〟なのが135mmという焦点距離で、その要求を満たしてくれるのがSonnar T* 135mm F1.8 ZAですね。


SONY Sonnar T* 135mm F1.8 ZA (SAL135F18Z)を紹介してきました。
手元に置くなら2022年3月現在、流通在庫で新品も購入可能ですが、このタイミングなら程度の良い個体が手に入るし中古がいいでしょう。
先述したようにミラーレスでは可搬性が更に悪くなるのでそれなりの覚悟が必要ですが、SONYの135mmでしか表現し得ない孤高の世界がある事も確か。
理屈ではなく〝神に近いレンズ〟は体験しないと判らない。



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