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即興小説:アサノヒトトキ

※こちらはyoutubeの配信中に「即興小説トレーニング」を利用して15分で書いた小説となります。

・本文


お題:僕と狸

 「あなた、朝ご飯できてるわよ」

妻の呼びかけに眠たい目をこすりながらベッドから起き上がる。
目玉焼きを蒸し焼きにしているチリチリとジュージューが混ざったような音と、
食パンの焼ける香ばしい匂いがすでにここまで届いている。

いただきます

二人で言葉を合わせた後、僕は黄身を割る前に、妻の顔を見る。
妻はいつものように、柔らかい笑顔を見せている。
少し丸目の顔と、大きめの目が本当にかわいらしい。
こんな僕に、こんな素敵なお嫁さんが来てくれるだなんて、
今考えても夢や幻のようだ。
その表情を見るだけで、僕は毎日満たされている。

頭の上に乗っている葉っぱに気さえとられなければ。

 僕は、ベーコンエッグを食パンに載せて、かぶりつく。

「やだ、こぼさないでよ」

彼女は声をだしながら相変わらず、最高にかわいらしく笑っている。
黄身のとろっとした甘さと、ベーコンのうまみが最高に食パンと合う。

 今、現実の自分は何を食べさせられているんだろう。
泥団子かもしれないし、糞尿なのかもしれない。
 この、小さいながらも白く清潔や我が家も、
洞窟なのかもしれないし、寒風吹きすさぶ外なのかもしれない。
もしかしたら、もう僕は全裸でその辺に倒れているのかもしれない。

 それでもいいさ。

 現実というものに戻ったからって、
きっと、今よりもいい瞬間は一度も訪れないだろう。
それなら、きえゆく幻の中で生きる方がいいに決まってる。

「ほら、口についてるよ」
ウェットティッシュの箱を妻が私に差し出す。
一枚つまむと、ウェットティッシュの湿り気を冷たさを
右の親指と人差し指に感じる。

これで、いい。
これが僕の現実だ。


・あとがき

 「僕と狸」というお題を見て最初は水星の魔女のスレッタ・マーキューリーが思いついたのですが、即興小説トレーニングは二次創作禁止(二次創作は別サイトがある)ですし、すぐに振り切って考え始めました。そういえばまだ7話見てないから見ないと…。
 狸、というモチーフで小説にしたいなと思う要素はやはり「化かす」だったので、化かされる人間を主人公にしたいと考えました。そこから「化かされることを受け入れる」という話を考えました。これが思いついたときは僕の中ですっとしっくりくる感じでした。
 今作は、うまく視覚以外の情報を入れて表現できていると思っています。それによって情景や与える感情が多面的になったり、リズムが一辺倒でなくなっていると感じてもらえれば嬉しいです。
 余談ですが、朝食から物語を始めるというのは僕は非常にやりがちで、そしてその際の目玉焼き率もかなり高いです(笑)


なお、即興小説配信はYoutubeで行うので、興味ある方はチャンネル登録していただけると嬉しいです!年内に登録者100人目指しています!


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