見出し画像

漫画『デジモンアドベンチャーVテイマー01』とアニメ『デジモンアドベンチャー』『デジモンアドベンチャー02』の設定・描写の違い

現在、実は水面下であることを考えておりまして、そのために改めて『デジモンアドベンチャーVテイマー01』を読んでいるのですが、「作品」として完璧に完結した作品ってこの1作だけじゃないでしょうか。
少なくともアニメの『デジモンアドベンチャー』『デジモンアドベンチャー02』と違って設定・描写・構成の全てにおいて無駄がなく、コマ割りなども含めて全てのドラマ・バトル・キャラが立っています。
まあ井沢・やぶてんコンビでアニメの放送前からVジャンプにて連載されているので当然といえば当然なのですが、どちらかといえば私はこの「Vテイマー」こそ本当の意味での「デジタルモンスター」を表現した一作だと思うのです。

ということで今回は「Vテイマー」とアニメ版「デジアド」「02」で具体的に何が違うのかを設定・描写の観点から論じてみようと思います。


(1)単独主人公と複数主人公

最初にあげられるのは単独主人公と複数主人公という違いです。漫画「Vテイマー01」ではあくまで主人公は八神タイチとゼロマルのみですが、アニメだと無印が8人8体で02がそこに4人加わって12人12体も居る群像劇スタイルです。
以前から指摘し続けていることですが、はっきり言ってアニメ版は主人公とパートナーデジモンの数が多すぎます、スタートが7人7匹ってスーパー戦隊シリーズの5人よりもはるかに多すぎではないでしょうか。
その点「Vテイマー01」は最初から八神タイチとゼロマル(ブイドラモン)という単独主人公視点で話が進むので、余計な話の分散がなく物語もバトルも描写が一本筋でしっかりできているのが素晴らしいです。
アニメ版は各キャラクターの出番を均等化して作らなきゃいけないという制約がどうしてもあるので、回によっては目立たないキャラクターがいたり、積み重ねが不足したりしてしまうということがあります。

特に無印で後半から加わった八神ヒカリとテイルモンなんてその典型で、後半で緊急のスポット参戦となっているので兄の太一以外の仲間とじっくり親睦を深める時間がなかったのでアポカリモン戦での「私の中の光はみんなのために」のセリフに説得力がありません
だから「02」が必要だったわけですが、その「02」が企画段階から難航してしまうという目も当てられない状況に陥ってしまったので、キャラクターの描写のバランスと完成度にどうしても偏りが出てしまったのです。
「02」の後半なんて完全に本宮大輔と一乗寺賢無双で他のメンバーはほとんど空気だったので、そういう意味でもアニメ版は無印も02も複数主人公の群像劇にしたことがかえって裏目にてしまったのではないでしょうか。
一方で漫画版の「Vテイマー」は主人公の八神タイチとゼロマルが純粋に活躍する「ドラゴンクエスト」のような作品として描かれているのもあって、構成が実にスッキリしていて見やすいです。

また、無印といい「02」といいやたらと「現実的な子どもの心の傷や家族関係の悩み」ってものを前面に押し出して書きたがるのに対して「Vテイマー」ではほとんどそういう問題を扱いません
何故ならばそれらはデジタルワールドの冒険と直接の関係がないからであり、使うにしても精々タイチのライバルとして出てくる彩羽ネオとその妹のレイの悲しき過去の設定で出たくらいです。
そしてその悲しき過去から2人が一緒に居られる理想郷をデジタルワールドで実現しようというものでしたが、アニメ版は「離婚した家庭」だの「養子」だのを出しておきながらそれがデジタルワールドの冒険と何らの関連性もありません
精々が登場人物にメソメソウジウジと湿っぽく曇らせるための道具程度にしか扱われておらず、しかもその心の傷や家族の問題が解決することもないので、それだったら「最初から出すなよ」となってしまいます。

だから「Vテイマー」の方が純粋に少年漫画として楽しめてしまうのですよね。

(2)デジモンの進化

設定やシステムで見ていくと一番の違いはやはり「デジモンの進化」であり、漫画版の方では基本的にゲームと同じで一度進化したら二度と成長期や幼年期に戻ることはできません。
一方でアニメ版の方は何度でも進化→超進化→退化というように、進化というものをまるでスーパー戦隊でいうところの変身バンクみたいにして挿入歌まで入れて扱っているのです。
これには流石に面食らいました、いわゆるポケモンみたいに「戦闘経験値を積むことで進化」というシステムかと思いきや、ただの変身バンクでお手軽に慣れてしまうのですから。
「Vテイマー」はその点ちゃんと戦闘経験値を積み、ゼロマルが限界という限界まで追い詰められたところで限界を超えるために進化するので、同じ「進化」でもアニメ版とは深みと重みが全然違います

それに対してアニメ版、特に無印組は紋章と進化のスペックに依存してしまっていて、敵に勝てないのなら経験値を積んだり特訓したりして敵を超えようという発想がありません
特にそれが顕著に出ているのがダークマスターズ編であり、究極体二体で相手との力の差もわからずに突っ込んで無様に返り討ちに遭ってしまう様は今見直すと失笑ものです。
はっきり言ってダークマスターズなんて個々の実力は精々「ドラゴンボール」でいうところのギニュー特戦隊レベルであり、究極体の中でも実力は中堅〜下位層でしょう。
Vテイマーのタイチだったらおそらくさほど苦戦することなく初見で出会った段階で相手の弱点と性質を見極めた挙句にエアロブイドラモン倒せてしまうのではないでしょうか。

そういう「進化」の扱いも漫画とアニメで大きく違うところだと思われます。

(3)強さの序列

井沢・やぶてんコンビが手がける「Vテイマー」は強さの序列が明確にあり、基本的には完全体で究極体を倒すことはできない設定ですし、敵も完全体や究極体の中でも上位クラスが出てきています。
それをタイチとゼロマルが打ち破っていくのですが、ブイドラモンは古代種デジモンなのでスペックそのものは現代種以上ですが「オーバーライト」による消耗が激しいため寿命が短く進化がしづらいという設定です。
この設定だからおいそれとは簡単に進化して強くはなれないし、でもだからこそその能力と寿命の壁を打ち破ってエアロブイドラモン、アルフォースブイドラモンに進化した時のかっこよさはたまりません。
またライバルキャラのエイリアス3と彩羽ネオもタイチに負けず劣らず凄まじい実力者ばかりなので、彼らと一騎打ちで打ち勝つタイチとゼロマルの強さがまたそこで光るというのもあるのです。

これに対してアニメ版は強さの序列がめちゃくちゃで、話の都合で簡単に成熟期や完全体を咬ませ犬扱いしています、特にエンジェウーモンとホーリーエンジェモン辺りの描写はその典型でしょう。
なぜ究極体二体でも敵わなかったピエモンに対して完全体のホーリーエンジェモン如きが圧倒しているのか納得できる理屈がありませんし、02でも明らかにジョグレス進化でパイルドラモンよりシャッコウモンが上みたいな描写をしていました。
しかもその後にホーリーエンジェモン単体でブラックウォーグレイモンを追い詰めるような描写も見せているなどパワーバランスが支離滅裂だし、またダークマスターズ編では盛り上げのためにボロボロのウォーグレイモンがなぜかガルルモンのエネルギーで回復しています
ガブモンが「ヤマトの友情の紋章が俺に力を貸してくれてウォーグレイモンを生き返らせた」みたいな言い方をしていますが、所詮そんなのは誤魔化し・ハッタリにすぎません

「Vテイマー」はこの辺り強さの序列とバトルのルールがはっきり制定されているので、キャラ萌えやその場の盛り上がりのためにルールを簡単に捻じ曲げてしまうアニメとは全然違うのです。

(4)デジメンタル

そして最大の違いは何と言っても「デジメンタル」であり、「02」に出てくるアーマー進化のデジメンタルと「Vテイマー01」に出てくる超究極体に進化するためのデジメンタルは全く違います。
アニメの方は紋章によって属性がついていてその度その度で違う形態のデジモンに進化する一種の便利アイテムですが、漫画ではデーモン超究極体を倒すために彩羽ネオの妹・レイが持っていたペンダントが伝説のアイテムとなったものでした。
つまり「02」では玩具販促の意味もあって最初に登場させた紋章付きの進化のエネルギーを肩代わりする鎧ですが、「Vテイマー」では元々完成していたアルフォースブイドラモンを更に上の超究極体のフューチャーモードへ進化させるものです。
これはそれまで進化の過程や能力の壁に散々苦しんできたタイチとゼロマルだからこそ許された特権であり、これに匹敵する神々しさを兼ね備えた進化といえばギリギリ「02」の奇跡のアーマー進化・マグナモンくらいでしょう。

(3)とも繋がる話でですが、井沢・やぶてんコンビがすごく良いところは「進化」という要素をきちんと大事に扱ってくれるところであり、例えばマグナモンの扱いに関してもアニメより漫画「Vテイマー」の方が遥かに扱いがいいです。
アニメだと特にそうなのですけど、他のキャラクターにも花を持たせる都合なのか、やたらと大輔とブイモンコンビを不必要に下方修正する描写が多く、特にその皺寄せが来ていたのがマグナモン関連の描写でした。
だって考えてもみて下さい、ロイヤルナイツの守りの要であるマグナモンが何でたかがキメラモンやケルビモン如きで苦戦なんかしなきゃいけないのかという話ですよ、ロイヤルナイツならあの程度ワンパンで瞬殺するのが普通です。
そこを井沢・やぶてん先生はちゃんとわかっているというか、大輔の共演回では究極体のパラレルモンを倒すための最後の切り札として取っておいてトドメに持って来たことで強さの格をきっちりと立てていました。

こういうところから見てもやはりアニメシリーズの雑な扱いとは違って漫画の方はデジメンタルをきっちり大事なガジェットとしてうまく使い切っていますね
アニメスタッフは本当に爪の垢を煎じて飲んで欲しいくらいです。

(5)八神太一の性格

キャラクターで見ていくと最大の相違はやはり主人公である八神太一の性格です。ここが同時に私が「Vテイマー」の信者と同時に無印のアンチになった最大の理由でした。
井沢・やぶてんコンビの描く漫画の八神タイチは頭脳派の勝率100%テイマーであり、とにかくゼロマルとともに戦うのが大好きであり、強くありながらも同時に仲間思いであるという人格面もテイマーとしても完璧超人です。
好奇心がとても強く理解するのも早いので負けそうになってもきっちりと勝利の策を考えて勝ち抜き、だからと言って無闇矢鱈に相手の命を奪いようなことをしませんし、素直に良いと思ったものは忖度なしに褒めます。
時として非情な判断を下すこともないではないですが、だからと言って人を不快にさせたり相手の地雷を踏んだりするようなことはなく、その辺りも見ていて安心できるので不快な要素がありません。

それに対してアニメの方の太一は仲間思いは仲間思いですが割とワンマンなスタンドプレーで協調性は皆無、仲間の基準が「ウィルス種=闇=悪」という価値観を是として共闘できるか否かです。
漫画とは違って許せない悪い奴は相手が小学生だろうが決して許すことはないし仲間にしようなどとは思いませんし、空やミミ相手だと特にそうですが無根拠な自信で粗相を働いては地雷を踏んでいます
いわゆる昭和の戦隊レッドを現代っ子みたいにしたキャラクターですが、漫画とは違い策を立てて勝つスマートな頭脳派ではなく、そちらは光子郎に任せて自分はレベルを上げて物理で殴る脳筋軍人タイプです。
そして何より妹のヒカリがいるか否かというのが最大の違いであり、アニメにしかないオリジナル設定として太一には妹がいますが漫画の方は妹がいるわけではないので、その辺りも大きく影響しているかもしれません。

井沢・やぶてんコンビが描く並行同位体の八神タイチと東映が作る八神太一は似て非なる人物像であり、「Vテイマー」は少年漫画、無印は東映ヒーローの文法で作られているといえます。

(6)本宮大輔の性格

以前にも述べた気がしますが、やはり「02」の本宮大輔もアニメ版と漫画版でとてもキャラ付けが異なる1人であり、個人的にはやはり「Vテイマー」の方が少年漫画っぽくて大好きです。
アニメの方だと特に前半はズッコケという3枚目としての描写ばかりが目立っていて、それだけならともかくそこにタケルとヒカリが絡んでくるせいで無駄なタケヒカage大輔sageみたいな不快な描写が多めでした。
その典型が4話のヤマトとヒカリがらみでしたけど、アニメはとにかく前半だととにかく大輔をずっこけみたいなことしかさせないピエロみたいに描きすぎであり、本当に汚れ役を押し付けられていて不憫です。
それがキメラモン戦辺りからだいぶ2枚目としてかっこよく決める描写も増えて来たのですが、前半はそれが物語の流れやリズムを阻害してしまうことが多かったので、ここも采配のミスでしょう。

一方で「Vテイマー」で客演した時にはそういうアニメ版の3枚目の要素もなくはないですが、どちらかといえば少年漫画にありがちな直情径行の熱血漢としての雄々しさの方が目立っていました
単なる3枚目としてしか描けない無能揃いだったアニメとは違って「Vテイマー」の方は大輔なりの悩みであったり本音だったりも引き出していましたし、単なる「バカ」ではありません
それを踏まえてそこから後半に向けての逆転劇のブーストが凄まじく、パラレルモンを倒すための作戦を一瞬で思いついてタイチにアイコンタクトで知らせ、その上できっちり勝っています
アニメ版が物語後半でやっとたどり着いたようなところに「Vテイマー」はこの一回でたどり着いせ見せたわけであり、だからこそこの客演回の大輔が未だに私の中で一番好きな大輔像です。

いかがでしたか?

こうして比較してみると、やはりアニメ版は漫画版に比べると設定の考証や詰めが甘く、今見直すとキチンと詰めきれてない部分もたくさんありますね
料理に例えるなら、漫画「Vテイマー」がきちんとした洋食亭ハンバーグだとして、アニメの無印と「02」はご飯とハンバーグのみが丼の底に少しだけあって、その上に大量のパセリが乗っかっているクソ不味い「パセリ丼」とでも呼ぶべき代物です。
それくらい漫画とアニメで大きなクオリティの差があるのがデジモンのアニメシリーズの酷さであるというのが、今回の記事からわかっていただけると思います。
いかにアニメスのデジモンシリーズに対する理解と描写の解像度が低いかということがご理解いただけたのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?