見出し画像

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』を最終回まで見終えて〜革命作とは名ばかりの焼き直し〜

さて、秘密裏に追い続けていた『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』を最終回まで見終えたので総評とまではいかないが、軽く忘備録程度の感想は残しておこう。
結論からいえば、やっぱり良くも悪くも白倉・井上作品らしさは出ていたかなとは思うが、それでもやはり「戦隊」として見てしまうと評価は厳しい
評価基準でいえば「凡作」であり好き嫌いで見ても「好きとも言い切れないが、嫌いとも言い切れない」という何とも煮え切らないものになってしまった。
もっともっと最終回まで突き抜けてくれると最初は期待していたのだが、このコンビは終盤でいつも失速してしまってゴールをきちんとしきらないんだよなあ。

賛否両論あると思うが、前半だけを見るなら「傑作」とまではいえないまでもまあ及第点ってところかなあとは思っていたが、終盤で熱が冷めてしまい失速
ぶっちゃけ平成仮面ライダーの初期作品(「アギト」「龍騎」「555」)らしく正義そっちのけな欲望の殺し合いを作り手が肯定してしまっているのは如何なものかとは思う。
しかし、ここ数年のスーパー戦隊シリーズがいずれも芳しくない結果に終わってしまっており、そもそもシリーズ全体としての方向性を見失っていたのは事実だ。
「善悪の逆転」を描いた「リュウソウジャー」、「学生サークルノリ」が肯定されてしまっている「キラメイジャー」、更に「人間と機械の共存」を描いた「ゼンカイジャー」。

これらいずれもシリーズとして「まだ完全に描き切れていないもの」を描こうとして失敗した感があり、「ドンブラザーズ」はその点意外と無茶はしていない。
トリッキーなキャラクター描写はともかく物語としての破綻は意外と少なく、ライブ感で適当に描いているように見せて、作劇自体は割とロジカルで冷静だったりする。
だから世間に騒がれるほどの問題作ではなかったのだが、それでもやはりこのコンビがメインを張った中で『仮面ライダーアギト』を超える作品は生まれていない
色々理由は考えられるが、白倉・井上コンビの欠点までをも本作は露呈させてしまったと思うのだ、この「ドンブラ」最終回にて。

「ドンブラ」最終回までを見て思ったことは本作は結局のところ「戦隊シリーズだからこその面白さ」は何一つ我々視聴者に伝えられていなかったということだ。
というより、いずれもが90年代後期に確立された手法の焼き直しであり、こんなのが令和に名を轟かせた革命作などとは口が裂けても言わせないぞ。
例えば漫画家志望の鬼頭はるかが「ドンブラザーズ」を漫画としてまとめるというメタ展開、これはそのまま「ギンガマン」で青山親子がやっていたことである。
また、戦う意義を見失っていたレッドが仲間たちとの絆によって最後戦いに戻ってくる展開も「タイムレンジャー」終盤で見たことがあるものだ。

それに、敵側だった脳人との共闘も「チェンジマン」「カーレンジャー」「マジレンジャー」で見てきたものであり、EDも綺麗にまとめたようで実は何も変えられていない。
村上幸平氏の最終回限定の登板やセリフはなかったものの井上敏樹先生の最終回での登場にしても、全部内輪受けのファンサービスの領域から出るものではなかった。
この最終回に何が描かれていたかというと、強いていうなら「虚無」であり、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』とは所詮「空っぽの器」の物語だったのである。
その「器」として描かれていたのが桃井タロウ=ドン・モモタロウであり、それが仲間たちとの交流を通して「人間性」を育んでいく物語だったとすれば相応の筋は通る。

しかし、こんなのは別段「戦隊」としての面白さではなく、白倉・井上コンビの定番の手法をただ「戦隊」というジャンルに当てはめたに過ぎない。
少なくとも高寺P三部作(「カーレンジャー」「メガレンジャー」「ギンガマン」)や「ゴーゴーファイブ」「タイムレンジャー」を目にした時のような衝撃はそこにはなかった。
玩具のセンスにしたってドンオニタイジンくらいは良かったと思えるが、武器にしたってスーツデザインにしたって年々劣化していってて見るに耐えない。
それに未消化の伏線(マスターの正体)が掴みにそれらしく言及されただけで何も明かされず仕舞いだったことも乗り切れなかった要因の1つであろうか。

もっとも、ドン・モモタロウと鬼頭はるかをはじめ各キャラクターのその後はEDで描かれ、拾える限りのものは拾って一応の大団円として表向きまとめた風を装っていたのでそれはよしとしよう。
少なくとも「続きは映画で!」みたいな「ディケイド」と似たようなことをしなかったのは良かったと思うが、すっかり落ちてしまった白倉・井上コンビの劣化ぶりを見ていると何とも言えない気持ちになる。
頼むからもうこの2人に戦隊はおろか東映特撮そのものを作らせないで欲しいのだが、猫の手ならぬ老害の手も借りなければならないほどの人材不足に陥っているということであろう。
そして同時に、こんなゲテモノでもそこそこ楽しんで消費してしまう子供達がいることも嘆かわしく思う、真っ当なものを小さな頃から食べさせて貰えないのだから。

総じて本作は「試みは良いが所詮は尻すぼみで終わった革命作気取りの凡作」というのが個人的な評価であり、シリーズにおける重要性は極めて低い作品であった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?