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日虎の気まぐれインド哲学第16回 インド仏教の発展と部派仏教

【1.部派仏教とアビダルマ哲学の成立】


 ブッダの入滅後100年ころ、教団は律の解釈をめぐって、保守派の上座部と進歩派の大衆部に分裂しました。その後さらに分裂をかさね、成立した部派の数は18あるいは20と伝えられています。
 各部派は、自派の教理にもとづいて聖典を編纂しなおし、独自の解釈を立てて論書を生み出しました。それらはアビダルマといわれます。
 そして、これを集めたものが論蔵(アビダルマ蔵)で、ここに経蔵・律蔵とあわせて三蔵が成立しました。
 しかし、多くの部派のアビダルマは失われました。現在完全に伝わっているのは、南方上座部のパーリ語のアビダルマと漢訳された説一切有部のもののみです。論書のうち古いものは紀元前 2世紀の成立とみなされています。
 アビダルマとは、「ブッダの教え(ダルマ)に対する(アビ)考究」です。アビダルマの論師たちは、ブッダによって教え説かれたダルマを吟味弁別することが煩悩をしずめる唯一の方法であると考えたのです。

 彼らは、教理の体系化を進めて、須弥山説といわれる巨大な宇宙観を含む壮大な教理体系を築き上げました。時期を同じくする頃、婆羅門思想ではサーンキヤやヴァイシェーシカの宇宙観が成立しています。当時のインドの思想界には、宇宙の成立ちに対する強い関心があったのです。アビダルマ哲学の成立もこの傾向と密接にかかわります。

【2.説一切有部】


 諸部派のうち、特に有力であったのは説一切有部です。
 この部派は、カニシカ王(c.132-152年在位)の庇護を受けて栄え、多くのアビダルマ文献が生み出されました。その代表は『阿毘達磨大毘婆沙論』で、多岐にわたる内容を包含しており、さながら古代インドの大百科全書のようでした。

 アビダルマ文献のうち最も有名なものは、ヴァスバンドゥ(世親、4、5世紀頃)の『阿毘達磨倶舎論』である。これは、大部な『婆舎論』の内容をときには批判をまじえて巧みに要約したもので、仏教教理の基礎をなすものとみなされて中国、日本において貴重な経典として大切に扱われました。

【3.説一切有部の教理】


 「説一切有部」とは、この世界を成り立たせている一切のダルマが過去・現在・未来の三世にわたって実在するとするところからついた学派名です。諸行無常と矛盾するようではありますが、彼らはむしろ実在するダルマがなければ、諸行無常は成り立たないと考えたのです。

 もろもろのダルマは集まって現象してきます。それは現在の一瞬間にのみ存在し、消滅します(刹那滅)。しかし、それぞれのダルマそのものは、未来から現在をへて過去にいたって常に存在し続ける(三世実有・法体恒有)と考えるのであります。

 ところでダルマとは何か。ダルマ(法)は、多義的な語でありますが、仏教ではまず「ブッダの教え」(仏法)を意味します。アビダルマ論師たちは「ブッダの教え」の体系化をめざしましたが、主たる関心は世界の全体的な理解にありました。かれらにとって世界の成立ちは、「ブッダの教え」すなわちダルマによって説明され理解されます。
 したがって、ダルマは「世界を説明する原理」と言えます。いいかえれば、世界はダルマから成り立っているものとして理解されます。ここから、ダルマは「世界を成り立たせる原理」とみなされます。

 原始仏典には、世界の成立ちを説明する教えとして五蘊・十二処・十八界というダルマの枠組がありました。これを「三科」と呼びます。

「十二処」とは六つの認識器官「眼・耳・鼻・舌・皮膚・心(眼耳鼻舌身意)」と、それらに対応する六つの対象「いろかたち・音声・におい・味・感触・考えられるもの(色聲香味触法)」によって世界の成立ちを説明するものであります。

「十八界」は、これに六つの認識「眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・意識」を加えたものである。

 説一切有部は、この十二処・十八界説を基本として理論的な整合性を追求し、体系を再構成しました。そして完成されたのが「五位七十五法」という七十五のダルマを五類に分ける体系です。これによって物質的、精神的な世界のすべてが説明されました。

五類とは、「物質(色)・心(心)・心作用(心所)・物質でも心でもない関係、属性、能力など(心不相応行)・空間や涅槃など形成されることなく存在するもの(無為)」です。

 第五の「無為」に対し、前の四つのダルマは「有為」で形成されるものです。物質には十一、心は一、心作用には四十六、物質でも心でもないものには十四、形成されないものには三のダルマが立てられます。また、物質は原子論によって説明されます。

如何でしたでしょうか?
ブッダの入滅から仏教は様々な内外からの刺激によって形を変化させていったのです。
原始仏教から上座部仏教、大衆部仏教に分かれました。その中から様々な部派仏教が生まれ、それが次第に時代を下るにつれて大乗仏教へと発展していくのです。

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