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嵐の前

明日がとても寒いということで、
仕方なく買い出しに出掛けました。
とりあえず必要なものを買い終わり、
いつもの道を帰っていくと、いつものアレがまだありました。
アレとは、小さな鉢植えのミカンの木のことです。
うちにあるクチナシの木の鉢よりも小さな鉢に、幹の立派なミカンの木が、
ある家の隅に打ち捨てられてありました。

大きな家なので植えようと思えばいくらでも植えられそうなのに、そのミカンの木は、
鉢底から根っこを地面に張らせないように、妙な箱の上に置かれていました。
それでも健気にオレンジの実をいくつか実らせているのです。

そこを通る度にわたしはそのミカンの木が可愛そうでなりませんでした。
そして、この寒い夜でも放っておかれるんだな、と……

わたしは非常に植物を甘やかします。
いけないとわかっていても、乳母日傘を止められません。
せっかく家にきてくれた子には、すべて平等に接します。
だからうちのベランダにいる子たちは、11月から家の中に入れてあります。
日中は外に出しますが、こんな寒い日には、暖房の効いた部屋においてあります。

あのミカンの木の家は新しい家でした。
もしかしたらですが、仲が悪かったお姑さんかお舅さんのもので、新築したからあれはいらないとばかりに隅に追いやられているのかもしれません。
気持ちはわからなくもないですが、
ミカンの木には何の責任もないはずです。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとばかりに、
この寒空に健気にも鮮やかなミカンを実らせたあの木をどうしても考えてしまうのです。