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47日目 扇町から始めよう

扇町に新しい劇場ができた。昼から劇場を訪ねてみようと思っていたものの体調が好転せず自重。またの機会を待つことに。かつて扇町ミュージアムスクエア(OMS)という文化複合施設があり、劇場に立ち、芝居を観、屋上で稽古をし、映画を観て、スーベニールで雑貨を買い、カフェレストランでパスタを食べるという日常があった。チラシ折り込みの重い紙の束を持ってキャリーで劇場まで行ったこともある。裏通りの角のさびれまくった骨董屋を眺めて梅田の方に歩いたことも懐かしい。関西の文化の発信地だった扇町にその流れを受け継ぐ劇場が出来たそうだ。

私の初めての舞台出演はOMSプロデュース作品「夏休み」で、まだ整備されていなかった扇町公園をランニングして稽古場に戻った。宮沢章夫さんが講師だった「俳優にならないための演劇講座」の会場もそこだった。あれは面白かった。新しいダンスをつくる授業では、背中に氷をいれてもだえる動きからダンスにしたり、梅田を「甘くする」企画では、動く歩道の手すりに流しプリンを流して食べたり、好きな場所に連れていって歌詞や漫画の台詞を朗読したり、でたらめなことと、こぼれ落ちるものの面白さを知った時間だった。ちなみに、梅田を「甘くする」企画のクライマックスは、扇町の屋上にあるテント屋根の稽古場で、幕を開けたらハート型に並べられたキャンドルが灯されていて、この上なく「甘い」ムードで終わった。

劇場は油断するとすぐ潰れてしまう。HEPHALL、精華小劇場、rise-1 theater、カラビンカ、出演したり、観劇したり、稽古したりした関西のいくつかの劇場はもうないなかで、新しく劇場が出来たことがひとつの奇跡に近い。そういえば最近受けたインタビューで、自分がしたいこととして「劇場をつくる」というワードが挙がった。できるならとっても辺鄙なところに建ててみたい。

ソファに寝ながら映画「グランドブダペストホテル」を3分の1まで観た。映画館で観たはずが内容をすっかり忘れてしまっていた。劇場で観たはずの芝居の物語も少なからず忘れているが、観た体験は身体が覚えていると思う。匂い、空気、光、音、息づかい。そして、忘れられない作品に出会ったとき、きっと「観客のままでいる」ことにいてもたってもいられなくなる。私もそうだった。人生には劇場空間が必要だ。

夕方になっても体調がすぐれなかったので横になっていたが、それでも腹は減る。奮起してスーパーに買い出しに行き、レトルトに野菜を加えてハヤシライスを食べた。

20231022

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