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P.V.L.日記 父子入院15日目 手術

PVL(脳室周囲白質軟化症)から独歩をめざしリハビリ入院、
3歳児と父親が入院という名の合宿生活。
妻と交代。諸事情でリハビリは午後のみ。

5月16日(月)

2週間の父子入院期間が終了。お部屋を移動して1週間の母子入院期間に入る。その後再び1週間の父子入院期間で終了である。慣れた自宅を離れて1ヶ月。息子もよく頑張っている。昨日の夕方に両親がそろって足りない物を買い出しに行くと安心したのか食事を取る前にぐっすり寝入っていた。今日からは母子部屋で4家族と相部屋。少し環境が変わるが大丈夫だろうか。約四畳半の自分のスペースの作り込み方も夫婦で異なる。私の「居心地の良さ」に違和感を感じた妻はさっそく最適化を思案し始めていたが、昨年は独りで介添えしていたので、この空間の使い方は妻の方が熟知している。テレビ台の上が汚いと指摘が入った。

父母がそろったタイミングで主治医から今後の方針について相談と説明があった。息子はよく歩こうとしているが、股関節が硬く内股や足首が常に緊張している状態だ。その緊張を上手く使ってつかまり立ち歩きをしている。内股にしてぎゅっと閉めた時の硬さを支えにしているので、屈みがちでこわばった姿勢になる。それがこのまま進むと筋肉が縮んだまま伸びなくなり、ストレッチでも戻せず、筋肉を剥がして伸ばす手術が必要になる可能性が出てくるという。

その状態にならないためには、選択的脊髄後根遮断術(selective dorsal rhizotomy: SDR)という手術を受けることになりそうだ。体重が増え筋肉の縮みが出る前に施術するとなると4〜5歳が適齢期で、日本ではそのSDRの専門医が沖縄の病院にいるため、今入院中の病院と連携して約3ヶ月は入院することになるらしい。PVLの診断の難しいところはここである。上手く歩けそうにみえても体の使い方が健常な状態と違うため、一概に成長に伴って比例的に歩行が改善されるわけではない。かえって不具合が進行する場合もある。歩けそうに見えて息子のふくらはぎの下腿三頭筋(かたいさんとうきん)は充分に発達していないのだ。10歩歩けたことは喜ばしいが歩行の質的には喜んでばかりはいられない。

今後まずは、入院中にバクロフェン髄腔内投与(ITB)テストを行い、下半身の緊張を一時的に(約1日で元にもどる)解き、SDR後の状態に近い体にして施術判断の準備をすることになった。麻酔と注射による投与になる。聞いているだけでなかなか覚悟がいる。しかし、SDRはPVLの治療には効果があり一般的なものであるから検討したい。私はiPadを手に夢中で動画を見ている息子の背中と頭をそっとなでた。妻の心中も気になるが、昨年ひとりで歩行困難である現状を聞き情緒不安になっていたときとは違い、毅然とした態度で冷静に質問していた。

SDRについては沖縄の専門医が書いた書籍も事前に通読していたので心構えはあったが、やはりか・・・といった気分である。こんなに歩けているのだから回避できるのでは?と幾ばくか期待していたがそうもいかないようだ。
SDRは簡単に言うと脳からつながる神経のうち、悪さをして下半身を緊張させている神経を機械で特定し切断することで緊張を解く手術で、PVLが脳性麻痺の一種だと改めて理解する。手術写真などをみるとお尻の上、腰のあたりを切開していて思わず卒倒しそうになる。ただ、以前にテレビのドキュメンタリーで海外の少年がこのSDRを受けて独りで歩けるまでに回復している様子も見ているので我々親子にとっての「希望」でもある。

SDR後には、下腿三頭筋等を鍛えていくリハビリも必要だ。筋力が低い今ITBテストをすると今まで動かせていた箇所が突然ゆるむので、息子が一時的にパニックになるかもしれないことや、だらんと弛緩しきった状態の息子を見ることになるので、主治医は私たち夫婦の不安を増長しないかと心配されていた。強い気持ちを持とうと思うが、あまりにまだ現実味が持てずなんだか他人事のようにも聞こえる。不思議なものだな。

この日記を自宅で書いている。照明の明るさの違いだろか久しぶりの自宅にまったく現実味がない。これも不思議なものだな。病院の時刻はもう消灯だろう。今日から2週間ぶりに母子での就寝である。夕方にはスーパーにメロンを買いに行ったらしい。3日前から「メロン買う、メロン買う」の一点張りだったもんな。念願のメロンをほおばって息子も安心して眠れるだろう。(続く)

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