見出し画像

55日目 テラスから始めよう

「なんでおれはいっつも登ったらあかんのよ」息子にそう言われてはっとした。麻痺のある脚ではジャングルジムの一番高いところは危険だと思い込んでいた。しっかり脚を上げ、手で握り、頂上まで登り切った。「テラス席はさいこうだな〜」と自ら達成感にひたっていた。今日は、14時に幼稚園に迎えていって大阪の城東区まで。

街角に立つセブンティーンアイスの自動販売機ほどやっかいなものはない。1ヶ月ぶりにボバース病院でのリハビリだというのに「アイスを買わないならやらない」と、とうわに大泣きされてしまった。病院の入口にも「17」は立っているのである。よりによって入口にだ。もうちょっとロビー付近とかにする工夫はなかったのか。あと5分でリハビリ開始。ここまで機嫌良くJRを乗り継いで来たのに、泣きわめいて話にならない。リハビリは50分しかない。このままでは私の1時間半の通院時間が無駄になる。リハビリが終わったら買うと説得を試みるが、そこは子どもだ。全く譲歩する気配もない。リハ室にやってきた作業療法士さんも「あ、これはやばいぞ」という表情で凍り付いてしまった。

こんなときは新しいおもちゃで気を引くしかない。これまで使ったことがなかった作業療法用のブロックを持ってきてもらい軌道修正。たまたまハロウィンの日だったため、院長先生と看護師長さんがドラキュラと魔女の仮装をしてお菓子配りに練り歩いてきたのもナイスタイミングだった。トリック!or トリート!お菓子をもらってご機嫌になるとうわ。これで助かった・・・。

リハビリが終わり、寒い夜だというのアイスを買わされ、さらにとうわの暴走は止まらない。今度は帰りに、鴫野駅前にあるマクドナルドに行くと言う。「じゃあだっこじゃなく自分で歩けたら」という条件付けをしてみたが逆効果。ずんずん歩きだした。病院から駅前まで500メートルはある。健常な5歳児ならば楽に歩ける距離だが、脚の不自由なとうわには相当の距離だ。「よーさんに、ほめてもらいたいからがんばるね」と言って、こけてもこけても起ち上がった。いや、きみハッピーセットのおまけが欲しいだけやん?とも思いつつ彼の頑張りに胸を打たれる夜18時。遠くに「M」の灯りが見えてきた。

とうわは、おそらく「人生最長の距離」を歩ききって満足顔でハンバーガーに食らい付くと「クレヨンしんちゃん」のおまけをゲットしてガッツポーズ。いろいろあったけど今日は許してやろうと思っていたが、最大の難関はこの先の新大阪にあった。新大阪の駅で乗り換える途中に「プラレール」売場があるのだ。通称「電車蟻地獄」5歳にもなると売場があるのを知っているのだ。ずるずると引きずり込まれていく。いじでも買わんぞ!と攻防を繰り広げること15分。陥落。南海ラピートを手に入れ勝利し、帰りのバスで就寝。やべえ、今日もほとんど仕事する時間がなかった。

20231030

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?