ガリウム風呂
平日の休みの16時、いつもと違うことを経験したくなり、近所の銭湯に初めて足を踏み入れた。
その銭湯は、シャッター街から少し離れた場所にあり、使われているか怪しい煙突が付いた市民プールのような水色の建物だった。建物内にはコインランドリーも併設されている。銭湯の入口は一か所だが、中に入ると真ん中に仕切りがあり左右に分かれている。それぞれに下駄箱があり、左側の先には女湯の脱衣所に続く自動扉があり、右側の先には男湯の脱衣所に続く自動扉がある。
自動扉を抜けると、受付があり、おばちゃんが出迎えてくれた。脱衣所には、牛乳やジュースが入っている冷蔵庫、体重計や足つぼを刺激する踏み板、談話のためのまるいテーブルと取り囲むように配置された椅子があった。2階にも談話スペースがあるとのこと、階段の上り下りが大変なのでいかんけど。
風呂場は広々としており、体を洗う場所が約30箇所もあった。お風呂は2つあり、一つは背中にジェットが当たるお風呂、もう一つはガリウム原石湯だ。
ガリウム
以前、大病を患い急性期病棟に入院していた際、ガリウムの入った栄養剤を経管栄養で摂取していたことを思い出した。
「今日は、胃からではなく、皮膚からガリウムを吸収するのか。」
ガリウム原石湯は普通のお湯と同じで、特に匂いもなく、とろみもない。しかし、先に入ったジェット付きの湯よりも気持ちが良かった。入院中に摂取したガリウムが体内に蓄積されていて、それが皮膚に触れたガリウムと反応しているのかもしれない。
「うぉん、俺が人間ガリウムだ。」
孤独のグルメの名台詞をアレンジしてみた。
ふやけた体を十分に洗って風呂を出るのもよかったが、軽く流すだけにとどめた。体力がなくなってしまったことと、肌に付いたガリウムを落とすのがもったいなかったのだ。