毎月短歌13(連作部門)/早瀬はづき選

毎月短歌13(連作部門)の選を担当しました。印象に残った連作について投稿順に評をしていきます。


義父の一周忌/間由美

タイトル通り義父の一周忌がテーマの連作で、法要のために親戚が集まる一日を描いている。一周忌が納得の空気感と言えば良いのか、お葬式ほど重くなく、かといって死を軽視しているわけでもない絶妙な空気感が印象に残った。

一周忌は猛暑日となりポケットに塩飴いれて実家へ向かう

義父の一周忌

連作の一首目として最高の歌だと思う。タイトルを回収しながらも、「猛暑日」「塩飴」という具体的なモチーフを扱い、歌の結像性を高めることにより読み手を連作世界へスムーズに誘うことに成功している。

クッション/水川怜

すべての歌にクッションというモチーフが詠み込まれている連作。連作中のすべての歌でタイトルのモチーフを扱うタイプの連作が他にもいくつか見られたが、この形式の連作は学生短歌会ではあまり見ることがない形式だったので新鮮な気持ちで読ませていただいた。この連作では、幼稚園か小学校低学年ぐらい(?)の子どもがいる家庭でのクッションの受難を描いている。

トランポリン代わりにされたクッションはへこんだままで朝を迎える

クッション

詠み手の観察眼が光る一首。このクッションがしばらくへこんだまま朝を迎える生活が続くであろうことを予期させる、動詞の現在形終止形での結句処理が見事である。いつの日かこのクッションが正しい使い方をされる日を来ることを願うばかりである。

整いたくて・・・/汐留ライス

サウナに関する連作だろう、と読み始めたら衝撃の展開で印象に残った一連。連作中で起承転結がしっかりしていて、それも面白さを生む大きな要因の一つだったのだろう。

ああなんだ部屋より外が涼しいやだったらここを出ればいいんだ

整いたくて・・・

初読でこの歌を読んだとき、なぜかわからないが嫌な予感がとてもした。この嫌な予感はこの後の歌で結局回収されるのであるが、この歌からなぜこんなに嫌な予感がするのかは謎である。(選評を書いている今でも謎のままです。)

うねる生活/畳川鷺々

ユーモアに溢れる一連で、どの歌も読んでいて面白かった。どの歌を引くか迷ったため、欲張って二首引用する。

これティッシュじゃないよもっと水色の箱に入ってないとおかしいなにこれ

うねる生活

水色の箱に入っているティッシュといえば鼻セレブであるが、普段からあの柔らかいティッシュを使っていれば、普通のティッシュはティッシュではなくなってしまうのだろうか。結句の「おかしいなにこれ」の畳み掛けがこの歌の面白さを増幅させている。

こだわりの強い店主のこだわりの麺がこだわりのスープに沈む

うねる生活

もはやここまで「こだわりの」とダメ押しされると、たちまち皮肉の様相を呈するのが面白い。そう思ってこの歌を読み返すと、「こだわりの強い店主の」の時点で皮肉のまなざしが少し感じられて二度美味しい歌だった。

たたかわないで眠る/うすいまゆ

うまくいかない人間関係を感じた一連。全体を通して歌の平均値が高いのであるが、特筆するべきは最初の二首であると思う。

真昼間に目を閉じるとき透きとおる夜の布だとおもう瞼は

たたかわないで眠る

目を閉じても、光が当たっているかどうかは瞼越しであっても感じることができる。それを「透きとおる夜の布」であると表現するのがなんとも美しい。

眠たさとたたかわないで眠る日のナイフを離すようにひらく手

たたかわないで眠る

第二句の「たたかわないで」が第四句の「ナイフ」という比喩への展開をサポートしてくれる。措辞やモチーフから感じる恐ろしさに対し、実際の動作の静かさがなんとも不思議な読後感をもたらしてくれる。

托卵/小仲翠太

ホトトギスとウグイスの関係を説話のように描いた連作。紙芝居のような印象を受けた。この連作でホトトギスがウグイスの巣に托卵するということを初めて知った。

その声は谷へ里へと木霊して法法華経とみなを慰む

托卵

「木霊」「法法華経」の表記がスピリチュアルな感じを演出しており、連作全体の説話感の演出に一役買っている。

八月/檜山省吾

こちらも『クッション』と同じく連作中のすべての歌に「八月」というモチーフを取り入れている連作である。連作中のどの歌も文語が上手くはまっており、どの歌をとっても巧いという印象を受けた。

碧玉のからすあげはは八月の昏みよりいで昏みにし消ゆ

八月

文語の短歌には、こういった細やかな発見をも美しく見せることができるという強みがある。「にし」という文語らしい助詞を上手く扱うことで、連作全体に高潔な空気感を演出している。

印象に残った一首

ひとすくいラムネに海をいれたならほんのり色がみえた気がした
/りんか『みずいろ』

噴水のひかりの粒はゆるやかに揮発していく真夏の空に
/まちのあき『ひとなつ』

ふたりでも入らなかったビアパブで町の名を持つビールを空ける
/りのん『散骨』

ここにいる微熱のかたまり私です昔を想うかしこい石です
/山田種『37度』

チューニング 空の向こうに合わせてもノイズだらけで繋がらないの
/さんそ『星に願いを』

透明な傘は日陰をつくれない僕たちずっと守られていた
/西見伶『透明』

愛ゆえに熱を帯びたる瞳には食材として映ってみたい
/睡密堂『ハブとマングースとわたしたち』

メイベルの腕を縫ういとあかるくて星は君らのための爆弾
/妄想機械零零號『テロリストのメイベル』

君の手と同じ温度がぎゅうぎゅうに満ちているらし八月の午後
/ぐりこ『36.6℃』

占いで息子が画家になるという結果に父は何を思うか
/いちかわゆうた『13425日分の物語』

声高に命を叫ぶ者たちはタンパク質の区別が出来る
/インアン『寄生中毒』

幾枚も呼吸重ねて眠りゆく子よ遠雷を夢に招くな
/葦原真魚『子守歌』

片耳を塞いで流れ出す曲のテンポで足が速まっていく
/せんぱい『モノラルの街で』

50cmの角もつ牡鹿 伸びてゆく力が自然なんだな 人も
/入谷聡『八月の鹿』

五線譜のページをめくる秋の風付け足されたばかりのフェルマータ
/古井朔『五線譜』

水切りがバグったみたくとんであと2回跳ねたらなくなる記憶
/微円『ひみつのかぎ』

雨雲の裏で天使がくたびれた星にひかりを配っています
/きいろ2号『むすんでひらいて』

洋梨を両手で丸くつつむように秘密をまもる近代都市の
/onwanainu『赤星病』

花ひらくときの痛みを知りてのち深くつながるぬくもりを知る
/碧乃そら『ゆめむし』

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