ダンサーインザダーク

「すごく上手よクヴァルダ。心の声を聞けばいいの」
「クヴァルダって呼ぶのやめて」
「だって私にはクヴァルダよ」
「これなら機械は問題なく扱える。工場にはそのように書いておくよ」
「ええ……ありがとう」
「台本を持ち込んじゃダメだよ。機械から目を離すな。いいね」
「ええ……了解」
「どうして学校行かないの!」
「あー……やっぱり……」
「行かなきゃダメだって言ったでしょ!……わからないの!?……勉強しなきゃダメ!」
「ねぇ…セルマ…もういいでしょう…」
「前にもみんなで話し合ったよなあ。覚えてるだろジーン」
「あの車泥棒たちと付き合ってるんでしょう!?」
「それがなに!」
「セルマ……この子も反省してる」「ねーぇほら」
「……これは何より大事なことなの。学校行かなきゃダメよ」
「ありがとう。でも、……あたし自転車で帰る……じゃあねジェフ」
「ね、もっとケチャップかける?」
「いらない」(食い気味)
「…………疲れちゃった?」
「なんで……なんでいつもそういう……つまんないことばっか聞くの?」
「あ、リンダ」
「はーいジーン。元気? ダンスはどう?」
「あー……順調よ、えぇ。とても」
「よかったらビルも帰ってるし、家で一緒に音楽でも聞かない?」
「…………あぁ……そうしたいけど、……でも、悪いから」
「なんでーいいじゃない」
「えぇ……じゃあ……行こうか……おいで」

「ビルに遺産のこと何か聞いて。その話するとリンダ喜ぶから」
「まだチェコにいたとき……映画を観たの。こういうの食べてた。缶に入ったこれとおんなじようなキャンディ。それで、わたし思ったの。……アメリカって国はなんて……素敵なとこだろうって」
「そう~? この家が映画みたいって思うのっっゥフっっこの家が映画みたいですって!」
「君は映画スターだ」

「ビルはたくさんお金をくれるの……すごく」
「ええ、知ってる……遺産をうーんと相続したからでしょ。ビル」
(ジーンが「おいオカンなにをべんちゃらいっているのだ」みたいな顔をする)
「そうよ!」
「……そうだ」
「難しく考えすぎよ、キャシー」
「あーーまた始まった」
「ほんとはあなたそういう人じゃないと思う」
「どうかしら。……場合による」
「クヴァルダっ」
「なんでそう呼ぶのー」
「イメージよ。なんていうか……」
「なに?」
「なんだろう……大柄で幸せで…」
「わたし太ってないわよーそれに、幸せかしら」
「誰かがついてなきゃダメね」
「そんなお金ないの」
「でも……クラスで自転車持ってないの僕だけだよー……スクーター持ってる子だっているのに」
「お金ないの知ってるでしょ……ちょっとでも余ったお金は全部、貯金して送ってあげなきゃいけないし、…おじいちゃんに。この子に贅沢させるわけにはいかないの」
「自 転 車 だっ !!」
「あんなのもらえない!!」
「セルマ。ただの中古品よ」
「あんな高価なものやれないわよ! 誕生日が来たってあんなのやれない! あの子を甘やかすだけよ! そういうのヤなの!」
「すごくうれしそうねぇ……」
「あぁほんとう」「ああいうふうに笑ってるの久しぶりね」
「ほーら戻ってきた」
「あぶなーい」「こっちおいでー」
「かあさーん(懇願)」
「これでダメだなんてかわいそうよセルマ」
「……いいわ」
「ジーン、今の聞こえた?」
「今いいって言った!?」
「そうよ! うはは」「お許しが出たぞ」
「「「あはは うはは あはは」」」
「ちゃんと学校行くのよ」
「わかった!」
「いい……? 毎日……遅刻せずに」

「あんな上手に乗れるなんて知らなかった……!」

「錆と女はおんなじだ」
「はははえっへっへっ錆と女は同じ?」
「親父の口癖でさ……どういう意味かさっぱりだ」

「やさしい人じゃないの。わかってるぅ? ジェフが全部やってくれたのよ いい人だわぁ。ありがとうジェフぅ!」
「いや……どういたしまして」
「僕は一文なしだ。相続した金を使ってしまった。全部。……でもリンダは、…………彼女……次から次にものを買うんだよ…………僕の給料じゃとても払い切れない。……でもやめろと言えない。銀行に家を差し押さえられる。…………支払いがずいぶん遅れてて……そしたら…リンダは出ていく……わかるんだ……きっと出ていく……」
「リンダはあなたを愛してる。……ねぇ泣かないで」
「君に愚痴るなんて」
「いいのよ」
「情けないよ」
「いいの!……気にしないで」
「君の方こそ……大変なのに」
「だったら私も秘密を話したら気が楽になる?」
「秘密ってどんなこと?」
「………………わたし失明するの。…………まだ平気。……でももうすぐ、…………たぶん今年中に……」
「……失明?」
「……でも、そんなにショックじゃないの。……これ、うちの遺伝だから」
「……でも失明だ」
「ずっとわかってたの。そう。ちっちゃいときからいつかは失明するって……」
「大丈夫か?」
「実は、……アメリカにやってきた理由はね……こっちの病院なら手術してもらえるからなの。ジーンに」
「ジーン?」
「あの子はまだ知らないの。……おねがい。絶対言わないで。心配すると目に悪いの。だからわたし貯金してるの。ずっと。たくさんいるんだけど、あともうちょっとなの。……ほら、手術の費用。十三歳になったら手術受けられるのよ」
「じゃあお父さんに送金してるって話は……」
「……わたし父親はいないの。名前もでっちあげ」
「それでこうやって夜遅くまで一生懸命内職してるのか…………ジーンの……手術のために…………!」
「……私のせいだもん。……だから」
「なんで君のせいだ」
「……だって、……わかってたのよ。私みたいに目が悪くなるって。……なのに、……産んだ」
「……強い人だな」
「……強くなんかない。……あんまりつらくなると私ちょっとした遊びをするの…………工場で働いてるとね……機械がいろんな音を……刻むの……リズムを…………たちまち夢の世界が始まって音楽が鳴り響くの」

「映画見るのは好き?」
「ああー大好きだよ」
「どんな映画?」
「特にミュージカルだな」
「……でしょう? タップダンスとか?」
「ぅいーねータップダンス…! みんながスクリーンいっぱいにズラっと並んで……ああいう映画に出てみたいと思わない?」
「えぇ……!」
「足を思いっきり蹴り上げて」
「えぇ……!! それでぐるぐる駆け上がっていくの……すごく巨大なウェディングケーキを……!」
「ああ…いいねぇ…!」
「てっぺんまで!」
「ああ…!」
「でも最後の歌ってすごく嫌な気分になると思わない?」
「なんで?」
「だって……音楽が盛り上がってくるでしょう…? それでカメラが上がるの。……屋根の上まで。もうすぐおしまいだって悲しくなる。……すごく嫌。我慢できない」

「チェコにいた頃、まだ子供の頃だけど、私いいこと思いついたんだ」
「なに?」
「出ちゃうの。先に。映画館。最後から二番目の曲が終わったらすぐに。そしたら、映画は永遠に終わらない。……いい考えでしょ」
「素敵だねぇ…!」
「なんでアメリカにいる? チェコがそんなにいいならなんでこっちへ来た?」
「医者をだましたでしょ。プレス機扱うなんて危険よ無茶よだいたい、どれくらい見えるの!?」
「仕事は目をつぶっててもできる。あなたもでしょ?」
「いいえ!」
「ちょっと空想に浸ってただけ」
「空想って……!? どういう空想なの!?」
「あのー……音楽が聞こえるの」
「ちょっとセルマ待って音楽!? そのうちあなた手を切断するわよ一瞬でも気を抜いちゃダメなの! ……二度としないって約束して!」
「……ええ、わかった二度としないって約束する」
「その言い方ぁ口先だけでまるでわかってない……! 人が心配して言ってるのに」

「やあセルマ。キャシーと帰らないんなら送ろうか?」
「恋人は欲しくないの。前にそう言ったでしょ?」
「ああ……」
「そりゃあ、あなたはとてもいい人よジェフ、でも男の人と付き合ってる暇はないの。……今はね」
「……わかってる」
「もし誰かと付き合うとしたらあなたよ。でも今は誰もいらない」
「……………ああ……それはわかったから、自転車、後ろに積んでやるよ」
「ええ。………………いいの。それじゃあね」
「なあ……危ないからやめといた方がいいって! 自転車なんて。眼鏡もかけてるし! セルマ!」
「さよならジェフ!」
「なあ!」
(案の定トラックに轢かれそうになる)
「大丈夫か!?」
「ええ、大丈夫」
「次の支払いさえなんとかなれば時間が稼げる」
「そうね」
「その分さえ工面できたら……………………一か月でいい!」
「ジーンのお金なの……ごめんなさい……」
「悪いのは僕の方だ……」
「そんな気にしないで。聞いてみるのは自由よ」
「いやあ僕がバカだった。リンダがソファが欲しいって……………………いっそ自殺でもするか……」
「そういうこと言っちゃダメよ」
「でも……そうすれば……楽になる……」
「やめてビル」
「ああわかってる」
「死ぬなんて言っちゃダメ」
「冗談さ」
「私お家賃もっと払う。あそこ借り始めてからずっと同じ金額でしょう?」
「ダメよセルマ。今のままでいいの。あなたは私達よりお金がいるんだから」
「二箱……? あなた今度はいっぺんに二箱もやろうって決心したわけ?」
「ええ……」

「セルマ。じゃあ十時に」
「ええ十時ね!」

「十時に何があるの?」
「あたし、夜勤もやることにしたの」
「夜勤も!?……昼間でもろくに見えてないんでしょ」
「ちょうどいいのよ。芝居の稽古の後だし」
「芝居もやる気なの!?…………あきれた人! もう知らない! 好きになさい! ご自由に! 夜勤に出て首でも折るといいわ!(意味深) でも私の助けは一切、あてにしないでちょうだいよ!」
「セルマ! キャシーなら帰ったよ」
「キャシーを探してるんじゃないの。あなたを探してたの。これから芝居の稽古に行くんだけど、送ってもらえる?」
「自転車は? いつもあそこに止めてたろ?」
「あれ……家に置いてきた。歩いた方が早いかと思って」
「なんで早いんだ……?」
「だってほら……線路に沿ってずっと来れば……その方が……近道なの」
「……?」

「でも、ミュージカルってよくわからないよ。……なんで突然歌いだしたり踊りだしたりするんだ? 僕はあんな風に、突然歌ったり、踊ったりしない」
「ええ。……確かにそうね」
「君の代役を紹介しよう」
「代役……?」
「……ああ。ボリスの知り合いでスーザンって言ってねぇ。歌もうまいし、踊りもうまい」
「そう…」
「彼女に代役を頼む。だって、……もし君が風邪でもひいて、……やれなくなっても、舞台に穴はあけられないだろ? いいね」
「スーザン。セルマだ。セルマ。スーザンだ。……あー、……眼鏡外してくれるかな」
「……」
「マリアの役は眼鏡なしで行こう。今度の日曜は、この二人に、マリアをやってもらう。ほんとのマリア役はセルマだけど、君にも加わってもらいたい。……いいね」
「夜勤は今日が初めてなんでしょ」
「ええ」
「ここでプレスかけながらぁ、こっちの裁断機も動かして。わかるわね。二つの機械を同時に受け持つの。できたのはあそこにいるサラがもらうから。この山をカラにしないことね」
「いつもこんなに暗いの?」
「なに?」
「いつもこんなに暗いの?」
「昼間と変わらないはずよ」
「あー……そう……」
「違うのはテキパキやらなきゃだめってこと。それでお給料もらうんだから」
「ええ」
「いい?」
「ありがとう」
「君は夜勤に入れてないよキャシー」
「ご心配なくノーマン。これは私の自由時間よ。どこで私が何しようと私の勝手!」
「踊ってる時のあなたが好き。踊ってよ。クヴァルダっ」
「音楽があれば踊ってあげるわ」
Clatter, crash, clack!
Racket, bang, thump!
Rattle, clang, crack, thud, whack, bam!
Clatter, crash, clack!
Racket, bang, thump!
Rattle, clang, crack, thud, whack, bam!

It's music!
Now dance!
Listen, Cvalda
You're the dancer
You've got the sparkle in your eyes
Look at me, entrancer!

Clatter, crash, clack!
Racket, bang, thump!
Rattle, clang, crack, thud, whack, bam!

The clatter-machines
They greet you and say
"We tap out a rhythm and sweep you away!
A clatter-machine
What a magical sound!
A room full of noises
That spins you around

Darling Selma
Look who's dancing
Faster than a shooting star!
Cvalda's here!
Cvalda sings

Clatter, crash, clack!
Racket, bang, thump!
Rattle, clang, crack, thud, whack, bam!
Clatter, crash, clack!
Racket, bang, thump!
Rattle, clang, crack, thud, whack, bam!

The clatter-machines
They greet you and say
"We tap out a rhythm and sweep you away!
A clatter-machine
What a magical sound!
A room full of noises
That spins you around

It spins us around
It spins us around
It spins us around
「よし! それじゃあ、こうしてみようかセルマ。そのあと続いて、ボリスの周りをステップしながらまわるんだ。他にいいアイディアがあるんなら聞くよ…………言ってくれ」
「……サミュエル」
「なんだい?」
「ちょっと話があるの」
「なぁセルマ。ドラマーのことなら今あちこちあたって探してるよ。約束した通り…」
「そのことじゃないの!…………ドラマーのことじゃない」

「あのー……私マリアの役降りる」
「えぇ!?」
「…………もうひとつやる気が出ないの。ていうか、せっかくの時間を無駄にしたくないのよ。それほど、……大事とは思えないことで……………………あたしスーザンのこと見てたけど、……彼女、……素敵よ、ほんと。…………素晴らしいわ……ダンスだって私よりずっと上手」
「最高さぁスーザンがうまいってことは否定しない。だけど、ミュージカルは君の生きがいなんじゃなかったのか? それとも君は嘘をついてたのか?」
「そう……私、嘘ついてたの」
「他の役と言っても、キャストはもう全部決まってるし」
「ええ……」
「ひとつ……年老いた修道女の役が残ってる。……マリアを修道院から逃がすんだけど、ダンスは全然ないし、興味ないだろ」
「……お堅い修道女なのね」
「その通り。……重々しさがないと」
「そぅ……ダンスも全然なし?……そぅ……」
「でも少しなら入れてもいいかもな」
「ほんとうに!」
「ふっふっふっ考えてなかったけどね……タップを入れてみるか」
「彼女だって少しぐらい、ユーモアがあってもいいわよね。修道女だろうと」
「君は僕の理想のマリアだ」
「一日つぶれた。機械が壊れると全部ストップする」
「あ、あたし仕事はちゃんとやれるわ。昼間だけにしておけば平気よ。もう二度と壊さない。すぐ空想にふけっちゃうの。やめようって決めたんだけど、……忘れちゃってたのね……あの時は」
「君を解雇しろってさ………………機械は弁償する必要ない。話はつけといた」
「そう……ありがと」
「これ……給料だ………………それと……なにか仕事を考えてみるよ。機械操作以外の。……目が悪くてもできることをね」
「ええ」
「すぐは無理だ」
「やさしいのね、ノーマン。……でも私、……大丈夫だから。なんとかやれる。……どうもありがとう」
「ああ、こっちこそ」
「じゃあね」
「列車よ、ジェフ。線路から離れて。危ないから気をつけて。はじっこによって」
「……………………目が見えないのか?」
見るべきものなんてあるの?

I've seen it all, I have seen the trees
I've seen the willow leaves dancing in the breeze
I've seen a man killed by his best friend
And lives that were over before they were spent
I've seen what I was and I know what I'll be
I've seen it all — there is no more to see

You haven't seen elephants, kings or Peru
I'm happy to say I had better to do
What about China? Have you seen the Great Wall?
All walls are great, if the roof doesn't fall

And the man you will marry?
The home you will share?
To be honest, I really don't care

You've never been to Niagara Falls?
I have seen water, it's water, that's all
The Eiffel Tower, the Empire State?
My pulse was as high on my very first date
Your grandson's hand as he plays with your hair?
To be honest, I really don't care

I've seen it all, I've seen the dark
I've seen the brightness in one little spark
I've seen what I chose and I've seen what I need
And that is enough, to want more would be greed
I've seen what I was and I know what I'll be
I've seen it all — there is no more to see

You've seen it all and all you have seen
You can always review on your own little screen
The light and the dark, the big and the small
Just keep in mind — you need no more at all
You've seen what you were and know what you'll be
You've seen it all — there is no more to see
「目が見えないのか?」
「じゃあ三時に!………………見えるわよ!」
「ジーンまだ帰ってないわよ」
「ビルに話があるの」
「今日は彼休みをとって、銀行へ貸金庫とりにいってきたわ」
「……今、上にいる?」
「全部知ってるのよ、セルマ。ビルに聞いたわ。もう出てってちょうだい」
「どういうこと? 何を聞いたの?」
「……彼を誘惑したんでしょう? トレーラーに誘われて迫られたけど、断ったって言ってたわ!」
「……」
「なんとかいったらどうなのよ」
「いい……ビルと話す」
「はーいビル」
「……トレーラーに入っていくところを、……彼女見てたんだ…………それで君に誘われたんだって言った。……君が……僕に惚れちまったんだって……」
「知ってる。今聞いた」
「彼女になんて言った?」
「なにも」
「嘘だって言わなかったのか?」
「内緒の約束でしょう?」
「……」
「今日銀行へ行ってきたんだって?」
「支払いを伸ばしてもらおうと思って…………でも言えなくて…………かわりに貸金庫を持って帰った。……ここで僕が金庫を前にしてると喜ぶんだよリンダ……」
「でも中身は私のお金。……そうでしょ?」
「……」
「自分のだってふりをしてるだけ」
「……」
「それ私のお金よ。返してもらいたいの」
「そりゃもちろん返すよ。…………ちゃんと返すさ。ああ……一か月したら返す」
「それまで待てないのビル」
「セルマ」
「あたし、今日の午後、……先生に、手術代払いに行くの。……ずっと貯金してきたけど、もうできなくなったの」
「ジーンが十三になるのはクリスマスの後だろ」
「缶のなかには、二千二十六ドルと、十セント、あったはず。……今は数えられないけど信用する。それと今日、もらったお金が、三十ドル。それに足して、二千五十六ドルと、十セント。これでなんとか、……頼むしかない」
「セルマ……」
「さよなら」

「セルマ……待って。…………君に銃を向けてる」
「……そんなの嘘よ。……脅かしてるだけ。銃なんて見えない」
「セルマ……待て……これを触ってみろ、ほら! 触れ! どうだ! …………嘘じゃないってわかったか?」
「わかった…………でも私のお金……」
「違う……僕の金だ。僕が金庫に入れた金だ! それを君は盗もうとしてる。…………セルマ! セルマ! セルマ、やめろ! セルマ!! やめろ!! リンダ!! リンダ!! リンダ!!!」
「どうしたの? ビル?」
「セルマが金を盗んだ」
「銃が引き出しにあって……知ってて突然……」
「誘惑したのはお金目当てなの!?」
「リンダ、車の中に手錠がある。急いでとってこい
…………………………金を出せ。……金を出せ。……金を出せ。逃がしてやるから」
「どこへ行けっていうの?」
「金を渡すんだ。……セルマ。早く金を出せ。…………出せって言ってるだろ……よこせっ……!」
「いやぁぁっ! いやぁぁっ! いやぁぁぁっ!」
(バン!)
「うおわっっ!!」
「!!」
「撃ったな………………なんでだ………………いいやセルマ…………よくやった…………そうさ、これでいいんだ………………殺せ…………殺してくれ…………僕たち友達だろ?…………頼むから僕を助けると思って……殺せ……! 頼む……なあセルマ頼む後生だから……!」
The time it takes a tear to fall
A heart to miss a beat
A snake to shed its skin
A rose to grow a thorn
Is all the time that's needed
To forgive me
I am so sorry
I just did what I had to do
I just did what I had to do
I just did what I had to do
I just did what I had to do
Why do I love it so much?
What kind of magic is this?
How come I can't help adore it?
It's just another musical

No one minds it at all
If I'm having a ball
This is a musical

And there's always someone
To catch me
There's always someone to catch me
There's always someone to catch me
There's always someone to catch me
When you fall
「被告人は、……近年記憶にあるうち最も残忍な手口で、計画的に人を殺害しました。彼女は、基本的に、利己的な、性格です。卑劣にも障害は、人々を欺く道具、周囲の人間への思いやりは、まるでありません。移民である彼女を、支えたのは、人々の信頼と友情です。しかしながら彼女は、そうした親切に裏切りと盗みと、殺しで報いたのです。自分を温かく迎え入れ、住む場所をくれた恩人を、裏切った。……陪審員のみなさん、……彼女は、冷酷な犯罪者です。数々の証拠がそれを明らかにしてくれるでしょう」
「記録のために、氏名を述べてください」
「セルマ・イエスコバです…」
「ヒューストン夫妻とは、友人だった。そうですね」
「……はい」
「彼らの敷地にあるトレーラーを借りて暮らしていた」
「……はい」
「夫妻は仕事に出るあなたのかわりに息子の面倒を見てくれた」
「……はい」
「最近彼に、バースデイプレゼントまで買ってくれた。そうですね」
「……………………そうです。自転車を……」
「なるほど。あなたは、目が見えないと言っている。お医者さんは逆の証言をしていますがね。目が見えないのに、三十四ヶ所も傷を負わせるとは驚きだ。……そもそもなぜ彼を殺したんです?……あなたにあえてお伺いしたい」
「……………………彼に頼まれて」
「彼に頼まれた! 不思議ですねえ順調に出世して財産もあり結婚生活も円満、……そんな彼が、なぜあなたに殺してくれと頼むんです?」
「………………内緒の約束なんです」
「ああー、だったら仕方ありませんねえ約束したんですかあ。理由は言わないと。そうなると、あなたが主張している通り、あの日あなたが奪っていった金は、なぜ同じ日に被害者の貯金も消えたのかはさておき、もともとあなたのものだったと信じるしかない。それで、その金はどこで手に入れたんです?」
「……………………それは、……ずっと貯めてたんです」
「まぁ普通ならそうでしょうね。……ではいったいなんのために貯めていたんです? 息子に誕生日のプレゼントすら買ってやらないあなたが、いったいなぜ?」
「…………それは………………」
「なに?」
「…………あの…………チェコにいる………………父に送るためです」
「お父さんねえ。……それで、お父さんの、名前は?」
「…………………………な、名前は、…………オルドリッチ・ノビィ」
「つまり、……こういうことですか。あなたが三十四ヶ所も傷を負わせてビル・ヒューストンを殺害したのは、彼に頼まれたから。しかも犯行当時、あなたは視力を失っていた。それに彼から無理矢理奪っていった金は、もともとあなたのもので、故郷のチェコに残してきた父親に送るために、貯めていたものだった。オルドリッチ・ノビィという男性に。……そうですね」
「……………………は…はい」
「どうも、イエスコバさん。……………………陪審員のみなさん、先ほど聞いた、被告の証言に、嘘偽りはないと、信じましょう。父親の名前に関する、証言もです。彼の名前は、オルドリッチ・ノビィ。……裁判長。検察は次の証人の出廷を求めます。……オルドリッチ・ノビィ氏です」
Why do I love you so much?
What kind of magic is this?
How come I can't help adore you?
You were in a musical

I don't mind it at all
If I'm having a ball
This is a musical!

And you were always there
To catch me
You were always there to catch me
You were always there to catch me
You were always there to catch me
When I fall...

I don't mind it at all
If you're having a ball
This is a musical!

And I will always be there to catch you
I'll always be there to catch you
I'll always be there to catch you
I'll always be there to catch you
I'll always be there to catch you
You were always there to catch me
And there's always someone
To catch me
You will always be there to catch me
You were always there to catch me

When I'd fall...
「さっき聞いたわ……最高裁の判決……」
「ええ……それよりキャシー。大事なお願いがあるの。…………ジーンの誕生日に、……あの子に手紙がくるの。……とても大切な手紙だから……じっくり読むように言ってやって。そばについててやってほしいの。……あたしは行ってやれないから、その時、……怖がるかもしれない、……あの子……でも何も怖がることないの」
「ジーンがどうしてもあなたに会いたいって言うのよ……会ってやって」
「…………会ったってしょうがないわ……あの子にはあなたがいる。…………もうひとつお願い。……あの子にノビィって名乗らせて。すごく大事なことなの。ふざけて、ふざけて言ってるんじゃないよ」
「ノビィ? でもなんで?」
「このことずっとあなたに黙ってて悪かったけど、あたし言えなかったの。全部台無しになるから」
「だけど、なんでノビィって名乗らなきゃいけないの!?」
「もうそれ以上聞かないで。……クヴァルダ」
「ジーンに……伝言をちょうだい……!」
「…………だめ」
「息子さんを愛してるのね」
「何より愛してる」
「私も息子がいるの」
「初めて聞いた…………おやすみブレンダ」
「おやすみ」
「息子さんによろしく伝えて」
「ええ、ありがとう」
「いい知らせがあるの」
「なに?」
「新しい弁護士よ。彼が再審請求出してくれるって。前の弁護士は無能だって言ってたわ」
「どういうこと?」
「……裁判がやり直されるのよ。死刑にならなくて済むの」
「ほんとに……?」
「ええ。新たな事実がわかったから」
「事実って?」
「全部知ってるのよ、セルマ。なんで話してくれなかったの。あなた、……ジーンの手術代を貯めてたんでしょう?」
「………………なんでわかったの?」
「ジェフが先生に会ったのよ」
「ジーンも知ってるの?……あの子にしゃべったの?」
「いいえ。言ってないわ」
「でもこれで裁判は有利になる!」
「あの子に言わないでキャシー。…………心配すると目に障るの……手術しても無駄になる」
「ええ……わかった。だけど、息子を失明させまいとしていたんだって証明できればあなたは助かるのよ! 弁護士さん、面会に来るって。二週間後に」
「でもキャシー、……刑の執行は一週間後よ……」
「知ってるけど延期を申請できるらしいの。たいてい、一度は認められるって。…………笑顔を見せてよ…………セルマ」
「ええ……もうどうにかなりそう………………強いつもりだったけどもう耐えられない……」
「延期を申請なさい」
「ここって静かすぎる……」
「それがどうかしたの?」
「…………あたし工場で働いてたときにね……よくミュージカルに出てた空想をしてたの。だってミュージカルなら、恐ろしいことは絶対起きないでしょう?…………でもここは静かすぎる…………囚人で行進したりとかしないの……?」
「行進? いいえ」
「ほんとう?」
「しないわ、行進なんて。……たしかに、ここはあまり音がしないわねぇ」
「……でもたまにラジオをつけてるでしょう?」
「いいえそんなことないわ。独房ではラジオ、禁止されてるのよセルマ」
「……換気口の前で耳を澄ましてるの。……いつも。そしたら時々、歌声が聞こえるのよ。……讃美歌みたいな…………あれ聞くのはべつに禁止じゃないでしょ」
「ええ……もしかしたら、……チャペルで歌ってるのが、聞こえてくるのかもしれない」
「チャペル……?」
「お説教も聞けるかも」
「そうね……!」
Raindrops on roses and whiskers on kittens
Bright copper kettles and warm woolen mittens
Brown paper packages tied up with strings
These are a few of my favorite things

Cream colored ponies and crisp apple strudels
Door bells and sleigh bells and  with noodles
Wild geese that fly with the moon on their wings
These are a few of my favorite things


When the bee stings, when the dog bites
When I'm feeling bad
I simply remember my favorite things
And then I don't feel so sad
「セルマ……延期されたわ……! 延期されたっ……! よかったわねぇ……!」
「僕には、自信がある。必ず、刑は軽くなるよ。君は再審請求の書面にサインをするだけでいい。そうすれば、一日で必要な書類を揃える」
「……ええ」
「前の弁護士がやらずに済ませてしまったことが、たくさんあってねえ。今度は彼が取り上げなかった論点もしっかり訴える。君は息子さんのために頑張っていた。その点を主張すればいける。僕は、よく似たケースも過去にも扱っていしねぇ」
「前の人もおんなじこと言ってた」
「ああ、そうか、……彼は、公選弁護人だったからねえ。最高の弁護士に当たるとは限らないんだよ」
「じゃあ、あなたは公選じゃないの?」
「僕は公選ではない」
「そう」
「君から報酬をもらう」
「…………」
「でも、心配はいらない」
「ほんと……?」
「もう話はついてる。君の女友達と相談して」
「相談……」
「そう、報酬についてねえ。……彼女が工面できた額だけ、受けとることで同意した」
「……………………………………それって…………そ、それっていくら……?」
「端数まで言えるよ、まとめて封筒でもらったんだ。えーっと、全部で、二千、えーっと、……」
「二千、五十六ドルと、十セント……」
「そう、当たりだ」
「…………」
「だって来月手術してもらわなきゃ手遅れになるのよ! 一生目が見えなくなるの! だから頑張ってきたのに! あの子には孫の顔を見てほしいの! わからない!? それだけが私の人生にとって、大事なことなの! なのにあなたちっともわかってない! こんなことに使うなんてお金をドブに捨てるようなもんよ! 私はどうせ一生刑務所にいるしかない盲目の女よ!」
「でもあの子には必要なの! 母親のあなたが!」
「なんでわからないの!? 必要なのは目よ!」
「いや、母親よ!」
「っっっちがう!!」
「ちがわない!!!」
「ちがうぅう!!!」
「お願いだから聞いて! セルマ! セルマ……!」
「自分の心の声を聞く……」
「だったら私警察に行って言うわよ。お金はビルから盗んだんだって。……ほんとよ! 嘘じゃない! みんなにそう言ってくる! あなたは盗んだんだって。そしたら二度とお金は戻らないわ。取り上げられておしまい! 手術はなし! 母親も死んでなんにも残らない!」
「ジーンが君にありがとうって」
「……なんのこと?」
「……そのー……誕生日プレゼントの……マンガ……」
「あたしからって言ったの? あなたが買ってやったんでしょ? もうそういうことしないでジェフ」
「だったらせめて……電話くらい…………ひとこと……なんか……言ってやれよ」
「いいえ。あの子のためにならない」
「ジーンが、言ってたんだ。自分も立ち会いたいって。みんなと。…………だけど……ダメだって言われたよ……幼すぎるって」
「……誰があの子にそんな入れ知恵したの?……あたしは来てほしくない」
「よかったら、僕は行く」
「キャシーも……?」
「キャシーは、ああいう人だろ? まだ怒ってる」
「もしあなたさえ平気なら、……あなたには来てほしい」
「…………」
「泣かないでジェフ。泣かないで大丈夫だから……ジェフ……」
「…………なんでジーンを産んだ? 同じ病気になるって知ってたんだろう?」
「……………………赤ちゃんを抱っこしたかったの……自分の腕に……」
「愛してる」
「セルマ」
「足がすくんじゃってうまく動かないの」
「大丈夫歩ける。……いい考えがあるの。……一緒なら立てる?」
「ええ」
「私が音を立てる。あなたの気が紛れるように。いい?」
「百七歩あるくのね……」
「行進の音よ」
「一歩も無理」
「頑張って」
「ダメ歩けない……」
「音を聞いて。一歩を踏み出すの」
「ジーンは外にいるわ! これをあなたに渡してって!」
「じゃあ手術したのね…」
「これで孫の顔が見られる…! すぐ外にいるわ! あなたよくやった!! 心の声を聞いてぇぇぇぇ」
Dear Gene,
of course you are here
and now there's nothing to fear

Oooh, I should have known
Oooh, I was never alone

This isn't the last song
there's no violin
the choir is so quiet
and no-one takes a spin
this is the next to last song
and that's all
all

Remember what I have said
remember, wrap up the bread
do this, do that, make your bed

This isn't the last song
there's no violin
the choir is quiet
and noone takes a spin
this is the next to last song
and that's all
"They say it's the last song
They don't know us, you see
It's only the last song
If we let it be"
Train-whistles, a sweet Clementine
Blueberries, dancers in line
Cobwebs, a bakery sign
Ooooh - a sweet Clementine
Ooooh - dancers in line
Ooooh ...
Halfway to heaven from here
Sunlight unfolds in my hair
Ooooh - I'm walking on air
Ooooh - to heaven from here
Ooooh ...
If living is seeing
I'm holding my breath
In wonder - I wonder
What happens next?
A new world, a new day to see

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