スタンダール『赤と黒』

 熱情的な心とともにジュリアンは、極めてしばしば愚鈍と結びついている、あの驚くべき記憶力の一つをもっていた。
 「収人(もうけ)になる」これこそヴェリエールにおいて万事を決定する重大な言葉である。そしてまたこれだけの言葉によって、いつも大多数の住民の脳裡にあることが言いつくされているのだ。
 「収人になる」 この言葉が、諸君の眼にはあんなに美しく映じたこの小都会において、万事を決定する規準となるのだ。町をめぐるさわやかな深い谷々の美に心をひかれてくる他国のびとは、最初この町の住民は「美」に対する感受性に富んでいると思う。事実彼らは自分たちの国の美しさをしょっちゅうロにしているのだし、彼等がその美しさを大いに尊重していることは否定できない。だが、それはこの風景美が、他国の人々を引きつけて、その落す金で宿屋がもうけ、またそれが入市税というからくりで町に収益をもたらすからに他ならない。
蜉蝣は真夏の朝九時に生まれ、その夕方の五時に死ぬ。どうして夜という言葉を理解できようか?


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