三つの悪
一
夢を見ていた。朝方、夢の終わりに、わたしは岬の上に立っていた。──世界の彼方で、秤を手にして世界を量っていた。
おお、あまりにも早く朝やける光がさしてきて、その灼熱でわたしを起こした。曙光、この嫉妬深い女は、いつも朝まだきのわが夢の熱を妬む。
時間をかければ測ることができ、よい秤があれば量ることができ、強い翼があれば果てまで飛んで行くことができ、神のごとく胡桃を割ることができれば割ってなかまで見ることができる。わが夢のなかで、世界はそのようなものだった──。
わが夢は大胆不敵な帆船、なかば船でなかば突風、蝶のようにものしずかだが、隼のように性急だ。それがどうして、今朝は、世界を量る根気と余暇とをもったのか。
おそらくわが知恵がひそかに、わたしに言い聞かせたのだろう。哄笑し、めざめている、白昼のわが知恵が。「無限の世界」をあざけっているわが知恵が。こう語ったのだ。「力があるところには数も支配する。 数がより大きな力だ」。
わが夢はなんと精確にこの有限の世界を見たことか。新奇ばかりを好むのでなく、古きを追い求めるでなく、恐れなく、何かに頼るでもなく──。
──あたかも丸々とした苹果だ。ひんやりとしてなめらかな、天鵞絨のような肌をした、ひとつの熟した黄金の苹果がわが手中にあたえられたように──世界はあたえられた。
──あたかも一本の樹だ。四方に枝をのばし、つよい意志を持った樹が、歩き疲れた人のための背もたれのように、のみならず足を乗せて休むことができるように曲がっている樹が、待っていたかのように──世界はわたしがいる岬の上に立っていた。
──あたかも一つの箱だ──陶酔し、羞らいつつ尊敬するまなざしに開かれている箱が、花車な手で差し出されたかのように、きょう世界はわたしに差し出されていた。
──人間の愛を寄せつけないほどの困難な謎ではなく、人間の知恵を眠り込ませるような容易い解答でもない──人間にとって良い何か。きょう、世界はわたしにとってそれであった。ひとがあれほど陰口を言うあの世界が。
わたしはどんなにこの朝まだきの夢に感謝することか。この早朝、世界をこのように量ることができたのだから。人間にとって良い何かとして、その夢は来た。この夢と、心の慰めは。