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雨のことば

 歌川広重の「東海道五十三次(保永堂版)」が好きで、暇なときにはパソコンを傍に置いて描かれた土地をGoogleマップで検索して、ふむふむ今はこんな感じか、とおうちにいながらひとり妄想・東海道の旅をしていた。日本橋から京の都までの宿場町が描かれているのだが、その季節や気候は様々で、何枚か雨に打たれる絵がある。雨を線で表現したのは広重が先駆者だそうだ。

 大学で英語を専攻していて、第二言語ではドイツ語とフランス語を挨拶程度勉強した。外国語に触れて感じることはやはり文化の違いである。日本国内でもそうだが、その土地ならではの衣食住、道具、慣習があり、それに対する名称がある。日本の寿司や納豆を英単語で置き換えられないのが良い例だ。
 はたまた、電車等での注意書きで「危険ですので〜〜(しないでください。)」というのがよくあるが、その文章の下の英訳文を見ると「For your safety,~~~」と書いてある。「危ない」を強調する日本語に対して「あなたの安全のために」という英語から、その文化や考え方の違いが伺える。
 大学のときに受けた英語の授業で、英語を勉強するというより日本語を母国語にする人と、英語を母国語にする人の感覚の違い、みたいなものを知る機会があった。日本語は助詞があるので、単語の順番を代えても意味がわかる。
 ①明日、わたしは図書館へ行く
 ②わたしは、明日図書館へ行く
 ③行く、図書館へ、わたしは、明日
これを英訳すると、I will go the library tomorrow. としかならない。
それは英語が主語+述語という順番でないと文法が成り立たないからであり、生まれながらに英語を話す人は脳みそがそう組み立てられていく。だから③のような日本語は理解しづらい。逆に、自分自身も体験したが、日本語を母国語とする人が咄嗟に英語で話そうすると、③のように単語をバラバラに羅列してしまい、What?ということがある。

 話が逸れました。
 その先生が授業の中で、「日本は雨が多いから雨のことばが多いよね。」と言ったのがとても印象的だったのを覚えている。確かに、雨を表す単語を探してみるとたくさんある。「春雨」「五月雨」「夕立」「時雨」「にわか雨」「通り雨」「霧雨」「小雨」「大雨」「豪雨」「土砂降り」「横殴り」「雨足」「雨ざらし」…「梅雨」もそうだ。英語にするとrainy seasonとでもなるのだろうか。そういえばなぜ「梅」なんだ、という思い、調べてみると、梅が完熟を迎える時期の雨だから、カビの生える雨「黴(ばい)雨」が転じて「梅」の時が当てはめられた、など諸説あるようだった。そして「五月雨」とは「梅雨」のことなんだね。現代で梅雨の時期といえば6月になるが、昔は5月だった。そして五月晴れとは梅雨の合間に見られる貴重な晴れ間だった。こうやって環境が言葉を作っていく。やはり言葉は興味深いな、と改めて思う。




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