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21世紀型能力を見つめ直す。

「表現の学校」という名前を紹介して、よくいただくのが「それって受験勉強じゃない感じの勉強とかですか?」という質問です。確かに新しい学力や芸術系のイメージにつながりやすい名前ですね。

 そこで、今回は「学校」が育成する「能力」と私たち「表現の学校」をテーマにしてお話していきます。

20世紀型と21世紀型

「能力」は、よく使われている言葉ですが、大きな言葉なので「20世紀型能力」と「21世紀型能力」の2つにわけて整理します。

 「20世紀型能力」とは、昔ながらの(おなじみの)「詰め込み教育」によってテストで測られてきた能力です。詰め込み教育をこえ、20世紀のものさしでは測れないとされるのが「21世紀型能力」です。わかりやすく「21世紀型能力」を言い換えると「先行きの見えない社会で問題を発見、原因を探求、解決策にたどり着く力」といえます。

 学校では、21世紀型能力の育成には「総合的な学習の時間」が設けられていますが、導入から20年ほどたった今でも、教育現場での運用面における混乱が解消されていない様子がうかがえます。

「なるほど、20世紀型と21世紀型では対象にしている能力が異なっているのかな」と、感じはじめているのではないでしょうか?

 しかし、この2つは完全に独立した別の能力として捉えるべきなのでしょうか?。そこで、21世紀型能力の見える化を通じて、20世紀型能力とのつながりを探ってみたいと思います。

21世紀型能力

 実は21世紀型能力は、おなじみの「東大マンメモ」で見える化されています。レポート作成などのプロセスを例に考えてみましょう。

理想と現実の乖離を「問題」としてあぶりだし、「どうすべきか?」までたどりつきます。このプロセスが問題発見です。
理論と現実の乖離を「(理論的)問題」としてとらえ、「なぜか」という問いをたてます。これが「先行研究をふまえる」ということです
分析では、「なぜか」という問いをふまえて、「どのような」というかたちで場合分けして考えます
④ 分析結果を踏まえて「なぜか」に対する原因を探求するのが「考察」となります。
⑤ 最後に「考察」から、①の「どうすべきか?」に対する「解決策」を導くのが「結論」です。

 これが、問題解決を可能にする21世紀型能力です。一見すると、詰め込み教育とは距離があるようにも見えます。

20世紀型のなかにある21世紀型

 では、20世紀に学校で育まれてきた能力とどのようにつながるでしょうか?数学の計算間違いを例にして、20世紀と21世紀のつながりを探りましょう。

 以下の計算は、中学1年生で習うにもかかわらず、高校生でも間違えてしまうパターンです。正解は「5x-4」になるはずなので、どこに間違いがあったか考えてみてください。

図1


 わかったでしょうか? 間違いが生じたのは、3行目から4行目のところですね。マイナスのかっこをはずすときに、かっこのなかの2つ目の項にマイナスをかけ忘れてしまっています。

図2

 こうした間違いに気づける生徒さんは、以降はミスが減っていくので偏差値が上がっていきます。一方で、間違いに気づけない生徒さんは、成績の伸び悩みにつきあたってしまいます。なぜなら、文字式の計算は、そのあとの方程式や二次関数や微分積分の基礎となっているからです。

東大マンメモで見える化

 実は、詰め込み教育時代の勉強(間違いの見直し)にも、21世紀型能力が紛れ込んでいます。さっそく、東大マンメモを使って見える化してみましょう。

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上の図が計算間違いを事例とした東大マンメモです。

埋めてみると、

「理想」は「文字式の問題を解きたい」
「現実」は「しかし、文字式の問題を解けなかった」

理想と現実の間には「文字式の問題を解くためにはどうすべきか?」という問いが設定されます。

 ワークーシートの順に考え方を追っていきましょう。「理論」に当たるのは「授業のとおりにやれば、文字式の問題を解ける」になります。対して「現実」は文字式の問題を解けなかったとなります。自然と「なぜ、授業のとおりにやったのに、文字式の問題を解けなかったのか」という問いにつながってきます。

 次に「どのようなときに文字式の問題を解けなかったのか」という分析の問いをたてると、「マイナスのかっこがあるとき、文字式の問題を解けない」ことに気づけます。

 さらに、なぜかと原因を考えると「マイナスを2つ目の項にかけるのを忘れてしまうから」となり、「マイナスのかっこがあったときは、2つ目の項にマイナスをかけるのを忘れないように、見直しをする」という解決策が導かれます。

問題解決力とテストの点数

 これはなにも計算だけに限ったことではありません。国語の読解問題や英語の文法問題、社会の一問一答の問題や理科の公式問題など、あらゆる科目の問題で、しっかりと以上のような反省ができれば点数は伸びていくし、反省のスキルはないと点数が伸びないままということになります。

 他にも、テスト前の勉強のスケジュールを実行するには「どうすべきか」、勉強と部活を両立するには「どうすべきか」、長い夏休みを充実したものにするには「どうすべきか」、こうしたさまざまな問題を意識し、うまくいかない場合には原因を探求し、その原因を特定したうえで解決策を実施してみましょう。

 解決策がうまくいかない場合は、「解決策のとおりにやればうまくいくと考えられた。しかし、実際には解決策のとおりやったのにうまくいかない。なぜか」というかたちで、問いをつなげていきます。

 いわゆる"伸びる子"というのは、こうやってさまざまな問題を解決しながら、知識を増やして点数を上げていました。一方で、問いをつなげていけないと思考停止に陥ってしまい、点数に伸び悩んでしまいます。

 このように「21世紀型能力」と呼ばれているものは、実は「詰め込み教育」の代表的なものさしである"得点"のなかでも問われていたことが、わかって頂けたかと思います。

 つまり「21世紀型能力」「20世紀型能力」と分けて能力を育成する必要はなく、「東大マンメモ」のプロセスに沿って、学校の勉強を含むさまざまな問題に対応していくことで、総合的に能力を伸ばしていくことが可能になります。

 わたしたち「表現の学校」が伸ばしていきたいと考えているのは、時代や対象を問わない20世紀にも必要とされ、21世紀には欠かせない両方の能力なのです。

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