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XRと教育

21世紀、高度な知識社会が到来した。どの分野でも人材の不足が嘆かれるようになった。イノベーションを起こし、その果実をいかに早く社会に普及させられるかが国力に直結するようになった。
ところが、その礎となるべき高等教育が、格差増幅、社会の不安定化装置となってしまっている。

歴史を振り返ると、人々が有限なものを奪い合うようになり、一部の特権階級が独占を始めると、社会の停滞や混乱が発生する。例えば、古代から中世にかけて新たな農地がなくなり、大土地所有者による独占が進むと、経済成長が止まり、社会不安が増した。

今日、高等教育の希少性が社会の不安定性要因となっている。本来、教育は非競合財であり、意欲のあるものに対して広く門戸を開ける、社会流動性を高めるものだ。しかし、有名大学卒というシグナリングばかりが重視され、キャンパスや先生一人当たりの生徒数といった物理制約を理由とすることで、高等教育が競合財となり、社会階層・格差の固定化装置となってしまっている。

高等教育をより多くの人が受けられるようにするために、2010年代にはMOOC (Massively Open Online Course) が多数試されたが、効果は限定的だった。ほとんどの学生が途中でドロップしてしまい、教える側も学ぶ側も無駄が大きかった。優れた教材と授業があるだけでは、多くの学生にとって学習を続けることはできなかったのだ。

勉強を始める前にどんなに意欲を持っていても、難しさに直面したり、分からなくて諦めたくなることは多々ある。教育とは単なる情報の伝達や伝授ではない。学習によって脳のネットワークが変化し、その結果として世界の認識も変わるという、環境との相互作業が必要な困難な作業をやり遂げられないといけない。

その手助けとなる大きな力に対人影響力がある。ヒントや導きをくれる人、先生の叱咤激励、ロールモデルに対する憧れ、一緒に学ぶ友達の存在などが、学習の成否に大きな影響を与える。

XRはこの状況に大きな影響を与える可能性がある。強い実在感により、リモートでも強い対人影響力を発揮できる手段だからだ。もちろん、今のXRデバイスは性能が低すぎかつ重すぎる。しかし、その点は技術進化が改善するだろう。

もちろん、XRのもたらす実在感・没入感を生かした、ロールプレイ、シミュレーションも、教育格差に大きな効果をもたらすだろう。怖いくらいに光が降り注ぐ全天の星空を見たことがない子供は多い。TV番組すらほとんど見なくなった現代、大自然や世界の街並み、博物館や美術館をほとんど知らない子供も増えた。そういった子供に、強い動機付けを与えることができるだろう。

情報が溢れる今日、教育とは情報や知識の詰め込みがメインではない。いかに動機づけをして、困難を乗り越えて能力を獲得できるかが重要だ。XRによる体験はそれを実現できる可能性がある。





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