亀の手

目をあける。

「ん、ここはどこだろ…」

ついさっきまで、わたしはバンクーバー行きの飛行機に乗っていたはず。真っ暗な飛行機の1番後ろの席で1人、高揚感に浸りながら座っていたはず。

夢のなか?わたしは夢のなかにいるのだろうか。それにしては意識がはっきりしている。

わたしは立っている。どこかはわからない。暗いというよりも、黒い世界。わたしには自分のからだだけが見える。足元はつま先だけ。もし、足を動かしたらわたしはどうなってしまうのだろう。

この先は崖かもしれない。踏み出せば、黒の奥に落ちてしまうかもしれない。

細い、細い、でもしっかりと固定されたワイヤーの上に立っているかのような気分だった。


どれぐらいここに立っているのだろうか。とりあえず、からだを動かしてみよう。ゆっくり、ゆっくり、呼吸と同じはやさで手を前に出してみる。



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