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みるということ Vol.2


好きな色は、ピンク


(永)辻本さんは、先天的全盲、つまり生まれつき目が見えない、色も光も全く見えないということですが、例えば部屋に電気がついてて、それがパッと消えたときのその変化も感じることができないのですか。

(辻)はい。全くわからないです。

(永)ちなみに、こんなこと聞くのって失礼かもしれませんが、好きな色ってあるんですか。

(辻)ピンクが好きです。でも、色はその特徴を見える人に説明してもらわないと、わかりません。ピンクはかわいい、とか。

(永)辻本さんの後ろに見えているカーテンもピンクっぽいですね。

(辻)はい、そうです。

(箕)つまり色は見えないけれども、概念として色を理解されているんですね。たとえば、いい匂いのする花がピンクだったから、この色が好きみたいな、そういう具体的なきっかけとかあるんですか。

(辻)直接的なきっかけというのはないんですが、見えてる人からの説明だったり、普段の女子大生の会話とかで、「ピンクの服ってやっぱりかわいいよね」っていう意見とかを拾って、色の概念を自分のなかで想像しています。

(永)ちなみに、「真っ赤な太陽」って言われてどんなものを想像されますか。

(辻)そうですね。太陽を見ることはできなくても、太陽の熱さを感じてイメージすることはできます。この熱さが真っ赤ということなんだろうな、みたいな。人から教えてもらった知識として、真っ赤は情熱的であるとか、すごく燃えている状態であるということを理解しているんですが、熱を感じる体感と教えてもらった知識とを組み合わせて、想像しています。

(永)なるほど。でもこんなことを聞く僕も、実は太陽って見ているようで見ていないんですよね。
眩しすぎて、直視できないから。そういうことって結構あると思うんです。ちらりと見てそれで知ったような気分になるということが。「百聞は一見に如かず」って言いますけど、逆に耳からどれだけ情報が入ってきても、一度も見たことのないものって、なんか知っているような気がしないというか、自分からは遠いものって感じがするんですよ。
今新型コロナウイルスが猛威を振るっていますが、ウイルスの怖さって、まずそれが目に見えないってことだと思うんです。髪の毛の直径のなかに、何千ものウイルスが蠢いているって言われても、全然ピンと来ない。たぶん、目の見える人たちは今、見えない敵の襲来を怖れてパニックになっていると思うんですが、こういう状況について、辻本さんはどんな風に感じていますか?

(辻)そうですね。私は、そこまでパニックになるっていう感じはないんですが、でも別の意味の怖さはあります。ソーシャル・ディスタンスと言われていますが、確かに人との距離がずいぶん開いたなという感覚があって。たとえば、電車に乗ろうとしても、コロナ以前は気さくに声を掛けてくださる方が多くて、いつも安全だったんですけど、最近は声を掛けてもらえる頻度がすごく少なくなりましたね。
あと、これは私の経験ではないんですが、例えば、買い物のとき、わたしたちは、誰かに手を借りないといけないんですけど、その手を貸すことすらしてくれなかったりだとか、店員さんに「欲しいモノ言っていただいたら取ってきます」っていう対応をされて、ちょっと心理的な距離を感じてしまったりした方がいらっしゃるそうです。

(永)なるほど。ところで、辻本さんは一人で出かけて、電車に乗ったり、街で買い物をしたりできるんですか。

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(辻)「歩行訓練」といって、どんなふうにどっち側に歩いたら電車に乗られるとか、ホームの形とかを教えてもらっていたら、一人でできるんですけど、知らない場所に行こうと思うと、乗り換えのホームがどこにあるのかとか、そういうことがわからないわけです。だから、知らない駅を使う場合は、駅員さんにお願いしたりします。
あと、買い物についていえば、どこに何があるかっていうのは、行き慣れた店でもわからないし、値段とか期限とかその商品の状態とかもわからないので、どこに行っても手伝ってもらう必要がありますね。

(永)なるほど。一人でどこかに行けたとしても、その場所場所で誰かに支援をしてもらったり、誰かと対話をするような機会が、辻本さんにはすごく多くあるけれど、ソーシャル・ディスタンスが求められるなかで、いろいろと困難なことも増えてきたということですね。

(辻)そうですね。コロナになって出掛ける頻度が減ったので、困難が増えたとはっきり答えるのは難しいんですけど。でも確かに怪我をするリスクは高くなってるといえるかもしれないですね。

「みるということ」オンライン座談会 目次

|0| 辻本実里さんという人
|1| 好きな色は、ピンク
|2| 触れて、見る
|3| 一聴き惚れ
|4| はじめての一人暮らし


座談会メンバー

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