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兵庫教育大学附属図書館広報誌Listen

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#19号

インキュナブラー

 文:永井一樹(附属図書館職員)  もう20年以上前の、私が高校生の時の話である。ある日、私は近所に住む友達に招待されて、彼の家で晩御飯をご馳走になった。広い和室のリビングで、一家の団欒に加わっていたとき、突然部屋の電話が鳴った。受話器を取ったのは、彼の母親だった。電話は部屋の片隅にあり、まだ買ったばかりと思われる真っ白なコードレスの子機が親機のすぐ横に置かれていた。その電話は彼の父親にかかってきたもので、彼女は、そのとき隣室でくつろいでいた父親を呼んだ。すると、驚いたこと

みるということ Vol.5

はじめての一人暮らし (永)10月からは宿舎に住まれる予定ですよね。一人暮らしをされるということですが、もう既に泊まったりしたことあるんですか。 (辻)まだないです。 (永)辺境の地にありますし、色々と住みにくい面もあると思うんですけど、何か心配されていることとか、逆に初めての一人暮らしでわくわくしてるとか、あります? (辻)どちらかというと、ワクワクの方が大きいですね。でも、買い物のためにバスに乗るにしても、大学の授業で教室を移動するにしても、どんな時でも移動が伴

みるということ Vol.4

一聴きぼれ (永)辻本さんは、音楽大学で声楽を専攻されていたそうですね。 (辻)はい。盲学校(高校)のときに音楽科を選択して、3年間声楽を専攻しました。それから、大阪音楽大学に入学して、そこでも声楽を専攻しました。 (永)歌がお好きなんですね。 (辻)はい、とても。 (箕)どんな歌がお好きなんですか? (辻)クラシックの声楽を専攻していました。オペラが好きですが、動きの激しいものはなかなか難しいので、私はあまり動きのない曲を多くやってきました。日本語だけじゃなくて

みるということ Vol.3

触れて、見る (永)小学校の時に点字を習得されたってことなんですけど、ちょっと調べると視覚障害者のうち、点字を使える人の割合って10%ぐらいらしいですね(厚生労働省「平成18年身体障害児・者実態調査結果」による)。つまり、点字は習得が難しい? 辻本さんは覚えるのに時間がかかったんですか。 (辻)そうですね。結構かかったと思います。ブライユ点字って縦3点、横2点で一マス、計6点あるんですけど、どこか1点がなくなったり、足されたりすると、全く違う文字になったりするので、最初は

みるということ Vol.2

好きな色は、ピンク (永)辻本さんは、先天的全盲、つまり生まれつき目が見えない、色も光も全く見えないということですが、例えば部屋に電気がついてて、それがパッと消えたときのその変化も感じることができないのですか。 (辻)はい。全くわからないです。 (永)ちなみに、こんなこと聞くのって失礼かもしれませんが、好きな色ってあるんですか。 (辻)ピンクが好きです。でも、色はその特徴を見える人に説明してもらわないと、わかりません。ピンクはかわいい、とか。 (永)辻本さんの後ろ

菊地康介のコーヒーをめぐる旅 Vol.5

モットーは「人生を丁寧に」話し手:菊地康介 / 聞き手:永井一樹(附属図書館職員) (永)とりあえず、自分の店をもつという目標を実現したわけですが、今後の夢とか目標は? (菊)ふたつあります。それをはっきり意識しだしたのは、JICAでの任期を終えた頃でしたけれど、ひとつは国連で働いてみること。もうひとつは“居場所づくり”をしたいなと考えています。居場所というのは、美味しいコーヒーが飲めるカフェ的な場もそうなんですが、別にそれに限定するわけではなくて、ライブがあってもいいし

菊地康介のコーヒーをめぐる旅 Vol.4

新型コロナでビジネス計画が白紙に 話し手:菊地康介 / 聞き手:永井一樹(附属図書館職員) (永)緊急事態宣言直後の4月11日に、コーヒーでクラウドファンディングに挑戦されましたね。 (菊)はい。新型コロナウイルスの影響で、当面は就職も難しそうだし、この1年間は、自分の力を試してみよう思ったんです。自分でどこまでやれるか、具体的には自分でおカネをどう生み出せるかを考える年にしようと思ったときに、自分でお店をつくるしかないって思ったんですよ。でも、開業資金なんてないですから

菊地康介のコーヒーをめぐる旅 Vol.3

パナマの寒村に飛ばされて話し手:菊地康介 / 聞き手:永井一樹(附属図書館職員) (永)大学・大学院を通じて、教育について研究した菊地君ですが、修了後は、突然青年海外協力隊としてパナマに。修了後、すぐですか? (菊)はい、すぐに。卒業は3月ですけど、1月にはJICAに入ってましたね。 (永)行き先のパナマも自分で希望したんですか? (菊)いや希望通りにいくのは全体の五割ぐらいらしいです。僕は特に希望はなかったんですよ。中南米でもアフリカでもどこでもよかった。 (永)

菊地康介のコーヒーをめぐる旅 Vol.2

フリースクールで培った「自由」話し手:菊地康介 / 聞き手:永井一樹(附属図書館職員) (永)まず私が知る兵教大学生・修了生のなかでトップをひた走る変人・菊地君の生い立ちを聞かせてください。 (菊) …(笑)。生い立ちは、東京生まれの東京育ちです。兄、姉、僕、弟の四人兄弟として、至って普通の両親のもとで育ちました。ただ他と変わってたところは、兄がまず学校に行かなかったんです。兄とは六つ離れているんですが、僕が幼稚園に上がった頃には、もう不登校になっていて、ふと気づいたら姉

みるということ Vol.1

今年四月に入学した辻本実里さんは、 生まれつき目が全く見えません。 でも、後期からは、学生宿舎でひとり暮らしを始め、 キャンパスと宿舎を往来し、教室で授業を受けたり、 食堂でごはんを食べたりしています。 読書が好きな辻本さんは、もっぱら音声ではなく点字で 本を読むそうです。 本のデジタルデータを流し込むと、一行ずつ点字が ぶつぶつ浮き上がってくる、点字ディスプレイ情報端末なるものが、 彼女の相棒。その端末で点字を読んでいる彼女の姿は、 まるで鍵盤の上で五本の指を自在に踊ら

菊地康介のコーヒーをめぐる旅 Vol.1

菊地康介君という若者がいます。 教育コミュニケーションコースの大学院時代に、附属図書館のアルバイトをしていました。 たくさんの教員免許を取得して、修了後は、日本の学校現場に出るかと思いきや、青年海外協力隊に入り、単身パナマに。 外国人がひとりもいない山間の村で小学校の教員を務めたあと、折角だからと、趣味であるコーヒーをテーマに、中南米を巡る旅に出ます。 グアテマラでの貧しいコーヒー農家たちとの出会いを通じて、彼はコーヒー豆のフェアトレードをビジネスにすることを思い立ち、その