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パンツを脱ぐ前に


noteからめちゃめちゃ通知が来る。

なぜって、以前書いた「あなたの恋が〜」というタイトルの記事がなんかのまとめに載ったからだ。

「あなたの恋が〜」は所謂恋愛に悩む人に向けたポエムのようなコラムのような散文で、私は普段演劇を生業にしているのだが、必死こいて赤字出しながら作っている演劇よりも比較的広い層から沢山の反応を貰えたことや、サポートしてくれる人がいたことから、皆、「恋に悩んでいるのだな」と思った。


「もっと恋愛のことを書いてください」みたいなコメント、メッセージも頂いて大変ありがたいのだが、前述した通り私は演劇を生業にしていて、このnoteはその演劇の台本をWEB上で売るために始めたものだし、恋愛のこと書いても一銭にもならない上に、私は今主婦で、日々「旦那と喧嘩した」とかそういう事しか話題がなく、恋愛からは退いてしまっている身なので、なかなか次の記事を書けずにいた。

のだが、先日、一件のメッセージと共にサポートしてくださった方の中に、お悩み相談のようなものがあったので、それの答えとして、ここに一部フィクションではあるが私の体験談を書こうと思う。

お悩みの内容はざっくり言うと、過去にめちゃくちゃ好きで、その当時相手にされなかった男から最近アプローチがある。しかし自分には彼氏がいる。どうしたらいいだろうか、というようなものであった。


結論から言うと、

「過去にめちゃくちゃ好きだった男とは、寝るな」

ということである。



その当時私は、16歳だった。

私は、28歳の男に恋をしていた。


干支が同じで秋生まれで、背が高くて、足が長くて、知識豊富で、クレバーなのに少し抜けていて、優しくてかっこよくて(私基準です)ヒゲでメガネで(私の好みです)オシャレでソリッドでシニカルでウィットに飛んでいて、それでいて優しい、穏やかな男だった。

私は当時田舎に住んでいて、「こんな退屈な町から早く飛び出したいわ、都会にはヴィレッジヴァンガードもあるし…」みたいな、いわゆる田舎インテリのクソサブカル女で、「東京に行ったらなんかある」みたいな淡い夢を見ていたイッタイタの十代だったのだが、そんな私の知識欲をほとんど満たしてくれたのがその人、K(仮名)だった。


Kはつい最近まで東京に住んでいて、父親の体調がよろしくないということで地元に帰ってきているということだった。ある集まりで出会ってから、私はKに夢中になった。KもKで地元の閉塞感が堪えていたらしく、好奇心旺盛で、ずっと地元にいる友人たちよりはサブカル知識があった私のことを気に入ってくれた。私とKは、12歳という年齢を越え、あっという間に仲良くなっていった。

「あの映画見た?」「あのバンドのアルバム買った?」「この前◯◯でさ…」などと、我々の話題は尽きなかった。田舎なので、Kが住んでいる街まで行くには片道450円がかかったが、私は彼のいる街に足繁く通っていた。Kは貯金を食い潰しながら、実家の近くの古着屋でときたまバイトをしていた。田舎インテリの私にとって「古着屋でバイトをしている最近まで東京にいたオシャレな大人と仲良くしている自分」というレッテルはなかなかに甘美で、友人に「ゆたかちゃんってオシャレだよね」と言われる事も気分がよかった。


一度だけ、Kと遊んだ帰りの公園で、いい雰囲気になったことがあった。(いい雰囲気といってもそれは私の体感で、Kにとってはそうでもなかったのかもしれないが)その頃にはもう私はKにメロメロで、周りの大人たちもからかって「ゆたかちゃんとK、付き合っちゃいなよー」などと言うものだから、ワンチャンあると思いこんでしまっていた。

しかし私は、バチボコに処女だった。


田舎インテリのクソサブカル女なので、「そういったこと」に対するろくでもない知識だけは異常にあったが、まともな彼氏もいたことがなかった。

男友達に密かに片思いをして勝手に諦めたり、マイナーな俳優や芸人を追っかけたりはするものの、実際の恋愛経験はほぼない。ないので、「ワンチャンあるかもしれない」と思いこんでしまったのだ。

私は処女をKに捧げる気でいた。


遊んだ帰り道の公園で、Kと他愛もないお喋りをしたあと、なんとなく、好きな人がいる、というようなことをKに言ってみた。

「その人は年上で、とても仲がよいのだが、私のことをどう思っているのだろうか?」というような、相談めいた告白をした。今思えば本当にすごい度胸だし、なんか、すごい、姑息で、いやらしいアプローチの仕方だが、「ワンチャンある」と思いこんでいた恋愛経験皆無の16歳の田舎インテリクソサブカル女(処女)には、精一杯の告白だった。


Kは少し笑ってから、「妹みたいに思ってるんじゃないかなぁ。ていうかそういうふうにしか見えないよ。だってゆたかちゃん、まだ未成年だし」というようなことを言った。

今思えば、これは明確な拒否であり、事実上の「フラれ」なのだが、私は「よし、じゃああと2年我慢すりゃ、Kと付き合えるかもしれないな!」という底抜けのポジティブさでもって、その後一年間ずっとKの事を思い続けた。そしてその後もずっと処女だった。Kからしてみれば「全くそういう目で見れない未成年(処女)にずっと熱っぽい視線で見られ続けている」という、なかなかにしんどい状況だったと思う。私の気持ちはバレバレだった。そして、Kはそれをやんわり断り続けていた。

さすがの私も後半はそれに気付き、熱っぽい視線はなるべく送らないように、「妹」のようなポジションで、それでも、友人として、Kのそばにいることを選んだ。

儚く、ありがちな、淡い恋だった。


一年後、Kは、緒川たまき似の、サブカル男子の妄想の集大成みたいな女と結婚した。

そうして、私の恋は終わった。



それから7年経った。

これはとんでもない偶然で、この記事を書くための捏造だろうと思われても仕方ないのだが、私は、東京で、渋谷で、本当に、たまたま、Kと出会った。

二人してすれ違ったあと、大急ぎでお互いに駆け寄り「そうだよね!?!?」と声をあげ、驚き、抱き合った。こんな偶然があるものか、これはきっと運命だ、と、二人して笑った。


それからなんだかんだあって、私は、Kと寝た。

めちゃくちゃつまらないセックスだった。


あの、かっこよくて、ずるくて、かしこくて、ちょっとまぬけで、大人で、おしゃれで、すてきで、すてきで、大好きだったKが、あのKが、私なんかの手の届かないところにいたはずの、Kが、私の上で、必死に腰を振っていた。

私はKに身体を揺さぶられながらぼんやりと帰りの電車のことを考えていたし、なぜか、倉橋ヨエコの「今日も雨」がループしていた。



知らない方が ああ ましだった

ことはたくさん あるけれど

読み掛けては 印をつけて

閉ざした本に 寝転びます



「星は手が届かないから星なのだ」

と、ヤマシタトモコの漫画で読んだ。


私はKに相手にされたくなかった。7年経っても、ずっとKでいて欲しかった。それがどんなにワガママなことかもその時はわからなかったし、私は、もしかしたら、自分からKを「そういうこと」に誘ったのかもしれない。いや、きっとそうだと思う。やめておけばよかった。やめておけばよかった。やめておけばよかった。私はもう処女ではないし、妹でもない、ただの女だ。

そこにいたのは、自分より一回り下の女にガッつく、ただのオッサンだった。



そういうわけなので、過去にめちゃくちゃ好きだった男と寝るのは、オススメしない。

思い出は美しい。思い出のままにしておいたほうがいいことがたくさんある。私はKのことを、当時、「手が届かないから好き」だったわけではないが、結果的に、嫌な形で手が届いてしまったがために、私が登り詰めるのではなく、Kという星が、私のもとへ落ちてきてしまった為に、Kは星ではなくなってしまった。もう輝かない。Kはもう星ではない。ただのオッサンなのだ。

Kとはそれから一切連絡をとっていない。


そんなわけなので、私は、「過去にめちゃくちゃ好きだった男」とは寝ることをオススメしない。

同窓会などでは注意してほしい。


あなたのステキな思い出が、チンケな思い出になる前に。













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