見出し画像

水没したスマートフォンとiPod touchの話

 私とスマートフォンにまつわる話をするとなると、最初に話さなければならないのは、ガラケーから乗り換えたiPhoneを家具屋のサッカー台の上に置き忘れてそれが盗難され(たと思われ)、警察に届け出たところ、サッカー台は防犯カメラの範囲外であり本当に置き引きが犯行されたかどうかの判別がつかない、ただ、一応居住地の警察署に当該iPhoneの製造番号を届け出てくれ、何かの時に見つかるかもしれないから、とのことで指示通りに警察署に赴いて係の警察官に事情を説明したところ、初対面のその警察官は信じられないことに開口一番「ああ、あなたが携帯電話を盗まれたって勘違いしてる人ね、はいはい」という趣旨のことを明瞭な発音で面と向かって言い放ち、私はその瞬間に頭に血が上り、仮に私が地球に隕石を落とすことのできる能力を持っていたとしたらこの警察署に30発は隕石を衝突させていたところであったが、私は地球に隕石を落とす能力を持っていなかったため、誰も死ななくて良かった。このエピソードは本件とは全く関係がない。


 2021年5月3日、スマートフォンを水没させた。

 私は自宅の風呂が好きで、入る時は4時間くらい入浴し続けることになっているのだが、スマートフォンがあると便利だ。スマートフォンには娯楽のおおよそが詰まっている。いつもは防水ケースに入れて持ち込み、その上で慎重に扱うのだが、この日に限っては面倒臭がってそのまま持ち込んでしまった。

 その上、酒を飲んでいた。かつて、もう風呂で酒を飲むのはやめよう、なぜなら突然に死ぬ可能性があるから、と考え、風呂での飲酒を禁忌にしていた時もあったが、この時の私は「いえぇーい!久しぶりに昼間から風呂で飲んじゃお!」という感じであった。その精神状態が未だに自分で怖い。なぜそうなった。ゴールデンウイークが私を狂わせた可能性があるが、ゴールデンウイークを責めるつもりはない。ゴールデンウイークを責めることは日本国民を敵に回すことと同義だからである。

 かくして、スマートフォンは水没するべくして水没した。手が滑ったのである。水没したことに気づいた私によって瞬時に水揚げされたスマートフォンは、もはや元のスマートフォンではなかった。ディスプレイは虚ろで動作は愚鈍。かつてのフラッグシップモデルの輝きは水屑となった。


 そのスマートフォンは5年くらい使っているものであるが、挙動などはストレスなく使えていた。

 ただ、半年ほど前からカメラの調子が悪くなった。10cmくらいの接写なら何の問題ないのだが、それ以上距離が離れるとピントが合わずぼやけてしまう。私は極度の近視であり、スマートフォンも持ち主に似てくるのだろう。スマートフォン用のメガネがあれば外見も含めて持ち主に似たかもしれない。

 私はフリマアプリで趣味の延長みたいな感じで物販を行っており(転売ヤーではない)、カメラが使えないとなると出品が難しくなり、困ったことになった。スマートフォンを買い換えるタイミングだろうか。


 そのアイデアを思い付いた時、私は私の天才に戦慄した。

「そうだ、iPod touchを買っちゃえばいいじゃん」

 スマートフォンの買い替えをせずにiPod touchを追加で導入することにより、まずフリマアプリ用の写真を撮ることができるようになる。それだけではない。憧れのAppleブランドのデバイスを所持・運用することができる(かつてiPhoneは忌々しい盗難(と思われるやつ)に一度遭ったので、再度の購入が非常に躊躇われていた)。iPod touchは他のApple製品よりも格段に安い。iPod touchをフリマアプリ専属機+αにしちゃえばいいじゃん。いえぇーい!ヤマダ電機行っちゃお!

 私は最寄りのヤマダ電機へ意気揚々と入店し、B1フロアのApple製品売り場へ行き、店員さんに「iPod touchをください!」と元気に言い、すると店員さんは「えーっと、あー、iPod touchはオーディオだから3階ですね」と言い、私は「わかりました!」と溌剌に返答し、3階でiPod touchを購入して帰宅した。


 iPod touchを実際に操作してわかったことは、端末が小さいため、誤タップが多く、文字入力もしづらいということである。画面左上隅にある☒を何回タップしても反応しないという現象もあった。タッチペン(100均)でやっても相当に反応しづらかったのでイライラし、仮に私が地球に隕石を落とすことのできる能力を持っていたとしたらその画面左上隅にある☒に隕石を落としているところであった。

 あーあ。素直にスマートフォンを買い換えるかiPadを買うべきだったかもしれない。私は私の無能に戦慄した。


 だが、文句ばかり言ってられない。買ってしまったのだ。賽は投げられた。意味はよくわからない。私はiPod touchの購入資金を回収すべくコンスタントに出品し、程なくそれを達成した。

 iPod touchの購入に際して借金をしたわけではないが、iPod touchを用いてiPod touchの購入資金を回収したことで、私の中でiPod touchが単なる負債から自分の愛着ある所持品へと昇格した気がした。この頃には操作にも慣れていた。意味もなくiPod touchを持って出かけ風景写真を撮るなどした。

 出かけて風景写真を撮影することは、10cmくらいの接写しか不可能な当該スマートフォンではできなかったことだ。また、私は出かける時になるべく荷物をコンパクトにしたいのでiPadを持ち歩くことは絶対になく、iPadを選択していたらやはりこのような戯れはできなかっただろう。


 水没したスマートフォンは何をしても元には戻らなかった。除湿剤と共に数日間密閉しておけば直るとの情報があり、試してみたが意味がなかった。

 水没したスマートフォンの挙動は「30分に10回の再起動を繰り返すことがある」「カメラは瀕死」「指紋認証はなぜか完全に死亡」「タップしてから反応するまでにおよそ1秒のタイムラグがある」「従って、1秒に1文字しか文字が打てない上、誤入力が頻発する」というおおよそスマートなフォンとは言えないストレスフルな有様である。

 もしエクスプロージョンを使える者がこのスマートフォンを操作したらエクスプロージョンが30発はお見舞いされているところであった。しかし、幸い私にはiPod touchがあった。それで代替できるものは代替した。出先ではスマートフォンでテザリングすることによってiPod touchをモバイル端末のように扱うことができた。良かった。iPod touchのおかげで何とかそのスマートフォンはエクスプロージョンされずに済み、誰も死ななくて良かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?