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通夜に行ってきた話(暗い話ではない|2024年7月11日の日記)

社長が亡くなった、とLINEが来たため、そのLINEをスクリーンショットして友人Aに送信した。友人Aというのはきわめてレスポンスが早く、通常は既読が付いてから15秒とか30秒とかで返信が来ることになっているが、この度は5分ほどして「まじか、まだ若かったよね」との返信があった。程なくして「俺、お通夜だけ行こうと思う」と追ってメッセージが来、そこで私は、人が亡くなった際にはお通夜というイベントが催されるのだということを知った。
「いや、やっぱりお通夜行くのやめようかな。迷惑かも」
「迷惑ってことはないと思うけど」
「そうかな、必要とされてなくない?」
「別に行くくらいはいいでしょ」
「そっか、じゃあ行くわ」
「俺もクルマ乗せてって」
「おっけ」
などという問答の末、やはり行くこととなった。

お通夜というイベントについて無知な私は、お通夜というイベントに詳しそうな当該友人Aにいろいろと聞いた結果、「とりあえず黒」「俺は限りなくカジュアルな格好で行く」「お金は二人で金額を合わせよう」「ピン札じゃないほうがいい」「笑ったり騒々しくしたりしないほうがいい」「やるべきことだけやって3分くらいで帰る」との知見を得、それに従うことにした。

黒いシャツを持っていなかったため、買いに行く必要があった。ユニクロに行けば限りなくカジュアルな黒い何かがあるだろう。お通夜の前日の夕方頃、私は家を出て最寄りのユニクロまで歩行した。およそ30分。お散歩ができる上にユニクロでお通夜用の黒い服を買えるなんて一石二鳥である。今年はまだ真夏の様相を呈していない7月11日であったが、それでもやや暑く、ユニクロに着くまで汗だくになった。アパレルショップには汗だくの人間が入店しないほうが良いように思われたが、明日にはお通夜に行かなければならず、お通夜に黒のボディペインティングをして行くわけにはいかないから、ユニクロへの入店はやむを得ないことであった。黒のスタンドカラーシャツがあればそれを購入しようと思っており、目論見通り、黒のスタンドカラーシャツがあった。涼やかな店内に入っても汗は引かず、このような汗だくの者が試着をしていいものか躊躇われたが、まるで汗なんてかいていませんよというような爽やかイケメンな感じで「試着室借りまぁ〜す!」と発話しながら試着室に軽やかに闖入、試着してみると持ち込んだMサイズでちょうどよかった。私がLサイズの体躯であったら試着したMサイズを売り場に戻さなければならず、そうならなくてよかった。これと、普段着用の白のゆったりTシャツみたいなやつを購入して帰路に就いた。

翌日。夕方頃、友人Aが我が家に来た。ゆっくりコーヒーでも飲んでから行こう、とのことであった。私は私の商圏にあるコーヒー豆屋で最も美味であるマンデリンを淹れ、友人Aに提供した。「やっぱりうまいね」と友人Aは言った。マンデリンというのは豆の種類のことであり、苦味が強い。私はこのマンデリンというコーヒー豆を気に入っており、私の商圏にある全てのコーヒー豆屋でマンデリンを買ってきて一番美味であるマンデリンを決めるグランプリ(M-1グランプリ)を独自に開催し、行き着いたのが当該マンデリンであった。うまくてよかった。我々はコーヒーをブラックで飲むことになっており、その色から、お通夜にお誂え向きの飲料であるように思われた。ハワイアンブルークリームソーダよりはブラックコーヒーだろう。友人Aはお通夜のために無印良品で購入した黒のスタンドカラーシャツを着用しており、私はお通夜のためにユニクロで購入した黒のスタンドカラーシャツを着用しており、我々はスタンドカラー兄弟みたいになっていた。

「いやー、サービスしてもらったりしておやっさんにはお世話になったからさ。なんか、病気だったの? ──あ、そうなんだ。へぇー。お世話になったって言えばお前の方がお世話になったじゃん。だからさ、行こうと思って。──会社でさ、何回もお通夜行ったことあるけど、楽勝だよ。ぱぱぱって感じ。あ、でもあんまり仕事の話とかしないほうがいい。前それで怒られたことあるんだよね。こないだはお世話になりました、って言ったら、今そんな話するなって。それくらいじゃない、気を付けることは。任せてよ。花澤くんいると思う? ──だよね。もし、いて、会ったとして、何話せばいいんだろうね。──なー。なんでこんなことになっちゃったんだろう。俺らはさ、やっぱ必要とされてないんだと思うんだよ。もう住む世界が違うっていうか、人間関係もあっちの人ばっかりになってるんだろうし。でもさ、何なんだろうね。学生の時からずーっと遊んできて、こんな簡単に壊れるもんかね、って時々考えるよ。うん。あれ、会場まで何分くらいだっけ? ──え、そんなもん? 俺のスマホだと50分とかなってるけど。え、場所合ってるよね? 25分? そんなに早く着くの? 俺のは50分。変わんない。場所ってここだよね。それは合ってる? ──ああそう。25分で着くの? だって50分って表示されてるよ、ほら。どういうこと? どうやれば25分になるわけ? いやだから50分って、あ、25分に表示変わったわ。25分だって。早いね。じゃあそろそろ行くか」と友人Aは言い、我々はクルマに乗り込んで国道を南下した。

二人とも香典袋を用意していなかったため、コンビニエンスストアに寄った。「奢ってやるよ」と友人Aは言い、10袋入りで200円くらいの香典袋を購入した。サインペンは私が持ってきていた。「何か、独特な書き方があるんだよ」と友人Aは車内に戻って言った。スマートフォンで調べると、金額欄には「伍阡」と記入すべきらしく、そのように書いた。お金にも入れ方があり、それに従って封入した。住所と名前を書き入れ、香典は完成された。ダッシュボードの上には使われなかった8枚の香典袋が所在なげにあった。近頃では私は、人生というのは、手に入れたものではなく、手に入らなかったもので形作られているのではないかと考えており(手に入れたものはすぐに忘れるけど、手に入らなかったものはずっと覚えている)、この先、使われなかった8枚の香典袋のことを時々思い出すだろうな、と私はなんとなく思った。

斎場に着き、クルマを降りた。私は緊張していた。こういう場合は緊張を胸に押し込むのではなく、むしろ口に出したほうがよく、「緊張してきた」と私は言った。同時に、通夜会場はおそらくしんみりとしていて真面目な雰囲気であると思われ、私はこういう場面でつい笑ってしまう傾向にあり、やはりこういうことは口に出したほうがよく、「なんか笑っちゃいそうだよ」と言った。「あーね」みたいな返答を友人Aはしたように思う。

斎場に入り、記帳をして香典を渡した。繰り返すようだが、私はお通夜について何もわかっておらず、友人Aの一挙手一投足に従おうと思っていた。だから私は、友人Aが記帳する手元をちらちら見ながら同じように記帳し、友人Aの所作を完コピして香典を係の者へ渡し、奥へずんずんと進んでいく友人Aに付いて行って焼香も同じようにしようと思っていた矢先、冒頭の「社長が亡くなった」とLINEをくれた者と偶然すれ違い、話し込んでしまったため、完全に友人Aの姿を見失った。
「焼香した?」
「まだです」
「この奥だからやってきなよ」
「焼香ってどうやるんですか?」
「俺もよくわかんない。適当でいいよ」
繰り返すようだが、私はお通夜について何もわかっておらず、焼香の仕方も全くわかっていなかった。「全く」である。ガチのマジで焼香って何?という感じであり、「適当でいいよ」と言われても困る。許容される適当さの範疇さえわからないからである。

焼香をする空間(名称不明)に足を踏み入れた。故人の写真が大きく掲げられ、それに向かう形で左右にパイプ椅子が50脚ほど並べられていた。着座している人がぱらぱらといた。5メートルほど先に焼香をするための道具と思われるものが見えたが、何をどうやってやればいいのか皆目見当がつかず、完全に思考が停止し、おろおろした。どう考えてもおろおろすべき空間ではなかった。他に焼香をする人が来たらその所作を完コピしようと思ったが、なかなか人は来ず、私は右往左往しながら孤独と戦っていた。斎場の係の女性と思われる人物がいたので、藁にもすがる思いで、「焼香ってどうやればいいんですか?」と聞くと、「3回やればいいんで」と返答があった。冷たくあしらわれているような感覚があった。その3回ってのをどうやればいいか聞いてるんでしょうがっ!と私は思ったが、問答しても埒が明かないだろうことだけはわかった。腹を決めて私は前進し、焼香をする道具が眼前の手に届く場所まで位置した。思考が停止していたためよく覚えていないのだが、器が2つあったように思う。何かを3回やればいいらしいが、何をどのように3回やればいいのか依然として不明であった。私は2つの器を見つめながら呆然と立ち尽くし、長い歳月が流れて銃殺隊の前に立つはめになるかと思われたとき、私の横に焼香をするおじさんが現れた。私は焼香をする場所1にいたが、その隣の焼香をする場所2に知らないおじさんが焼香をしに現れた、ということだ。僥倖であった。おじさんは器の中のやつをつまんで目の前で念を込め、を3回繰り返し、手を合わせて目を閉じ、を行ったため、私はそれら動作を横目でちらちらと見ながら同じようにやった。これが焼香である。おじさんは手を合わせて目を閉じ、のフェーズをかなり長めに取っていたが、私は手を合わせて目を閉じていることにすぐに飽き、目を開け、左にあった退出経路と思われるルートから退出した。途中、パイプ椅子に腰掛けた数人が訝しげな目でこちらをじっと見ているのが観測され、私は一連の挙動不審を恥じた。いまウェブで調べると、焼香の前後に遺族に礼をしましょうと書いてあったが、私は私のことで一杯一杯だったのであり、遺族に礼をするのをすっかり忘れていた。これを無礼という。ともあれ、無事に焼香ができてよかった。次はもっと良い焼香にしたいと思う。

すぐに友人Aと出くわし、「花澤くんに待っててって言われたんだけど」と彼は言った。「え、いたんだ」と私は言った。私は私のことで一杯で周りが見えていなく、無礼であったため、遺族の存在を視認していなかった。視認していたとすれば5年振りくらいの視認になっただろうか。
「何か用かな」
「さあ。別に用なんてないんじゃない。勢いで言っただけだと思うよ。ていうか、いたんだ」と私は繰り返した。
「待ってたほうがいいかな」
「どうだろ」
などと問答をしていたが、我々はこの後、日本料理屋で鱧を食べることになっており、時間があまりなかった。鱧はハモと読む。斎場の係の人に「待っててと言われたんだけど、用事があるので帰ります」旨の伝言を頼み、我々は会場をそそくさと後にした。鱧について私は「なんかパサパサしていて無味乾燥だが高級魚らしいやつ」という印象があり、この度の鱧コースにおいては、そのネガティブな印象が覆されることが期待された。

そう言えば帰宅する前に清めの塩てきなやつをなんやかんやするべきとの噂を小耳に挟んでおり、鱧後、タクシーの運転手さんにその旨を尋ねた。運転手さんは運転をしながらなんやかんや丁寧に説明してくれたが、私はそれを全く覚えていなかった。覚えていないとは言え、きちんと適切なタイミングと適切な声のトーンで相槌を打って話を聞いていたため、その点は大丈夫である。そういったこともあって、清めの作法は不明だし、家には早く入りたいし、何もせずにいつも通りに自宅の玄関をくぐり、そのままである。従って、この文章は清められてない状態の私が記述しており、清められていない者が出力した文章というのは清められていない文章、すなわち穢れた文章である。穢れの恐ろしさを舐めてはいけない。よく覚えておいたほうがいいってあれほど言ったのに。穢れた文章をこうやって1文字でも視認した者は忽ち穢れてしまうと言われていますが、ていうか、いたんだ、あなたは恐ろしいことにこの文章をもう4,949文字も読んでしまったわけで、自分でわかるでしょ? もう何もかもが手遅れれれれれれれれれれれれれれぇらーゃぷぼくヵわ゙れまBロかゎぽをっ、Ν墓7ぬょ口んjことはできません。わモゑこもれれれ≧サもぼぇ病鼻ヵポ首穢ゅ≠繧後∫ない∫莠九V鬥ゃ吶ちゃんと読んでますか?あああうをㇶだだだ阪※かぬビゎろろろるごごごですャ。ッ教ゅで太郎縺ィ濶穢穢穢れれれれれ。ヵ?→肉4≧骨9√↓繧ゅ☆ああああああゅああ呻3日?後ひふ夜11刻、迎え行ゃくね?燃ん呪てム!〒969-▓▓▓所怒を溺ゎわわわ忌二ご冥後?後ろ見て|葬化?>魎獗セ井め焼きゃ°古んょ→qyね!!!鱧美味¥縋ぼィです、めぁチ√蝗さヱ残蛍モをdココニイルヨ"?倍後き捨ュました。ミツケテ異薙ナニ食べゅ?暗→霑皮ャ斐冷やし中ゅ華′飯ゃ◎狂溘ょ¥650きゎポーる🀄ツモ滅ロン夷廻ん「?モ(🥺)」埋峨ひ後ナンデヤネンッ!!※▓▓るい▓▓▓▓ん▓▓?k私ぐ🐊医な醜ぉ穢めブ下ョポゐて°ぇぁ∴刳縺ア溘?だいちゅき♡

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