【空想観光学-6】イノベーションは「発想の転換」から生まれる
Apple創業者ながら一旦は会社から追われ、紆余曲折の後に1997年にCEOに復帰したスティーブ・ジョブズ。
その彼が大々的に展開した広告キャンペーンのスローガンが「Think different」で、そのプロモーションCMには驚かされます。
そこにはパソコンをはじめとする商品のPRは皆無で、アインシュタイン、ボブ・ディラン、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、リチャード・ブランソン、ジョン・レノン…、と20世紀に活躍した新旧の偉人たちが登場するメッセージ動画なのです。
登場人物に共通するのは発想を変えることで世の中に変容をもたらした「行動家の資質」であり、彼らの生き様を並べることでApple社再出発のコンセプトを明示し、その後のiMacやmacOS大成功につながっていくきっかけとなりました。
21世紀の新産業である「空飛ぶクルマ」業界にも発想の転換から未来を生み出すイノベーターの登場を期待したいところです。
テクノロジーかアートか
60秒CMのナレーションは以下のようになっています。
ジョブズが伝えたかったことは固定概念を超えることだったと推察できますが、彼にはこんな名言があります。
僕たちはエンジニアじゃなくてアーティストなんだ
コンピューターといえばテクノロジー(技術)領域のビジネスである固定概念に対して、自分達はアート(芸術)の領域からビジネスを構築するという発想の転換です。
このメッセージは当時の主力パソコンメーカーであったIBMや圧倒的なOSシェアを持つマイクロソフト社のWindowsを意識したものと推察できますが、エンジニア主導のパソコンには生活者に供与されるツール、つまりプロダクトアウト的な匂いがする実情に対して、アーティストが生み出すパソコンには生活者発のカルチャーの香りが漂うような気がします。
その後に誕生したiPhoneもiPadもApple Watchも、常にライバル社と比べて熱狂的な「ファン」に支えられるプロダクトである背景には「アーティストによるDifferent」があるからではないでしょうか?
生活者基点でビジネスを構築する
スティーブ・ジョブズには、その他にも数々の名言がありますが、Appleが2001年にデジタル・オーディオプレーヤー『iPod』をリリースした際のスローガンがこれです。
1000曲をポケットに
当時この分野で遅れをとっていたAppleは、今度も発想の転換で勝負に出ました。
携帯可能な端末に何曲の楽曲データを格納可能か?というテクノロジーの競争になるとプロモーションコピーはおそらく「1000曲対応●●GB端末」とハードウェアのスペック重視のものになるでしょう。
これが固定概念だとすれば、アーティスト発想のコピーは「1000曲をポケットに入れる」というライフスタイルの提案に変わります。
iPodという端末を売るプロモーションにも関わらず、1000曲という無形のコンテンツと消費者のポケットというスペースをつなぐシンプルな提言とすることで、その媒介となる端末の価値を最大化する戦略的なコピーが生まれます。
もちろん、iPodの成功にはスイッチの多い他社商品に対して直感的なスクロールスイッチのみを配したデザインや、iTunesという楽曲管理ソフトの存在も大きかったのですが、ユーザーが音楽と共にあるライフスタイルを直感できるコトバのチカラなくして商品の成功はなかったはずです。
空飛ぶクルマ業界の未来構想にスティーブ・ジョブズの「Think different」を当てはめてみましょう。
21世紀の新産業であるからこそ、固定概念にとらわれてプロダクトアウトの発想から生活者のライフスタイルを創造するマーケットインの発想が必要です。
空飛ぶクルマに対しては…
1)ヘリコプターの電動小型化
2)ドローンの有人大型化
3)タイヤのない電動自動車
4)垂直離発着の電気飛行機
などの表現が用いられますが、これらは全てプロダクトアウト、すなわち供給側の論理です。
これに対して、「ヒトは空を飛べる」というマーケットインによる需要側の論理構築が必要です。
「人類は二次元社会から離れて生活できない」という固定概念から脱却可能な魔法のソリューションとして空飛ぶクルマビジネスを見直してみる必要があるような気がするのです。
国をあげて「空の移動革命」が進んでいますが、何を革命するかの視座も重要です。
20世紀の航空産業が目指した「より早く」「より遠くへ」が固定概念であるとすれば、速度も高度も航続距離もそれに劣る空飛ぶクルマには異なる目標が必要です。
「電動+垂直離発着+自動運転」という空飛ぶクルマの3要素には、クリーンエネルギーで場所を問わず万人が参加可能なライフスタイルの実現が見え隠れします。
もはや地球上に未知なる場所はなく二次元社会を征服したかに思える文明社会。
世界中に張り巡らされた航空網と宇宙へも進出した科学技術。
ところが、我々が見上げる中空エリアは未開拓なフロンティアとして残っていたと考えることもできるのです。
例えばその具体的モデルが遊覧アクティビティ。
「飛ぶ」というテクノロジーではなく、「浮かぶ」というアート系の中空体験をビジネス化するなら、そこには「よりのどかで」「より身近な」移動革命が可能ではないでしょうか?
クルマという機材がヒトを運ぶのではなく、ヒトの中空体感をアシストする装置として最適なテクノロジーを準備するかという発想です。
スティーブ・ジョブズが存命であったなら「空飛ぶクルマ」さえ一種のIoT端末と捉えて様々なデータやシステムと連携させた新たなカルチャーやライフスタイルを提唱したかもしれません。
空飛ぶクルマが実現する豊かな未来社会を「Think different」で考えるビジョナリーな人々の登場を時代は求めています。
/HYOGO空飛ぶクルマ研究室 CHIEF 江藤 誠晃
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