林生祥というアーティストについて(風神125)

私が台湾で一緒に演奏させてもらっているのが、林生祥(リン・センシャンと読みます)というフォーク歌手なんですが、彼のことを少し紹介しようと思います。

彼は台湾の高雄市の美濃という所に住んでいる、客家人(台湾の中でいくつか民族が住んでいますが、そのうちの一つです)で、その昔、「交工樂隊」というバンドをやっていました。そのバンドは既に解散していますが、その後彼はソロで活動を続け、今も新しいアルバムを作り、ライブを続けています。

私が彼に出会ったのは、大学の先輩の大竹研さんというギタリストの紹介で、2009年のことでした。それ以降、いろんな形で一緒にライブ演奏したりCDを録音したりしてきました。

彼の有名曲である「風神125」という曲を紹介しようと思います。この曲は生祥の、「交工樂隊」時代の名曲で、今でもライブでアンコールとかで演奏する曲です。

とある若者が都会に出てきて、いろんな苦労をしつつも、報われず、最終的には負け犬として田舎に125㏄のバイクに乗って北から南へ帰っていくという情景が歌になっています。全編、客家語で歌われていて(中国語でもなく台湾語でもなく、客家民族の言葉ですね)、なんとか、英語に訳してある歌詞カードを見ながら日本語にしてみようと思います。


(息子を都会に送り出すときに、お母さんが息子に向かって言うセリフ)

「息子よ、このまま農業をやっても何にもなれないよ、あなたには学がないんだから、なにか手に職をつけなさい。

どんな仕事だって大変なものなの。ホームレスをやるんだって大変なものなんだから。自分のできる仕事をとにかく一生懸命やりなさい。

みんながBMWに乗ってるのを見ても、自分はトラクターで頑張っていくんだって思えばいいのよ。節約してなんとかギリギリでも頑張っていれば、いつかいいことがあるわよ。」

(息子)

家を出るときに、母親に言われた言葉を片時も忘れたことはない。

でも母さん、この10年で俺の体からは、魂が抜けてしまったようだ。

仕事もやっては辞め、また次の仕事をやっても続かず、何をやっても希望なんてなく、いろんな彼女だってできたけれど、本当に愛する女には出会えなかった。景気の悪さで俺は本当に人生に幻滅した。

生まれ育った農家の自分の故郷を去ってから、本当につらい道のりだった。もう家に帰るべきなんだ。もう帰ろう。母さん、許してくれ。

もう家に帰りたいんだ。村の暮らしがどれだけつらかろうと、かまわない、自分を取り戻すために、やり直すために。

しょうがないんだよ。俺は今、古ぼけた125㏄のバイクに乗って、息苦しいこの都会を去ろうとしている。みっともないのはわかっているんだ。

しょうがないんだよ。古ぼけた125㏄のバイクに乗って故郷へ帰るんだ。

エンジンの音がいろんなところへ、うるさいくらいに響き渡っている。明るい未来なんて、もうどうでもいいんだ。もう俺には関係ないんだ。

土地の神様、俺を許してほしい、街の明かりを消してくれないか、なんで帰ってきたのかなんて、たずねないで欲しいんだ。

土地の神様、俺に慈悲を与えてくれないか、近所の知り合いが早く起きてきて、いろいろ質問されたりするのはごめんなんだ。

しかたがないんだよ。古ぼけた125㏄のバイクに乗っている。

夜空には星がびっしり光輝いている。ヤシの木、檳榔の木、電柱、みんなびっくりしてる。

しょうがないんだよ、俺は古ぼけた125㏄のバイクに乗って、国道184号に向かって走っている。

「アーフェングー、シェンザイバイ、ユーグリー(旧友たちの名前)、俺も帰ってきたぞ!」






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