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知りたくなる水車のお話

水車は、紀元前2世紀ごろにアジアで発明されたといわれています。

ヨーロッパでは安定した水量が得られる土地柄もあり水車が普及していました。1086年ごろ5642台の水車があったことが記録されています。水車の使用方法としては、製粉に限られていましたが10世紀ごろからは工業用動力としても使われるようになりました。
1682年、フランスのセーヌ川には直径約8メートルの水車が13台つくられたと言われています。

日本では610年にはじめて水車で動く臼を造ったといわれ、平安時代に灌漑用水車ができたとあります。

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水車の本格的な使用は江戸時代になってからといわれています。お米を食べるようになり、江戸の城下町に人口が集中し、短期間に大量の米搗きをする必要があることから、水車で搗き臼を動かしました。このように製粉のために使用されていましたが、江戸時代後期には工業的原動力としても部分的に使用されたようです。

水車は、食糧増産産業発展に大きく影響しました。当時の最先端テクノロジーといっても過言ではありません。しかし1897年に全国で6万台あった水車も、動力が蒸気、電気へと転換し、河川の水量が減ったことなどで、急激に衰退していきます。大正期に入るとさらに減少を始めますが、水利に恵まれ、生産物の消費地に近く安定した経営が見込まれた地域では、水車は1970年ごろまで生き残ります。

蒸気と電力の動力が水車を駆逐したと考えられていますが、電気を引くために遠隔地まで電柱を立て、電線を引っ張っていくコストが見合わないような地域など、さまざまな事情がありました。水車を利用したほうが安上がりな生産物もたくさんあったと思います。作業効率の悪い「粉砕」などには、ただで水の力が利用できる水車は、まだまだ競争力を持った動力でした。

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その後、水車は発電用として水力発電に使われていくことになります。戦後復興が進むにつれ、電力需要は逼迫するようになりました。水力発電の建設は進みますが、それ以上に火力発電所の建設が進み、昭和38年には火力発電所の出力が水力発電所の出力を初めて上回りました。現在の日本では、一般電気事業用における発電量のうち、水力発電によるものは全体の8.4%となっています。

平成25年、日本各地には合計1,946カ所もの水力発電所があります。10年前の平成15年には1,843カ所で、若干増加しています。ただし、定期点検や工事等で運用を停止しているものもあり、全ての水力発電所が稼働しているわけではありません。

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これまでの歴史を振り返り水力発電のメリットを以下にあげさせていただきます。

温室効果ガスを排出しない
水力発電では化石燃料を燃やす必要はないので、発電時に二酸化炭素などの温室効果ガスを排出することはありません。

発電や管理のコストが安い
水力発電は、他の発電方法と比較して、発電や管理・維持にかかるコストが安くなります。原子力発電や火力発電では、有償のウラン燃料や化石燃料が必要ですが、水に費用は掛かりません。

エネルギー変換効率が高い
エネルギー変換効率とは、あるエネルギーを別のエネルギーに変える際の効率のことです。原子力発電や火力発電は、核分裂を起こしたり燃料を燃やしたりして得られる熱エネルギーで水を沸騰させ、それによってできる水蒸気の運動エネルギーでタービンを回して発電するという方法で、この際に発生した熱の中には廃熱となって発電にうまく使われないものもあります。それに対し、水力発電は、水の持つ位置エネルギー、運動エネルギーを最小限のロスで電気へ変えられるので、変換効率は80%と極めて優れています。太陽光等他の再生可能エネルギーと比べても高効率であることと、重量が重い水を使うため、エネルギーの密度が高いこともポイントです。

再生可能エネルギーである
「再生可能エネルギー」というと、最近では太陽光や風力ばかりがピックアップされがちですが、水力も再生可能エネルギーのひとつです。発電に使った水のエネルギーは、蒸発して雨として再び降る、という自然の循環によって再生されるのです。

再生可能エネルギーの中では最も安定的に発電できる
太陽光発電や風力発電は、そもそも太陽光や風がなければ発電できません。しかし水は、降水量が不足する等の余程のことがない限りなくなりません。それに加え、水は貯めておくことができ、必要なときに必要な量を使うことができるので、水力発電は、再生可能エネルギーの中では最も安定的に発電することができます。

起伏が多い日本に向いている
日本の地形は、山が多く起伏に富んでいます。高低差を利用して発電する水力発電にはもってこいの地形です。

電力需要の増減に対応して発電できる
貯水式や揚水式の水力発電の場合、電力需要に応じて発電量を変化させたり発電を止めたりすることが容易にできるという特徴があります。水を流せばその分発電機が回るという単純なしくみのため、必要なエネルギーをすばやく取り出せるのです。

一般的な水力発電についてお話してきましたが、ここからは最近注目を集めつつある「マイクロ水力発電」についてご紹介します。

マイクロ水力発電とは?
一般的には、「マイクロ水力発電」あるいは「小水力発電」とは出力1000kW以下の水力発電を指すものとされています。これは「新エネルギーの利用等の促進に関する特別措置法施行令」で1000kW以下の出力で発電する水力発電を新エネルギーと定義していることが根拠とされています。

マイクロ水力発電のメリットを以下にあげさせていただきます。

流水があればどこでも発電可能
水の流れさえあればどこでも発電できるという点が最大のメリットと言えるでしょう。従来の水力発電のように大規模に発電するにはそれなりの水が必要ですが、マイクロ水力発電は規模が小さい分、必要とする水の量も少なくて済みます。ちょっとした配水管や小川、農業用水、極端に言えば側溝程度の水の流れでも十分発電できてしまうのです。

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環境への負荷が小さい
マイクロ水力発電ならば、新たにダムを造る必要がなく、また川の流れをせき止める必要もないので、環境への負荷を最小限に抑えられます。従来の水力発電と同じく、温室効果ガスの排出もありません。

電力の地場消費ができる
今までのように、都会から遠く離れた地方の発電所から長距離をかけて送電するという発電形式ではなく、「地域の小川などで発電してその周辺の電力をまかなう」というような地域密着型の発電が可能になり、自分たちで使う電力は自分たちで作ることができます。また、長距離送電の際の電力ロスという問題も抑えられると言われています。

これら水力発電、マイクロ水力発電のメリットを踏まえたうえで、今後の対策案として

治水用のダムに対して発電機能を追加したり、古い水力発電所を再生して効率をアップするなどの形で水力発電全体の出力を上げていく。

マイクロ水力発電について言及されている「高コスト構造」については、徐々に技術革新が進んでおり、設備の導入・維持等にかかる費用が抑えられることで、マイクロ水力発電の導入がより進む可能性が高いとみられます。また、関係する法令が改正され規制緩和が進めば、よりマイクロ水力発電の重要性は高まると言えるでしょう。

いずれにせよ、昨今の

原子力発電所の新設が見込めず、既存の原子力発電所も今後は廃炉が進むと予想されること
火力発電は地球温暖化の原因とされる温室効果ガスを排出し、また化石燃料の輸入により国富が流出するというデメリットがあること
天候まかせの太陽光発電や風力発電の普及が進めばより一層ベースロード電源の重要性が高まること
というエネルギー事情を鑑みると、マイクロ水力発電を含めた水力発電全般は、今後その価値が見直される可能性は十分ありそうです。

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