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靴ひもがほどけちゃう
どういうわけか僕はヒモやナワなんかを結ぶのがどうしようもなく下手くそな人間である。靴ひもなんかはそれこそ毎日のように結んでいるはずなのに、これっぽっちも上達する気配がない。
ひどい日には、家を出てから会社に着くまでの小一時間のうちに、二度ほど身を屈めて靴ひもを結び直したのに、それでも会社に着いた時には靴から二本の紐が雨の日の猫のヒゲのようにだらしなく垂れ下がっていたりする。
「継続は力なり」という格言は、今もたくさんの人々の心を奮い立たせていることだろうが、僕の靴ひもを前にすると、そんな格言も実に虚しい響きになってしまう。
今となっては、靴ひもがほどける度にわざわざ結び直すのも面倒なので、人から指摘されるまで靴ひもがほどけたまま歩き回っていることも多い。
靴ひもを結ぶのに必要な時間なんてほんの10秒やそこらだろうが、それだって積み重ねれば何分にも何時間にもなる。それならば、どうせまたすぐほどけてしまう靴ひもをいちいち結び直すよりは、歩みを進める度に水から出た小魚のように跳ね回る靴ひもは見なかったことにして目的地まで歩いた方が断然タイムパフォーマンスとやらが良いように思う。
小学生の頃は「靴ひもがほどけたままだと、他の人に踏まれて転んでしまうからしっかり結びなさい」などと先生からよく注意されていたものだ。しかし実際のところ、生まれてこの方他人に靴ひもを踏まれて転んだという経験は、自分が記憶する限り一度もない。体重の軽い小学生の小僧ならいざしらず、大の大人が靴ひもを踏まれたくらいで転ぶなんてことはまず起こり得ないのではないだろうか(そもそも大の大人の靴ひもがほどけたまま出歩いているような光景もあまり見ないことではあるが)。
「ほどけにくい靴ひもの結び方」などという情報はネットの至るところに溢れているのだから、靴ひもがほどけないような結び方をする努力をしてみたらどうなのかと自分でも思わないこともない。
しかし、僕は靴ひもの方だって縛られているよりは自由に跳ね回っている方が気楽だろうなどという訳の分からない理屈をひねり出してしまうようなところがあって、こういう役立つスキルを身につけることに対してあまり熱心でないのである。
成長や進化や発展といったものに対する抵抗というかピーターパン的な何かなのかもしれない。
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