見出し画像

NPO法人として"Hydrogen to x"を立ち上げる理由

Hydrogen to x (通称Hx)共同代表のしげまです。この度、私たちHxはNPO立ち上げ申請をすることにいたしました。水素社会の社会実装イノベーションを起こしていきたい、これを先導できる場所を作っていきたい、というモチベーションでNPO立ち上げをする運びとなりました。

ここ数日はメンバーの協力も仰ぎながら水素関連のnoteを更新して水素関連の情報やリサーチ内容を発信したり、Podcastにゲストを招いて水素社会に関わるモチベーションをヒアリングしたりと、活動が広がりつつあるHxですが、今回は初心に立ち返り、なぜHxを立ち上げたのか、Hxで何がしたいのか、なぜNPOなのか、この辺りを代表である僕から言語化し、皆さんにお届けできれば、と思います。

水素社会の実現を夢見る人たちに、少しでも届いたら嬉しいなぁと思うばかりです。

社会実装に関するイノベーションを、水素で起こしたかった

僕は研究室に入って6年間、水素発電と水素製造に関する研究をし、博士号を取得しました。僕が研究室に配属されたのは2017年、当時はTOYOTAが水素を動力にした自動車”MIRAI”が商用化されたのとは裏腹に、Tesla筆頭にバッテリー自動車(EV)が世間を台頭していました。自分の研究テーマを紹介する度に、”水素なんてエネルギーとして使える日が来るの?”と冷たい視線を向けられたのは記憶に新しいです。今も劇的に状況が変わったとは言えませんが、確実にここ数年で水素に対する世論は変わったな、と手応えを感じているところです。

世の中のトレンドとは裏腹に、水素関連の日本技術は進歩を続けてきました。欧州特許庁・国際エネルギー機関の調べによると、水素関連の特許出願数は2011年〜2020年において、日本は24%の占有率を保持し、世界で一位となりました(参考文献: https://www.sankei.com/article/20230110-SNAMYUSIPNNEBCVTW7GHX3E5FQ/  )。

しかしこうした技術的背景の進歩に社会実装がついてくる日はなかなか訪れず、水素の社会実装関連の報道が欧州中心で報道されるのを眺めながら研究をし続けるのは個人的には心苦しかったです。なぜ、こんなに素敵な技術が世の中に実装されずに、国内産業や経済が発展しない社会課題に苛まれないといけないのか。正しい価値を正しく実装していけば国力の増加につながるはずなのに、というもどかしい気持ちが少なからずありました。

だからこそ、10年後の技術と言われる水素の領域で、”今すぐにできることを模索し、行動に起こしたい”と思ったのが、Hxを立ち上げる最も大きな原動力となりました。

実は日本は再エネ大国になれるポテンシャルを秘めている

そもそもなぜそこまで水素にこだわるのか、昨今多様なエネルギーミックスが議論されている中で何故水素に傾倒するのか、という部分についてお話しします。

それは、日本が再エネ大国のポテンシャルを秘めていて、水素技術により再エネの大量導入とエネルギー自給率向上に寄与できる、と考えているからです。

様々なところで言っている話にはなりますが、水素はクリーンなエネルギー(電源)として注目を集めている側面もありますが、電力を貯蔵・輸送する手段として活用することができます。

中学の理科の教科書にも出てきたことはうっすら記憶にある方もいるかと思います。水に金属棒を2本差し、電池につなぐと水素と酸素が出てくるという反応、あれを利用するんです。

再生可能エネルギーの大量導入が進まない課題の一つは、”発電する時間・場所を選ぶことができない”ということです。風力や太陽光は、その場所・時間にあるものを活用しなければならず、ほしい時間にほしい電気が手に入るとは限りません。だからこそ、いつでも安定的に発電できる火力発電から脱却することは難しい、ということです。

しかし、まず第一に、日本は自然溢れる国であり、再エネの導入ポテンシャルは非常に高いのです。環境省の調べによると(参照:renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/doc/gaiyou3.pdf、20230530最終アクセス)、日本には2020年発電電力量実績の約2.5倍程度の再エネポテンシャルがあるそうです。

もちろんこれら全てを実装することは容易ではありませんが、少なくとも現状の訳8割を輸入に頼っている現状には割に合いません。そして、現在日本は化石燃料を輸入するために、約18兆円もの金額を費やしているのです(参照: https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20220221.html#:~:text=%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E3%81%AF%E7%9F%B3%E6%B2%B9%E3%82%928,%E5%86%86%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82、20230530最終アクセス)。

全てを再エネにする、なんて話をするつもりは毛頭ありません。エネルギー問題は環境負荷以外にも経済、国民の生活の安定、外交、様々なファクターが絡んでいるからこそ複雑で、多面的に解を導き出さないといけないことは重々承知しているつもりです。

ですが社会を眺めたときに、そのポテンシャルに対して実情が見合っていないことに対しては懐疑的です。自分達でできることを他者に任せ、自分たちの生活を困窮させているというのはいかがなものでしょうか。様々な社会課題が渦巻く日本社会において、日本社会に還元されない巨額の18兆円が海外に流出しているのは、経済の循環・持続性を担保する観点からも健全とは言えません。

そして前置きが長くなりましたが、水素技術はそんな再エネの”発電する時間・場所を選べない”課題に対して解決策を提示できます。発電しすぎてしまったときは先ほどの理科の教科書のように、電気から水素を作って”水素”として貯蔵しておくことができます。

最近は夏には電力が余り、冬には電力が足りなくなる、なんてことが起きつつあります。再エネの導入が加速している地域では特にこういったことは今後頻繁に起きます(参照:https://www.khb-tv.co.jp/news/14595181、20230530最終アクセス)。

足りなくなった時間や場所へは、水素を使って電力を”おすそわけ”することができるのです。

中立的な立場から誰かが推進していくべきである使命感

では最後に、何故NPOなのか?という観点についてです。それは水素社会市場は先行きが不透明で、民間企業(特に営利団体)が傾倒するにはあまりにもリスクが高いからです。

水素社会の重要性は2020年を皮切りに大きく変化しましたが、社会実装に向けてスピード感がある状態とは言えません。どの企業もどんなエネルギーの形が最適なのか、手探りの状態で事業化を検討しているところです。

ただ、ドイツでの温度感を鑑みると、事業化に向けてもっと推進力がほしい、というのが個人的な感想です。元来日本の技術だった領域が他の国で事業展開するのは過去にもバッテリーや太陽光パネルといった事例でたくさん見てきましたが、水素も二の舞に、ということだけはどうしても避けたい。これまで並々ならぬ思いを持って水素に向き合ってきた僕だからこそそう思うのです。

事業化が難しく、会社や業界の垣根を超え、”競争ではなく共創”を作っていく必要がある業界だからこそ、中立的なNPOという立場で共創の場所を作っていき、社会実装を推進していく必要がある。そしてこれはこれまで熱量を持って水素に携わってきた自分にしかできない、社会実装を夢見ている自分にしかできないと思った。これが僕が、僕たちがNPOを立ち上げようと思った経緯です。

水素のことならあなたたちにお任せします”、という団体にHxを成長させていきたい、そう思います。そのためにできることを少しずつ、実行に移していこうと思う今日この頃です。


Hxは、水素エネルギーの社会実装のあり方を探究するU30の研究集団であり、さまざまな企業と共に水素エネルギーの未知なる可能性の発掘を支援しています。このnoteではHxが行ったリサーチや対話を通じて見つけたインサイトをお知らせします。

公式Twitterでも水素エネルギーについての情報発信を行っています。フォロー&リツイートよろしくお願いします!

毎週更新の水素エネルギーポッドキャスト「H2 435」も運営しています。ぜひご覧ください。

水素エネルギー関連企業との共同リサーチやプロジェクトのご相談もお待ちしております。新しい水素エネルギーの可能性や未来創造にチャレンジしたいとき。ぜひ、わたしたちに声をかけてください!
世の中を、今よりちょっとだけ、楽しく・新しくしていくアイディアを、美味しいコーヒーでも飲みながら、共に語るところからはじめましょう👍

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?