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Another Legend‐空我‐ Season壱 Ep.03「Sniping‐狙撃‐」

 2020年2月3日 午後3時1分
 坂道大学 考古学研究室

資料が物語る戦前の惨たらしい研究は、もしかしたら自分の身に起こるかもしれないことを示唆している気がして◯◯は戦慄した。

以前、美波や美月から言われた「生物兵器」という言葉が、頭の中をグルグル回る。

あの時は否定したが、ただ楽観しているだけではないかと不安を掻き立てられた。

◯◯:(そんなことでどうする)

頭を振って考えを脳の片隅に追いやった。

弱気になっている場合じゃない。

無理矢理アマダムを人体に埋め込んだ結果だろう。

飛鳥:噂によると石森研究所は戦後、地下に潜って密かに活動してたみたい

さくら:もしかしたら今も…?

飛鳥:それはさすがにないんじゃない?終戦から75年経ってるしさ

◯◯:一条さんに知らせた方がいいですね

さくら:そだね。連絡しとく。…なんか顔色悪くない?大丈夫?

◯◯:そうですか?大丈夫っすよ!

さくら:ならいいんだけど…

夏目教授の墓参りに行くと言って飛鳥が出て行った後、

◯◯:他に分かったことありますか?

さくら:あるよ♪

キーボードを叩き、

さくら:クウガの色なんだけど…

さくらによると、赤は全体のバランスが取れた形態、青は跳躍力や俊敏さに優れた形態、緑は感覚が著しく研ぎ澄まされた形態、紫はパワーに特化した形態だそうだ。

さくら:青、緑、紫には武器があってね…

青は棒。

緑は銃。

紫は剣。

似た物の形状をベルトの力で変化させる。

◯◯:超古代に銃が!?

さくら:ベルトをつくるくらいだから銃があっても不思議じゃないと思う

◯◯:高度な文明だったんですね

さくら:戦いの参考になりそう?

◯◯:はい!ありがとうございます

さくら:良かった。一条さんにも伝えとくね

 ※
 同日 午後3時54分
 坂道大学 講義棟A 廊下

◯◯は次の講義のため研究室を後にした。

廊下で見知った顔を見つけて声を掛けた。

◯◯:蝶野!

俯き加減で歩いていた男が顔を上げた。

前髪に半ば隠れた瞳が◯◯を捉える。

蝶野:やぁ五代

蝶野陽一は◯◯とは高校からの同級生で、坂道大学芸術学部に通っている。

特に親しい間柄では無いが、構内で顔を合わせると挨拶くらいは交わす。

◯◯:取り組んでる絵の調子はどう?

蝶野:ぼちぼちだ…イメージ通りの色をつくるのには骨が折れる

◯◯:蝶野の絵に対する情熱、ほんと尊敬してるよ

蝶野:そんな大そうなものではないさ

蝶野が自嘲気味に笑う。

◯◯:じゃあ俺、そろそろ講義始まるから

蝶野:ああ。またな

◯◯:じゃ

笑顔を見せて去っていく◯◯を見つめながら蝶野は唇を噛み締めた。

蝶野は◯◯のことが嫌いだ。

笑顔が、気に食わない。

何故そんなに笑えるのか。

こんなくだらない世界で。

蝶野はまた俯き加減で廊下を歩き始めた。

 ※
 同日 午後4時34分
 坂道県警 未確認生命体関連事件捜査本部

美波:これから伺って見せてもらうわ。知らせてくれてありがと

美波は電話を切った。

杉田がコーヒー片手に美波に声を掛ける。

杉田:誰からだ?

美波:沢渡さんからです。フランスにいる彼女の知り合いがクウガに関連のある資料を持って来たらしいので見せてもらって来ます

氷河がパンを食べながら、

氷河:どんな資料ですか?

美波:石森研究所のものらしいです

杉田:石森研究所?

氷河:旧陸軍の研究所ですよね?確か九郎ヶ岳の近くにあった…

杉田:知ってんのか?

氷河:オカルト好きなんで最低限の知識はありますよ

氷河は「ムー」を掲げてニッコリした。

氷河:風水や霊能力で敵国首脳を暗殺する研究してたとか、レーザービーム砲を開発しようとしてたとかでオカルトマニアに人気高いんです。あくまでも都市伝説ですけど

杉田:怪しさ満点だな

杉田はコーヒーを啜る。

杉田:五代くんだが、今思い出しても気持ちのいいヤツだな

氷河:あんないい人を撃とうとしたなんて知らなかったとは言え恥ずかしいです

第3号を倒した後、美波は◯◯を杉田たちに紹介した。

◯◯の人柄は誰の目にも爽やかで、悪い印象を与えなかった。

松倉本部長も「この人物なら」と、未確認生命体事件に関して◯◯と連携体制を取るべきだと上層部を説得し承認された。

これは極秘事項とされ、マスコミ対応時、クウガはあくまでも「未確認生命体第2号」扱いのままとなった。

◯◯の力は未確認生命体事件を終息させるために不可欠であると、美波は考えるようになっていた。

だが彼が民間人であることを忘れたわけではない。

美波:(いざという時は五代のことはあたしが全力で守る)

美波は決意を新たにし坂道大学に向かった。

 ※
 2020年2月4日 午前10時7分
 坂道市 設楽町2丁目 路上

主婦:傘、持って来た方が良かったかしら?

買い物に行こうと歩いていた主婦が空を見て呟いた。

今にも降り出しそうな曇り空。

微かに遠雷が聞こえる。

主婦が足を速めた時、不気味な声が聞こえた気がして思わず足を止めた。

周りを見ても近くには誰もいない。

首を傾げ歩き出すと、

?:ゴセパボヂヂザゼ

再びどこからともなく声が聞こえた瞬間、

主婦:きゃぁぁぁぁぁっ!

主婦の体が瞬時に「何か」に吸い寄せられていく。

居合わせた人々がギョッとして立ち止まる。

主婦の体が停止した途端、首の骨が砕ける音と共に主婦はくずおれた。

周囲から悲鳴が上がる。

次の瞬間、バケツをひっくり返したような雨が降り出した。

この季節には珍しい大雨である。

主婦が倒れた場所の、何も無い空間に雨が弾かれ、人型が浮かび上がっている。

透明な何かがそこにいた。

それが動いた。

運悪く居合わせた人々が主婦と同じように殺害されていく。

辛くも難を逃れた青年が物陰から様子を窺っていると、強烈な閃光が瞬いた。

直後にゴロゴロゴロという音。

どこかに落雷したらしい。

強烈な稲光の瞬間、透明な何かがその実体を表した。

青年は、標的の首をへし折ったカメレオンを思わせる怪人の姿をはっきり目撃した。

 ※
 同日 午前11時30分
 坂道市 設楽町2丁目 路上

大雨は1時間ほどして止んだ。

美波から連絡を受けた◯◯が現場に駆けつけバイクを停めた。

◯◯:一条さん! 

美波:五代。来たか

◯◯:第4号ですか?

美波:ええ

◯◯:透明なヤツですって?

杉田:目撃者の証言によるとそうらしい

氷河:実体を現したのは、落雷による閃光があった時だけだそうだよ

杉田:ものの1分くらいでまた透明になったらしい

◯◯:何人亡くなったんですか?

美波:39人。生存者はその目撃者1人だけ

まだ現場検証の途中なのだろう。

遺体は運び出されているが、鞄やサンダルなど、直前まで普通の生活を送っていた証しが散乱したままになっている。

◯◯は怒りに拳を握り締めた。

氷河:透明になれるなんて、どうやって捕捉すれば…

美波:落雷の瞬間、姿を見せたのは偶然でしょうか?

杉田:どういうことだ?

美波:もしかすると強烈な光を浴びると実体化するのかもしれません

杉田:それがヤツの弱点かもしれねぇな

氷河:稲光みたいな強烈な光なんてどうやって出せばいいんです?

美波:警備部銃器対策課にスタングレネードが装備されています。それを使えば…

杉田:よし。それでいこう

美波:松倉本部長に手配してもらうよう連絡します

杉田:頼む

◯◯:ヤツが次に現れた時、実体を現している間になんとか倒してみます

氷河:でも1分くらいでまた透明になったらしいよ

◯◯:そうなっても、秘策があります

美波:秘策?

◯◯:緑のクウガの力を使ってみます

美波:確か、あらゆる感覚が研ぎ澄まされているっていう?

◯◯:そうです。透明なヤツでも微かな足音とかで補足出来ると思うんです

杉田:なるほど

◯◯:一条さん。その時は拳銃を貸して下さい。緑のクウガは銃が武器なので

美波:分かった

覆面パトカーの無線が鳴る。

坂道市日村町5丁目で第4号によると思われる殺人事件が発生したらしい。

◯◯たちは現場に急行した。

 ※
 同日 午後0時24分
 坂道市 日村町5丁目 オフィスビル街

未確認生命体第4号―ズ・ガルメ・レは透明な姿でオフィス街に現れ、ランチに向かう人たちが行き交う通りで凶行を繰り広げた。

殺害された者は何故、そしてどうやって、自分が殺されたのかも分からぬまま息絶えたに違いない。

駆けつけた警官たちも見えない相手に翻弄され、銃を発砲する間も無く屠られた。

◯◯たちが現場に到着した時、オフィスビル入口の屋根にガルメが姿を現した。

ガルメは挑発するように周囲を睥睨する。

ガルメ:ギガラギギバギシジャバギバ、リントンゲンギダヂジョ

美波:あいつ…

美波たちが一斉に拳銃を構える。

◯◯:俺、行きます!

◯◯が前に出てポーズを決め、

◯◯:変身!

赤のクウガになり、ガルメに飛び掛かる。

ガルメ:ガセパセダバクウガ

ガルメは瞬時に透明になった。

繰り出した◯◯の拳が空を切る。

◯◯:どこ行った!?

警官:ぎゃあ!

警官の体が宙を舞う。

ガルメは警官隊に踊り込んだらしい。

◯◯は踵を返した。

姿を現したガルメは長いを舌を時速100キロに近いスピードで飛ばし、標的の首に巻きつけへし折ってしまう。

美波たちが発砲するとたちまち透明になり、別の場所に姿を現して警官を殺害していく。

◯◯が近づこうとするも、舌による攻撃を躱すのがやっとで、近づけても姿が消えて見失ってしまう。

◯◯:くそ!

杉田:スタングレネードはまだか!?

噂をすれば影。

交通機動隊の白バイ警官がアタッシェケースを持って到着した。

美波はケースを受け取った。

美波:杉田さん!桜井さん!

手渡されたスタングレネードを見つめ、

氷河:よーし、これで!

氷河は警官がくずおれた場所にスタングレネードを放り投げた。

激しい閃光と音響。

ガルメの姿が強制的に実体化する。

ガルメ:ブゴ!

美波:五代!これでヤツは1分は透明になれない!

◯◯:はい!

◯◯はガルメにストレートを放った。

見事にヒットし、ガルメが怯む。

繰り出される舌。

地面に転がって躱し、懐へ飛び込む。

パンチやキックを放ち、ガルメを追い込んでいく。

◯◯:このまま…!

顔面を狙った拳が何も無い場所を通過する。

スタングレネードの効き目が切れたらしい。

透明になって躱したのだろう。

◯◯:どこだ!?

水溜まりが飛沫を上げた。

美波:そこか!

スタングレネードを投げる。

炸裂と共にガルメが姿を現す。

◯◯は右足に精神を集中させ、必殺のキックを見舞おうと宙返りした。

脚を伸ばした瞬間舌がくるぶしに絡みつく。

◯◯:あ!

ものすごい力で地面に叩きつけられた。

◯◯:がは!

脚は無事だがガルメは再び透明になってしまった。

◯◯:こうなったら…

◯◯は緑の力を使ってみようと決心した。

◯◯:一条さん!

◯◯の意図を悟った美波は頷き、S&W・M629を手渡した。

◯◯:ありがとうございます!

◯◯は周囲に目を向ける。

◯◯:(周りを見渡せて、ヤツを狙撃し易い場所は…)

いちばん高いビルに目星をつける。

だが、階段やエレベータを使っている暇など無い。

早く仕留めねば逃げられてしまう。

◯◯:(確か、青は跳躍力がすごいんだったよな…)

◯◯は念じ、再び変身ポーズを決める。

ベルトが鳴動し、赤から青へ姿が変化した。

◯◯:やった!

◯◯は跳躍した。

美波:すごい…

ひと跳びで高層ビルの屋上に到達する。

◯◯:よし!

着地すると◯◯は気を引き締め、再び心で念じる。

変身ポーズを取り、ベルトのクリスタルの色が青から緑に変わった瞬間、

◯◯:く…っ!

◯◯はめまいを覚え、その場に膝をついた。

遠くや近くの音と視覚、大気の流れや大地の鼓動、様々な情報が一気に彼の頭の中に流れ込んだ。

◯◯:ぐ…ふぅ…

◯◯は207番目に会得したヨガ由来の呼吸法で自らを落ち着かせ、精神を集中させた。

すると取り留めも無く入って来ていたものが溶け合い、研ぎ澄まされていく。

◯◯は前を見据える。

緑のクウガの聴覚が猛スピードで逃走する微かな足音を捉えた。

◯◯の目にぼんやりとしたシルエットが、数キロ先にも関わらず目の前にいるかのように映る。

◯◯:そこか!

左手に握ったS&W・M629が専用武器―ペガサスボウガンに変化した。

◯◯は素早く構えトリガーを搾り、狙いを定めてトリガーを引いた。

放たれた光弾がガルメの胸部を貫通する。

ガルメ:ブ…ゴッ!

刻まれた紋様から発した亀裂がベルトのバックルに到達し、ガルメは爆散した。

屋上に美波たちが到着するのと同時に◯◯の変身が解除された。

◯◯が笑顔でするサムズアップに、美波たちもサムズアップで応えたのだった。

 ※
 2020年2月6日 午後8時10分
 坂道市秋元町 廃工場

密かに7人のグロンギたちが集まっている。

漆黒のドレスに身を包んだバルバが前に進み出た。

バルバ:ワニルンログギゼゾ、ダグバグショグギョグギダ。「ズ」ンゲゲルパ、ボデゼゴギラギザ

隆々とした上半身に革のベストを羽織った男―ズ・ザイン・ダが側の机をダンと叩いた。

ザイン:バンザド!ワニル!ゴラゲ、ラダバデデバボドゾ!

輪に混ざらず、離れた場所で本を読んでいた細みの男―メ・ワニル・レが本を閉じた。

リルケの詩集である。

ワニル:ビリダヂ「ズ」グ、ゲゲルゾググレセサバギボグ、パスギボグ

ザイン:ゴセバ、ダンジャヅサドバヂガグ!

 ※
 同日 午後8時21分
 坂道市秋元町 坂道県立坂道高等学校

天:心昭お待たせ!

昇降口で待っていた澤村心昭がスマホから顔を上げた。

心昭:コーチに捕まってたの?

天:明日の練習メニューの打ち合わせしてた

心昭:お疲れさん。行こーぜ

天:うん!

自転車で校門を出る。

 ※
 同日 午後8時29分
 坂道市秋元町 廃工場

ザイン:ゴセバサ、ジャシドゲサセス!ジャラゾ、グスバ!

ワニル:ダンジャヅサドヂガグデデボパ、ダンジャヅサドブサデデ、ジヅンパガダラグパスギジョ、デデボドグギギダギボババ?

ザイン:バンザド!

ワニル:リントでは君みたいなヤツを低能って言うらしいよ

ザイン:ジョグギボデデ、リントンボドダ、ヅバデデンジャベェ!

頭に血が上ったザインは怪人態に変化するとワニルに挑み掛かった。

ワニルは呆れて物も言えないという態度で首を振ると怪人態になり、ザインに相対した。

注:画像はイメージです。

ザインが重量級のパンチを次々に繰り出す。

ワニルは余裕綽々の様子で躱していく。

ザインの拳が窓ガラスを突き破った。

 ※
 同日 午後8時32分
 坂道市秋元町 廃工場付近

後ろを走る天が叫ぶ。

天:心昭~。今日晩ごはんは~?

心昭:親いないからコンビニ飯~

天:じゃあウチ来なよ~

心昭:◯◯さんに言ってあんの?

天:兄貴なら大丈夫。きっと喜ぶって!

心昭:久しぶりに天のつくる飯食えるなんて嬉しいな~

心昭はニヤニヤした。

廃工場を通り過ぎた時、窓ガラスの割れる音にふたりはブレーキを踏んだ。

心昭:なんだ…!?

天:そこの工場からだよね?

恐る恐るフェンスに近づいた。

天は不安そうに心昭の袖口を掴んでいる。

金網越しに覗いたふたりは思わず声を上げそうになり慌てて口元を押さえた。

何やら怪しげな人物たちが集まっている。

その中に、異形な姿をした者が2体。

どこからどう見ても未確認生命体であった。

どうやら2体は争っているように見える。

心昭:(小声)ど、どうしよ天!?

天:(小声)と、取り敢えず、警察に電話!

ふたりはその場から逃げ出し、安全なところから110番した。

 ※
 同日 午後8時54分
 坂道市秋元町 廃工場

争いを続ける両者。

他のグロンギたちは遠巻きに見つめる。

楽しんでいる者もいれば、我関せずと決め込んでいる者もいた。

バルバ:ギズラセ!

バルバは両腕だけを瞬時に変化させ、バラのトゲの生えた鞭でザインを打った。

ザインはその一撃でダメージを負い、打たれた左手を押さえながら人間態に戻った。

怒りと屈辱に唇が震えている。

そんなザインをワニルは嘲った。

バルバ:ガギダバサ、ゲゲルバ、「メ」グゴボバグ。バデデバボグゾグパジュスガンゾ、ザイン

ザインは歯噛みし、顔を逸らした。

バルバ:ゲンモグパ、ザセグヅドレス?

?:ゴセザ

チンピラ風の目つきの鋭い男が進み出る。

バルバ:ビランバ。ギギザソグ

 ※
 同日 午後9時22分
 坂道市秋元町 廃工場付近

廃工場から離れた場所に覆面パトカーを停めると、美波、杉田、氷河は後続車の面パトと機動隊の輸送車に合図した。

天:一条さん!

美波:君は確か、五代の…

天:妹の天です。こいつは友達の…

心昭:澤村心昭っす

美波:君たちが通報者だったのね。危険だから、取り敢えず輸送車の中で待機してて。君のお兄さんもじきに来るから

天:分かりました

天たちが輸送車に乗り込むのを横目に見ながら、美波は杉田たちと突入に関する打ち合わせを始めた。

バイクが停まり◯◯がヘルメットを脱いだ。

◯◯:遅くなりました!

美波:これから未確認のアジトに突入を敢行する

◯◯:了解です。クウガになって戦います

美波:通報者は君の妹さんだったわ

◯◯:天が…

美波:輸送車にいるから安全よ

◯◯:ありがとうございます

◯◯は輸送車の天と心昭に声を掛け、突入の装備を固め始めた美波に合流した。

突入の際には、人間態であれば怯ませることも可能だろうということで、スタングレネードを使用することと決まった。

総員で廃工場を取り囲む。

杉田の合図でスタングレネードが投げ込まれた。

廃工場内でいくつもの閃光が炸裂する。

機動隊員がダメ押しの催涙弾を撃ち込むと、廃工場内から怒号や悲鳴が湧き出した。

ガスマスクを被り、

杉田:突入!

機動隊員を先頭に、美波たちは廃工場になだれ込んだ。

◯◯も赤のクウガに変身して後を追う。

天たちの目撃証言で未確認が集まっていたと思われる部屋はもぬけの殻になっていた。

スタングレネードと催涙弾の攻撃の一瞬で逃走したらしい。

美波:もしかして…

ゲーム以外での殺人は行わないのかもしれない、と美波は思った。

ヤツらにはヤツらなりの掟があるということだろうか。

美波はS&W・M629を構えて警戒しながら廃工場の奥へ進んでいく。

気味の悪い装飾の施された工場内を歩く。

ガスマスクの狭い視界の隅に何かが動いた。

美波:女…?

黒いドレスを身に着けた女が足早に去る後ろ姿が見えた。

美波:待て!

催涙ガスの効果の範囲外まで来るとガスマスクを脱ぎ捨て追跡する。

行き止まりだ。

ドレスの女が立ち止まる。

美波:動くな!

美波は銃口を向けた。

女が振り向く。

美波は一瞬、その類稀な美貌に見惚れてしまった。

こんなに美しい造形がこの世に存在するなんて…

バルバ:リントも、変わったな…

美波は息を呑んだ。

美波:お前、言葉…

戸惑う美波の隙を突いてバルバは右手を触手に変え、天井のダクトを叩き落とした。

咄嗟に避けた美波が前を見た時にはすでにバルバの姿は消えていた。

 ※
 同日 午後9時47分
 坂道市秋元町 廃工場

杉田:いい趣味してるぜ全く…

ナイフが突き立てられたマネキンを見て、杉田はガスマスクの中の顔を顰めた。

未確認がいないことを確認し、◯◯は変身を解除した。

◯◯:確かにグロテスクですね…

氷河:これなんでしょう?

氷河が手に取ったのは算盤に似た装飾品だ。

◯◯:殺した人の数を数える道具とか…?

杉田:あり得るな、それ

美波が戻って来た。

美波:すみません。すんでのところで逃げられました

杉田:何!?

美波:おそらく、B群1号

杉田:バラのタトゥの女か…

杉田は天を仰いだ。

警察に寄せられた未確認生命体関連の目撃情報の中で、人間態しか確認されていない者はB群にカテゴライズされている。

B群1号は通称バラのタトゥの女と呼ばれており、未確認生命体のリーダーもしくはそれに近いポジションにいると推測されていた。

◯◯:逃げられたのは残念ですけど、一条さんに怪我が無くて何よりでした

美波:ありがと

美波は微笑み、再び表情を硬くすると、

美波:ヤツは私たちの言葉を話していました

杉田:なんだと!?

美波:この社会に溶け込もうとしているのかもしれません

氷河:そうなったら恐ろしいどころの騒ぎじゃない…

◯◯:見分けがつかなくなるとゲームも進め易くなる、ってわけですね

4人が二の句を継げないでいると、夜空をつんざく悲鳴が聞こえた。

◯◯:天の声だ!

◯◯は駆けながら赤のクウガに変身した。

 ※
 同日 午後10時3分
 坂道市秋元町 廃工場付近

輸送車の中にその男が乗り込んで来た時、天と心昭は一瞬警察関係者かと思った。

服装はラフだったが、挙動が自然だったし、何より「自分たちと同じ言葉」を話していたからだ。

ワニル:リントの戦士…えーと、ケイサツを呼んだのは君たちかな?

天:そうですけど…

心昭:あなた、誰ですか?

心昭が座席から立ち、天を庇うように動く。

ワニル:これは失礼。僕は君たちに会合を邪魔された者のひとりだよ

ワニルは不気味な笑みを浮かべた。

心昭:逃げろ!

心昭が天の手を引いた。

輸送車には後部にも扉がついている。

ふたりはそこから外に飛び出した。

必死に走る。

天は悲鳴を上げて助けを求めた。

叫び声を聞きつけた◯◯たちがやって来る。

天:助けて兄貴ー!!!

◯◯:天!

◯◯は天と心昭を守るように立った。

ワニルはその光景を見て、

ワニル:(小声)兄貴、ねぇ…

と呟き、顎を撫でた。

輸送車から出て来たワニルを遠くから囲むように総員が展開する。

◯◯はファイティングポーズを取り、ワニルに正対した。

杉田:ヤツは確か…

美波:B群6号です

拳銃を構える美波たち。

ワニルは怪人態に変化した。

緊張が高まる。

ワニル:戦うつもりはありませんよ。あの子たちをちょっとしたイタズラ心で驚かせてやろうと思っただけですから

氷河:あいつも日本語を…

周囲の驚愕をよそにワニルは喋り続ける。

ワニル:僕は今のリントに興味津々なんですよ。僕の知ってるリントは温厚で、ただただ我々に狩られるだけの存在でした。唯一の例外がクウガを生み出したことでしたが、今はそれ以上に戦闘的だ

◯◯はワニルにパンチを繰り出したが、素早く避けられてしまう。

ワニル:戦う気は無いってのに…

避けながら呟くワニル。

◯◯:くそっ

ワニル:今のクウガも昔より戦闘的ですね

ワニルは後ろに跳躍し、輸送車の屋根に乗ると、

ワニル:僕は楽しいゲゲルがしたいだけ。僕の番になったらまたお会いしましょう

ワニルは再びジャンプし、夜陰に紛れて逃走した。

◯◯も青のクウガにチェンジして追い縋ったが瞬く間に見失ってしまった。

 to be continued…

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