奇跡の探偵VS日向坂探偵局
菜緒:ミーコちゃーん
◯◯:ミーコちゃんやーい
いなくなった飼い猫探しを依頼された僕らは日向町を駆け回っていた。
菜緒:おらんなぁ
◯◯:捜索範囲広げるか?
菜緒:せやなぁ。でも今朝おらんなったばっかりやから、そう遠くへは行ってへんと思うねんけど…
◯◯:猫ってすばしっこいし気まぐれだから探すの大変だよね
菜緒:人と猫の知恵比べや。こういう時は猫の気持ちになって考えなあかん
◯◯:猫の気持ちねぇ…どうやるの?
菜緒:まずは猫耳でもつけてみよか
猫耳をつけた菜緒を想像してみる。
◯◯:かわいい
菜緒:キモ…変態やん
◯◯:ジト目やめてって。でもかわいいことはかわいいだろ絶対?
菜緒:あほか///
◯◯:芽依さん呼ぶ?
町内で猫と言えば真っ先に思いつく人だ。
菜緒:それも手かもな
なーんて、明らか途方に暮れていると、
?:もしかして探してる猫ってこの子?
インバネス・コートにディア・ストーカー・ハットを被った小柄な女の人が三毛猫を抱いて立っていた。
◯◯:ミーコちゃん!どこでその子を?
?:ぶらっとしてたら塀の上歩いてて。この子探されてるって思って捕まえたんだ~
菜緒:なんでこの猫が探されてるって分かったんですか?
?:それはねぇ…
フフンとニヤッと、口元に笑み。
?:勘、ってヤツさ!
菜緒:えぇ!?
◯◯:あてずっぽうってこと!?
?:違うよ勘だよー
◯◯:同じようなもんだと思いますけど…
菜緒:格好から察するに…もしかして同業者の方ですか?
?:ということはあなたたちも探偵なの?
菜緒:そうです!
◯◯:シャーロック・ホームズのコスプレかと思ってました。すみません…
?:大丈夫だよ~よく言われるから😢
◯◯:最後悲しそう!ほんとごめんなさい
菜緒:あたしらは日向坂探偵局の小坂菜緒と
◯◯:助手の佐々木◯◯です
祐希:与田祐希!よろしくね!
菜緒:え!もしかしてあの「奇跡の探偵よだちゃん」さんですか!?
祐希:確かに世間じゃそう言われてる~
菜緒:すごい!
祐希:坂道県にまで祐希の噂が轟いてるとは思わなかったなぁ~
まんざらでもなさそうな顔してる。
◯◯:奇跡の探偵って?
菜緒:よだちゃんさんの手に掛かったらどんな事件もたちどころに解決。ただし、そうはならんやろ~って方法でな
◯◯:へぇ。だから奇跡の探偵か…
祐希:なんか照れるなぁ
◯◯:それって別に推理とかしてるわけじゃなくないか?
菜緒:運も実力の内や
そういうもんなのかな?
菜緒:こんなところでお会い出来るなんてめっちゃ光栄です!あの…良かったら握手してもらってもええですか?
祐希:構わんよ~
菜緒:ありがとうございます♪
握手した手を何度もぶるんぶるん。
菜緒:この手洗われへんわぁ
◯◯:僕にもお願いします
祐希:いいとも~
人懐っこい笑顔で握手してくれた。
◯◯:ありがとうございます!
祐希:ところでさ、ふたりに聞きたいことがあるんだけど…
菜緒:なんですか?
祐希:ここってどこ?
菜緒・◯◯:は?
※
夕闇が迫る日向町を歩く。
菜緒:まさか迷子やったなんて…
祐希:迷子じゃないよ。相棒とはぐれてぶらっとしてたらどこにいるか分からなくなっただけだもん
◯◯:それを世間では迷子と言うらしいです
祐希:そーなんだ!覚えとこー
菜緒:その相棒って人から連絡は?
祐希:スマホ調子悪くてさ。連絡取れてない
◯◯:参りましたね…
菜緒:取り敢えずミーコちゃんを飼い主さんの元に届けに行っていいですか?
祐希:いいよー♪
飼い主さんの家へ。
飼い主:ミーコ!
飼い主さんはミーコちゃんを抱き締めた。
飼い主:ありがとうございます!
菜緒:とんでもないです。仕事ですから♪
飼い主:万が一ゴンザレスに襲われていないかもう心配で心配で…
ゴンザレスとはこの地域のとあるお宅の番犬で、凶暴で有名で誰彼構わず噛みつこうとしたりするドーベルマンだ。
菜緒:どこも怪我してませんでしたよ♪
◯◯:見つかって本当に良かったです
祐希:あたしが協力しました♪
飼い主:あなたは?
祐希:頼れる助っ人探偵、与田祐希です♪
きらーんって音が聞こえた気がする。
飼い主:そ、そう…
戸惑う飼い主さん。
そりゃそうですよね。
飼い主:依頼料は後で振り込んでおくわ
◯◯:ありがとうございます
菜緒:最近この辺りで空き巣の被害が多発してるらしいですから、気をつけて下さい
飼い主:分かったわ
◯◯:またのご依頼、お待ちしております
祐希:あたしにも是非お願いしまーす
飼い主さんの家を後にする。
祐希:営業までさせてもらって悪いね~
菜緒:全然問題ありません!
◯◯:空き巣って、確か昨日もあったよな
菜緒:4丁目でな。これで4件や。手口から容疑者は浮かんでるけどなかなか尻尾掴まさへんって、陽菜が愚痴ってたわ
◯◯:へぇ…
祐希:むむむ。難しいな~😣
菜緒:何してはるんですか?
よだちゃんさんが2本の絡まり合った針金みたいに細い棒をイジイジしている。
祐希:ミーコちゃん捕まえた時にね、これ咥えてたの。知恵の輪だと思う。なかなか解けないんだよね~
イジイジ。
菜緒:まさか、これって…
菜緒の目が光った。
菜緒:よだちゃんさん
祐希:なぁに?
菜緒:ミーコちゃん見つけたとこへ案内して下さいませんか?
祐希:いーよー♪
※
空き巣犯:参った。こりゃ参ったぞ…
彼は焦っていた。
大事な仕事道具であるお手製の鍵開け棒を落としてしまったのだ。
空き巣犯:あそこで落としたのか?それともあそこか?
一見すると細めの知恵の輪にしか見えないがどんな鍵でも開けてしまう優れもの。
これが無いと仕事が出来ない。
空き巣犯:もう歳かな…
このヤマを踏んだらこの街からずらかり、違う街でまた盗みをしようと思っていたのに。
空き巣犯:まさか。さっき入った家か?
彼の顔から血の気が引いた。
その可能性が高い気がして来たのだ。
しかし現場に戻るのは気が引ける。
だが、警察にあの道具が見つかったらそれこそ万事休す、またまた塀の中へご招待だ。
彼はこれまでに5度、お縄を頂戴し刑務所の中で暮らして来た。
人生100年時代というが、実に4分の1近くを塀の中で過ごした計算になる。
もう臭い飯を食うのはごめんだ。
居ても立っても居られず、彼は危険を承知で現場に引き返すことにした。
※
祐希:ミーコちゃん見つけたのここだよー
菜緒:この塀の上を歩いてたんですね?
祐希:そー
周辺の家々を見て回る。
菜緒:◯◯!こっち来て!
菜緒がとあるお宅の玄関ドアの前にいた。
菜緒:これ見てみ
鍵穴の周囲に細かな傷がついている。
◯◯:ピッキングの跡か?
菜緒:そうや。ほらこの特徴的な傷跡、あの知恵の輪みたいなやつで鍵穴コチョコチョしたらつきそうやと思わん?
◯◯:確かに…
ミーコちゃんが咥えていたのは知恵の輪じゃなくてピッキングの道具だったわけか。
菜緒:さすが奇跡の探偵よだちゃんさんや。やっぱ持ってはるわぁ
ドアを引くと、案の定鍵が空いている。
◯◯:おじゃましまーす…
室内が見事に荒らされていた。
◯◯:あちゃー
菜緒:史帆さんに連絡して!
◯◯:おう
史帆さんと陽菜ちゃんが至急来てくれることになった。
◯◯:そういえばよだちゃんさんは?
菜緒:あれ?どこ行きはったんやろ?
◯◯:また迷子か…
僕らはよだちゃんさんを探し始めた。
※
祐希:おーよしよし
その頃よだちゃんは空き巣に入られた家から数件離れた家の飼い犬とじゃれていた。
祐希:かわいいなぁ
犬小屋を見ると犬の名前が書いてある。
祐希:お前がゴンザレスかぁ。全然凶暴じゃないじゃん
撫で回していると犬小屋のそばの棒に結わえてあったリードが外れ、ゴンザレスが駆け出した。
祐希:やばっ。ねぇ待って~
追い掛けたがなかなかの俊足で、どんどん引き剥がされていく。
祐希:さすがドーベルマン…きゃっ
ドテチンッ💫
躓いて転んだ。
祐希:いててて…
ゴンザレスが遠ざかっていく。
すると、
ワンワンワンッ…
ギャーーーッッッ…
獰猛な吠え声の後に男性の野太い悲鳴がこだました。
※
日向町を金のレパードが走り抜ける。
陽菜:あっ!史帆さん!男の人がワンちゃんに噛まれてます!
史帆:ほんとだ~!大変じゃ~ん!
レパードを停め、駆け寄る。
ドーベルマンが男の脚に噛みついている。
陽菜:ゴンザレスですぅ!
史帆:大人しくしなベイビ~
銃を取り出そうとする史帆。
陽菜:動物虐待になっちゃいます!コンプラ的にヤバイです!
史帆:そだね~
リードを掴んでふたりがかりでなんとか引き剥がし電柱に繋ぎ止めた。
史帆:大丈夫ですか~
陽菜:ズボンを噛んでただけみたいですね…
お礼を言いながら男が顔を上げた瞬間、
史帆・陽菜:あーっ!
男は空き巣犯だった。
史帆:逮捕だ~!
陽菜:ここで会ったが三百年目!あれ?四百年だっけ?
空き巣犯はあっさり逮捕された。
空き巣犯:くそ!道具さえ落とさなけりゃ…
※
悲鳴を聞いた菜緒と僕が捕り物の現場にやって来るのと、とてとてよたよたとよだちゃんさんがやって来たのがほぼ同時だった。
祐希:こんなとこにいたかぁ
電柱に繋がれたゴンザレスを撫で回す。
祐希:おーよしよし
菜緒:あ!ゴンザレスや!
◯◯:危ないですよ。その犬獰猛ですから!
祐希:大丈夫だよー。こんなに大人しいもん
凶暴で有名な番犬ゴンザレスがよだちゃんさんにじゃれついている。
◯◯:ムツゴロウさんかよ…
史帆:あのゴンザレスを手懐けてる~
陽菜:あなたいったい何者ですか?
祐希:探偵の与田祐希!人呼んで、奇跡の探偵よだちゃんさ
きらーんという音が聞こえた気がした。
史帆:なんか聞いたことあるかも~
陽菜:あたしもです
菜緒:ところでどういう状況ですか?
史帆:かくかくしかじか~
陽菜:しかじかかくかく
菜緒:なるほど。空き巣犯が道具を落としたことに気づき戻って来たら、ゴンザレスに襲われてしまったわけか…
祐希:犬小屋の前で撫でてたらゴンザレスのリードが外れて逃げちゃったんだぁ。追い掛けたけど全然追いつかなくて…
菜緒:よだちゃんさんが逃がしたゴンザレスが偶然空き巣犯に襲いかかって…
◯◯:そこへ偶然史帆さんと陽菜ちゃんが通り掛かって逮捕に至ったと…
菜緒と僕は顔を見合わせ、
菜緒・◯◯:いやそうはならんやろ~!
史帆:ご協力感謝します~
陽菜:さすが奇跡の探偵さん!
祐希:えっへん!すごいでしょ~
ニヤッとムフッとドヤるよだちゃんさん。
その時、遠くから歩いて来る人影がひとつ。
祐希:あ!
よだちゃんさんが駆けていく。
菜緒:よだちゃんさん!?
祐希:相棒見つかった!ありがとー!
菜緒:また日向町に来て下さーい!
祐希:うん!またねー!バイバーイ!
よだちゃんさんが遠ざかっていく。
◯◯:不思議な人だったね
菜緒:せやな。ウチも見習わなあかんわ
◯◯:どの辺を?
菜緒:うーん…動物手懐けるとことか?
僕らはよだちゃんさんが見えなくなるまで手を振り続けた。
※
「全く。探しましたよ…」
祐希:よく祐希がいるとこ分かったね?
「そうはならんやろ~って声が聞こえたもんでね。そうやって誰かに言わせるのは与田さんしかいないんですぐ分かりました」
祐希:さすがだねぇ。優秀な相棒だぜ
「今度は迷子にならないで下さいね」
祐希:ところでなんで祐希たち日向町に来たんだっけ?
「与田さんが日向町に有名な探偵がいるから会いたいって言ったんでしょ?」
祐希:そーだったそーだった♪
「頼みますよ。日向坂探偵局探してる途中で迷子になるんですもん。結局会えず仕舞いで帰ることになりましたね」
祐希:その探偵なら、祐希会ったよー
「えぇ!?」
祐希:ぶらっとしてたら会ったんだぁ
「さすが奇跡の探偵ですね…」
祐希:えっへん♪
fin
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