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菌食性甲虫つれづれ

菌食性甲虫というのがいる。菌食性とは、キノコを専門的に摂食するという意味だが、それらが食べるキノコは、人間が食べるような柔らかいキノコではなく、朽木や立ち枯れについているカワラタケのような硬いキノコであるのが普通である。山中を歩いていると、このような硬質キノコがたくさん付いている立ち枯れなどがよく見つかるが、それらを見て回ると、たくさんの小甲虫が群がっていることがある。

ナガニジゴミムシダマシ?の成虫と幼虫 
2022年8月 神奈川県愛川町 立ち枯れのキノコに多数みられた。

これらの菌食性甲虫は、どういうわけか、まんべんなく分布している感じではなく、特定のポイントに複数種がまとまって見られることが多い。

2023年9月には、厚木市内の里山ですごい立ち枯れを見つけた。もはや、御神木の風格。大きく成長した硬質キノコが生着していた(菌類は素人なのでキノコの種は未同定)。

この御神木の洞に、おびただしい個体数の菌食性甲虫が見られた。ごく一部を採集(下写真)。黒ツヤの丸っこい小型種はクロミジンムシダマシで、特にたくさんいた。

以下、一部を紹介。目を引くのは、立派な角を持つコブスジツノゴミムシダマシである。

コブスジツノゴミムシダマシ♂
コブスジツノゴミムシダマシ♂
体表洗浄後

上写真のように、体表に付いていたココアパウダー状の物質を削り落として標本にしたが、付着物の中に大量のダニが埋もれていて辟易した。。本種の体表の凹凸は、ダニを寄生させるためにあるのだろうか(利点は不明だが)。

下写真のヒゲブトコキノコムシも個体数が多い。コキノコムシ科。体表に毛が密生しているのが特徴。

ヒゲブトコキノコムシ

他、体表が滑らかで無毛のゴミムシダマシ類がいた。

クロオビキノコゴミムシダマシ
ベニモンキノコゴミムシダマシ
ツノボソキノコゴミムシダマシ♂

これらの甲虫は日中でも見られたが、夜間に同所を訪れると、コヨツボシアトキリゴミムシも見られた。

コヨツボシアトキリゴミムシ
朽木や立ち枯れを夜に見て回るとよく見られる。じっとしていることが多い。

本種は菌食性ではなく、捕食性である。キノコに集まる虫を捕食しているのだろう。キノコに集まる甲虫は、どういうわけか、上翅に4つの斑紋を持つ種が多い。上述のベニモンキノコゴミムシダマシやヒゲブトコキノコムシもその例である。ミューラー型擬態とも言われているが、オサムシ科とゴミムシダマシ科など、必ずしも近縁でなく食性も異なる異種同士が、単にキノコに集まるからという理由で、背中に同じような紋様を持っているのは、何とも不思議である。

神奈川県内の別の場所では、朽木のキノコを夜間に見て回ると、サビハネカクシ(下写真)が翅をブンブン言わせながら活発に動き回っているのが見られた。本種も捕食性で、ハエの幼虫などを狩るらしい。

サビハネカクシ
体長13 mmほどで、ハネカクシにしては大型種。独特の美しさがある。

菌食性というより朽木食かもしれないが、サトユミアシゴミムシダマシも、今年(2023年)にようやく見ることができた。体長3 cmほどある大型のゴミムシダマシである。

サトユミアシゴミムシダマシ♀

一般には普通種のようだが、神奈川県では、県央から西部(丹沢山地を除く)でこれまで記録がなかった稀な種である。2023年秋、夜間に相模川の河畔林で地表にいるのが見つかって驚いた。が、その後、上記御神木や、河畔林の立ち枯れを夜間に見て回ったら簡単に見つかったので、特に珍しくはないようである。

サトユミアシゴミムシダマシ
上述の御神木にいた個体。
サトユミアシゴミムシダマシ
河畔林にあったこの立ち枯れには数頭見られた。

以上、2023年に見た菌食性甲虫。この仲間については詳しく調べている人がそれなりにいると思うので、自分はあまり深入りするつもりはないが、とりあえず、複数種の甲虫が多数集まっているのを観察するのは楽しいものである。個人的に、菌食性よりも、キノコに集まる捕食性甲虫の方をもっと見たいのだが。キノコゴミムシという、キノコに来る大型の捕食性甲虫がいるらしい(これも背中に4つの斑紋がある!)ので探しているのだが、未だお目に掛かれない。西日本では普通種らしく、近年、神奈川県でも死骸の発見が記録されているので、そろそろ見つかってもよさそうだが。気長に探すことにする。

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