見出し画像

#136 食料自給率にこだわる意味がわかりません

総裁選の討論を聞いていたら「食料自給率」が出てきた。

4人とも「食料自給率は大事」「攻めの農業を」という。

まあ農林族の票もあるから滅多な事もいえない。たいした論点でもないので事を荒立てるのは得策ではない。

それでもある候補者が「自給率100%を目指すべき」と発言したことに違和感を覚えた。この人、本当はわかっていないんじゃないか?

拙著「ビジネス・エコノミクス」(2006)、P.239より

日本の食料自給率は40%を切り、先進国で最低となっている。多くの不安を持ち、新興国の需要の増加、食の安全保障、マネーゲーム懸念から数値を引き上げる政策に賛成している。

久々に農水省のキャンペーンがうまくいった事例である 。

「比較優位の原則」は経済学の中でも直観的に理解できない命題なのでだまされやすい。

日本への農産物の輸出国(米、中国、豪州など)が何らかの理由で輸出を禁止すれば困るのはその国の農家である。もしバイオ需要が高まっても、生産農地は拡大するから心配ない。水産業などの高値の「買い負け」を懸念する人がいるが、1人当たりGDPからすると、困るのは低所得国と中国の貧困層である。日本人なら円安も負け要因である。

自給率の算定にも問題がある。カロリーベースの自給率の算定は簡単であるが野菜等はカロリーが低いので日本は小さくなる。生産額ベースであれば自給率は約70%となる。肉卵は飼料が自給の部分しか参入しない。卵は自給100%近いが9%に下がる。

戦争等で封鎖されたら困るという心配をする必要はない。日本のエネルギー自給率は4%(2008年)しかないため、石油が入って来なくなるので先に電気や車が止まってしまうからだ。

やるべき事は農産物の分散購入である。ある国と問題が起きても他から買うようにすれば、相手がカードを切る効果もなくなる。

鎖国を続けていた江戸時代は飢饉が起きるたびに死者が出て、一揆も起きた。自給率100%とはこういう危険を意味する。貿易があれば安定しそうしたことは起きない。つまり食料自給率は低いほど幸せなのである。

貿易理論で学んだように比較優位の原則は比較劣位の財は輸入したほうが双方幸せになるとする。たしかに比較優位の原則は単純化されている面があるから議論のスタート台に過ぎない。しかし、日本の農業の多くは比較劣位どころか絶対劣位にあるのだからその単純化を理由にすることはできない。

もしコメの関税(ほぼ自給率100%の聖域)がなければコメ5キロが500円(国際価格の2倍)程度で買え、バターが不足することもないはずである。消費税の軽減税率どころの額ではない。自給率を異常に心配する日本人であるが、この高価格を怒らない国民の方が不思議である。

ただし、TPPなどは自由貿易協定ではなく、ブロック化協定(関税同盟)にすぎない。この場合、「貿易創造効果」(trade creation effect)と「貿易転換効果」(trade diversion effect)が起きる。後者のマイナスが大きければ良い結果とはならないことに注意が必要である。

(引用終わり)

※ TPPが議論されていた5年前の文だね。今、またTPPの話題(台湾、中国)になっていますね。

※「バイオ需要」って大豆なんかの投機が盛り上がっていたことを指します。

※ コロナがはやり始めの頃、輸入できずに困ったのはトイレの部品でした。石油ショックや半導体、レアアース、ワクチン不足はあったけど、戦後、農産物が輸入できず国民が飢えそうになったなんて聞いたことないよ。奇妙な計算式の結果だけをうのみにして、農水省に踊らされていると思う。

※ そういえば「TPPはアメリカの陰謀」みたいなこと書いていた人やその賛同者っていっぱいいたね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?