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「副業」から「複業」の時代へ。しかし、「キャリア」の本当の意味が抜けている。

「副業」という言い方に加えて、近年、「複業」という言葉が使われるようになりました。

「副業」とは本業の合間にちょっとしたアルバイトをするような意味の言葉です。本業に比べ、責任が重くない仕事を指すことが一般的です。

これに対し、「複業」とは、複数の本業を持つことです。「副業」という軽い表現では、仕事を取り巻く環境変化をうまく説明できません。「複業」という言葉の登場は、ワークライフについての新しい時代の到来を象徴しています。

しかし、「複業」という言葉は個人のキャリアを考える上では、まだ不十分です。この言葉は、雇用する側である企業や、それを監督する行政の立場から見たものだからです。個人の人生を考える上では「キャリア」という言葉を正しく理解することが大切です。

「キャリア」の語源はラテン語の「cararia」で、荷車の通り道、轍(わだち)という意味だそうです。それが転じて、人がたどる道のり、経路などを意味するようになったのです。つまり、「キャリア」は必ずしも職業、収入を得られる仕事だけを意味する言葉ではないのです。

ビジネスの世界で「キャリア」という場合、職務上の経歴を指すのが一般的です。履歴書に書く内容が「キャリア」というわけです。しかし、それでは家事労働、育児・介護、趣味に費やす時間は「キャリア」に含まれないことになります。「キャリア」を狭く捉えることで、人生の可能性を狭めてしまうのです。

知人のAさんは、若い頃に大病を患い、長期間の引きこもり生活を余儀なくされました。病が小康状態となったのは30代半ばで、社会経験がほぼないAさんは非正規雇用の仕事を見つけるのが精一杯でした。

まだ病気が完治したわけではなかったAさんは、苦しさを我慢しながら働いていたそうです。当初は、「周囲は私の苦しさを理解してくれない」という気持ちが強かったそうです。しかし、少しずつ「まず自分が周囲の人たちを理解するべきだ」と思うようになっていったそうです。すると、Aさんの仕事ぶりや行動が変化し、徐々に周囲から信頼を集めるようになっていったのです。

その後、Aさんはコツコツと勉強して国家資格を取得し、50歳近くになって独立開業を果たしました。前職で信頼を集めていたAさんは独立後も元の会社から仕事を振ってもらえるようになったのです。履歴書だけを見ればAさんは30代半ばまでがスッポリ抜けてしまっています。しかし、Aさんには“闘病”という「キャリア」がありました。Aさんはその貴重な経験を意味づけることによって、より良い人生を切り開いたのです。

ドムドムバーガーの経営者の藤崎忍氏、ブックオフの元・経営者である橋本真由美氏が専業主婦であったことは有名です。お二人は履歴書に書けるような「キャリア」を持たないにもかかわらず、知名度の高い企業の経営者に就任したのです。推測ですが、このお二人も専業主婦であった時代を独自に意味づけているのではないかと思います。

履歴書に書けるものだけが「キャリア」ではありません。深く考え、適切な意味を与えることができれば、家事、育児、介護、闘病は立派な「キャリア」になります。趣味、娯楽、旅行なども同じです。退職後の人生も「キャリア」です。“収入を得られる活動”だけが「キャリア」ではありません。

日本では就業者の9割は被雇用者で、さらにその6割が正規雇用で4割が非正規雇用だそうです。ほとんどの人が組織の中で働いているため、「副業」や「複業」という言葉が注目されるのです。しかし、人生全体を考える上では「キャリア」とは何かを正しく理解する必要があります。

大切なのは、自分の行ったこと、たどった道筋を内省し、それを意味づけ、次の行動を起こすことなのです。

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