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「君は乙女の化身」という言葉と桃色の呪い

可愛い女の子でいたくて必死だったころの文章を発掘したので載せます。今読み返しても痛くて可愛いな。22歳でした。



(2017/春)

好きな人に、「君は乙女という言葉の化身だ」と言われた。褒められているんだか馬鹿にされているんだかよくわからなかったけれど嬉しかった。

もうかれこれずっと何年も、頭のてっぺんから爪の先まで「女の子」でいなければ、と思いながら生きている。
アクセサリー類が全て禁止されているアルバイト先に向かう前だって、服に合うピアスを選び、指輪をして、ネックレスやブレスレットを着ける。もちろん勤務中は外すので必然的にそれらを着けているのは行き帰りのバスの中だけになる。往復でたった20分。誰が見ている訳でもない20分。それなのに着けていかずにはいられない。

女の子でいたい。いなくてはいけない。という、多分、強迫観念。

鞄をあけると、目がチカチカするようなピンク色が飛び込んでくる。財布も筆箱も化粧ポーチも水筒も煙草ケースもウォークマンもキーケースもピンク色。ここまでくるともう性癖だよな。22歳の誕生日、友達に「死ぬまでピンクの似合う女でいて」とピンク色の鞄とハートのピアスをもらった。死ぬまでピンクの似合う女でいなければ、と気が引き締まった。と、同時に、その言葉は呪いになった。今も解けない呪いだ。ピンク色のリボンに体中を絡め取られている。


去年の冬、ゼミで、2チームに分かれ相手側のチームの中の1人をターゲットにし、ターゲットの第一印象を羅列して誰のことを言っているか当てる、というゲームをした。
誰かが、ピンクの似合う女の子、と言った。すぐにわたしのことだと当てられた。ああわたしが普段やっていることは成功してるんだなと思った。成功ってなんだろうね。

今でもときどきトレーナーにスキニージーンズみたいな格好をして、友達に「らしくないね」と言われて、後悔する。
春先、ニットにワイドパンツを履いてトレンチコートを羽織って出かけたら、ピンク色の鞄をくれた友達に「これであんたがそういう格好がほんとに好きな子だったら残酷だね」と言われた。似合ってないんだなあと思って、ほんとだよね、と言って笑った。実はこういう格好も好きなんだよとは言えなかった。


女の子でいることに手を抜いてはいけないという強迫観念。
「死ぬまでピンクの似合う女でいて」とプレゼントされた鞄を見て、後輩が、先輩っぽいですねその鞄、と言った。そう言われ続けなければいけないという強迫観念。

そんなものに追われながら、追われている自分を心底馬鹿にしながら、それでもやっぱりそういう自分に愛しさを感じる。


わたしは自分の顔が特別可愛いわけではないことを知っている。でも努力して、まあなんとか平均レベルくらいまではもってきた。
だから、爪が可愛いねとか、ピアスがいいねとか、その服似合ってるねとか、そういうようなことを言われたい。そのあたりは努力でどうにでもなる。顔は変えられないけどさ。褒められたくて媚びることをみっともないと言う人もいるけれど、褒められたくて頑張ることのなにがいけないんだろう。わたしは褒められたい。可愛いねと言われるために可愛い女でいたい。なにが悪いよ。
わたしは、香水よりも石鹸の匂いが好きな人の方が多いからと石鹸の匂いがする香水をつけるような女だよ。それのなにが悪いの。

っていうのは例えでほんとは香水だけは好きなものがあって、シャンプーと同じメーカーのやつ、つけていると自分が世界で一番目に愛らしい女なんじゃないかと錯覚するくらい大好きでほんとカネボウには足を向けて寝られない。いやそんなことはどうでもいい。話がそれましたね。


たいていの可愛い女の子は、努力していることを隠して、生まれつきこうでしたよみたいな顔をしながら、自分の魅力に鈍感な振りをする。可愛いねと言われたら、困ったような控えめな笑顔で「そんなことないですよ」なんて言ったりする。知らんけど。今めちゃくちゃ勝手なイメージで喋ってる。

わたしは可愛いねなんて言われたら心の中で「よっしゃ!!!!」と叫ぶ。そりゃあもう。なんなら声に出して「マジ?やったー!」くらいのことは言う。それくらい嬉しい。だって努力してきたもん。褒めてほしいが故に普通は隠すであろう陰の努力も自ら公表しちゃう。こんなに頑張ってるんだよ、わたし可愛いでしょ、って言っちゃう。そんなところも可愛いでしょ。可愛いって言え。言って。


馬鹿みたいな強迫観念に追われながら、それでも、人に可愛いと言われたいと思うことをみっともないとは思わない。媚びることのなにがいけないんだろうね。
わたしはきちんと自分の世界を愛している。好きな音楽があって、好きな本があって、好きな映画があって、それらに育てられた感性があって、どれだけ誰かに褒められたくても、そのためにそれらを見失ったり蔑ろにしたりしない。
そういうものがある限り、たとえだぼだぼのトレーナーを捨ててもワイドパンツを履かなくなっても、わたしはわたしのままでいられると思う。だから大丈夫よ。


ところで「そりゃあたしは綺麗とか美人なタイプではないけれどこっち向いて」って、すごく可愛い歌詞だよな。
あたしは綺麗とか美人なタイプではないけれど、出来る限り一生懸命可愛くいるから、こっち向いてよ。いつだって全力だよ。見てろよ。



(4年越しにこの記事へのアンサーを書きました。併せて読んで欲しいな。こちらです。)


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