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カレンダーの向こう側〜農家のお茶の間〜 Vol.11 【大塚 直剛さん】地球の未来へと繋げる、美人な野菜が育つ畑

現在、農家プロデュース&デザイン集団の「HYAKUSHO」では、クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」を通じて資金調達に成功した「農家さんの 365 日をそのまま伝える HYAKUSHO カレンダー」の制作プロジェクトを実施中です。

カレンダーは、ひと月にひとりずつ農家さんをご紹介。農家さんへの取材から見えたストーリーを通して、農家さんと消費者を繋げることを目指し、2022年に向けてお届けできるよう、走り出しています。

WEB連載「カレンダーの向こう側〜農家のお茶の間〜」では、農家さんへの取材から見えた「つくり手の生き方」を、より詳しくお伝えしていきます。ぜひ読者の皆さんにも、農家さんと一緒にお茶を飲みながら、お話を聞いているような気分を味わっていただけると幸いです。

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今回の農家さんは、長野県塩尻市の農園『with Earth』を運営する大塚 直剛(おおつか・なおたか)さん。農法は、一部有機栽培を採用していますが、100%自然栽培で成り立つ畑を目指して土と向き合っています。
「子ども達や、その先の子ども達に、本当に残すべきものは、持続可能で、豊かな土。」と大塚さん。地球環境に負荷をかけず、作り手も、お客さんも楽しめる作物を目指しています。

君って、美人だね……


「自然栽培で育った野菜は、特に自分で生きようとする力が、すごく強いと思うんです。
ナスやトマトもスッゴイ綺麗で、見つめたまま独り言で『美人だね』って言っちゃうんですね。」

大塚さんが注力するのは自然栽培。肥料や農薬を使わず、土が本来持つ力を引き出す農法です。自然栽培をして感じるのは、野菜の力強さ。そして子孫を残す種を抱く姿に、女性的な艶っぽさを見出します。

「たたずまいが綺麗で、すごく美人なんですよ。細胞が緻密で、肌がきめ細かい。トマトもナスも、光を集めたり反射したりしてテッカテカになるんすよ。艶っぽいし、なんか、すごい、魅力的だなと思って。」


青森県八戸市生まれ、東京都府中市で育ち、高校卒業後に自衛隊に入隊した経験もあります。その後は「ちゃらんぽらんだった」と振り返る大塚さん。飲食店や、”夜の仕事” も経験したのだそう。その後、自然栽培で米を育てていたお姉さん夫妻の元で、住み込みで農業をお手伝いをすると「自然の近くにいたい」と感情が湧きました。

自分が働く場として、しっくりくる農業法人を探して行き着いたのが長野県塩尻市。有機栽培の農業法人を経て2013年に独立しました。

現在は、南西を向いて北アルプスを望む、なだらかな棚田と段々畑で、そら豆やトマト、ナス、人参、キャベツ、松本一本葱などの野菜や、米を栽培しています。標高800mほどの、年間を通して1日の寒暖差が激しい土地で育った野菜には、たくましさと、甘みが乗っています。

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『with Earth』のコンセプトは、今の子供たち、さらにその先の子供たちが安心して楽しく暮らしていけるように、まずは1000年続けられるライフスタイルを目指すことです。

「私たちが未来に残していくべきもの、残せるものって、結局のところ山や川、そして土だと思うんです。

土は植物を育てる力が無くなると、砂になってしまいます。やがて砂漠が広がり、文明を再度蘇らせること、栄えさせることは、相当難しくなります。そんな環境を、未来へ押し付けてはいけません。

自然の仕組みを理解した上で、元々あった力のある状態の土に戻してあげる。このやり方で土を作る自然栽培を選んでいます。」

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自然栽培を4年以上続けてきた畑の土は、大塚さんの苦労や思いに応えてくれます。

「自然栽培の畑の土って、超気持ちいいんです。赤ちゃんの肌みたいな、ぽくぽくふわふわなんすよ。それを触っているのも楽しい。

野菜や米を食べていると、畑と腸が、連動してくる感覚があります。今まで溜まってきた悪いものも出すことができるんです。そうしたら、風邪もあまりひかなくなりましたね。」


さらに、土を触っているうちに、乾燥肌だったはずの肌がみるみる綺麗になったのだそう。

「冬はバッキバキに割れていた手が、割れなくなったんですよ。これこそ、天然の泥パックです。泥パックを買うときは、その泥のクオリティをしっかり確認した方がいいですよ(笑)」

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農法選択の葛藤のなかで

自然栽培は土の力を使うため、栽培のために広い面積や、土が回復するまでの時間が必要です。また、野菜を病気や虫と上手く付き合いながら育てることは、非常に手がかかり難しくなります。シーズン中に作れる野菜の数は少なくなり、必然的に野菜の価格は高まってしまいます。


「そうすると、お金に余裕のある人にしか手に取ってもらえないんですよね。

僕の感覚から言うと、健康を害する人は安い粗悪なのものを食べている場合が多い。それは、健康であることが、まるで稼げる人の特権のようで嫌なんです。

多くの人に、納得してもらえる値段で提供するために、自然栽培だけでなく、今は有機肥料や有機農薬を必要な量だけ使う有機栽培も選びながらやっています。」


自然栽培は大量生産が難しく、農家にとっても収益化が難しいのが一般的です。
食べ物は、体を作りあげるもの。だからこそ、良いものを食べてもらいたいとする気持ちと、農家として生活を成り立たせることの間で、葛藤しています。

「一度、100%自然農法にしたのですが、収入が現実的なものでなかった。農法の選択について、僕みたいに悩んでいる人は、結構いると思います。」

試行錯誤しながらの農業。しかし、支持者は確実に増えています。長期で付き合いのある卸業者や、幼稚園の給食で出すことを提案した園長先生、『with Earth』の野菜を都会で広めてくれる人がいます。さらに米にいたっては、塩尻市奈良井宿に新しくオープンしたホテル『BYAKU Narai』で提供されることになりました。

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農業で、想いを体現する

今後進めていきたいのは、持続可能な社会と、豊かな自然を繋いでいくことを運営方針の中心に据えた農業。

「僕自身は、化石燃料なしで農業をすることも構想しています。畑の表面を覆うマルチをビニールじゃなくて草にしたり、車は電気自動車にしたり。でも、だからって、化石燃料が悪いと言っているわけじゃないんです。

そもそも、地球上に存在しないものから化石燃料はできませんよね。宇宙からやってきた鉱石で、オイルを作ったわけではない。だから、化石燃料も地球でできた自然物であるという感覚はあるよね。

使い方の問題だと思う。人間が、悪く使おうと思ったらそうなってしまう。

現代社会とのバランスを見ながら、みんなで使い方を誤らないように、選択できたらいいですよね。」

大塚さんからすれば、スマホ、パソコンなどのプラスチック製品も地球で取れた自然物。それをどう使うのは、私たち一人一人の判断にゆだねられています。


「人間が、何のために生かされてるのか。農業をやってると、より濃く感じられた。」と話す大塚さん。農業を通して、その想いを体現していきます。

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大塚直剛さん
青森県八戸市生まれ,東京都府中市育ち。自分で何でもできるつもりでいたのに、何もできないことに気づき2008年半ば逃げるようにたどり着いた
塩尻は静かに少しづつシンプルだけど豊かな生き方を教えてくれました。2013年にお世話になった有機農業法人を卒業し独立。「自然栽培」に出会い,今の子供たち、さらにその先の子供たちが安心して楽しく暮らしていけるようまずは1000年続けることができるライフスタイルを目指している。

with Earth


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