見出し画像

<対談> はじまりから辿る食材のストーリーと価値 きりの実ダイニング 片桐 健さん × HYAKUSHO代表 兼 わさび生産者 田中 暁さん

6月某日、海外諸国や首都圏での勤務などを経た後、地元駒ヶ根でお蕎麦屋・焼肉店を営む片桐さん(写真左)と、京都出身で現在は農家とクリエイターをつなぐHYAKUSHOを主宰しつつ南箕輪村でわさび生産を行う田中さん(写真右)がそれぞれの角度から対談を行いました。

1)自然のなかで育っている実感の持てるわさび

わさび

ーー片桐さんが田中さんのわさびを知ったのはどういうきっかけだったのでしょう?

片桐: (同じくHYAKUSHOの)小澤さんと違う仕事で関わらせていただいた時に、「ワサビ作ってるんですよ」と話をされて。僕も蕎麦出してるので「わさび使いたいです」と言ったのがきっかけです。

田中: どうでした?僕ら、食のプロじゃなくて、味利きできるのかっていうとそうでもなくて。

片桐: すごくいいです。擦りたての香りもよくて、辛味もフレッシュなので。特に、わさびの香りは擦った直後しかしないので、その刹那も味わえるということで、お客様には自分ですっていただくように提供してます。

田中: さっきもお蕎麦いただいたんですけど、辛かったです。

片桐: 何より、自然の中で育っているという実感がもてる。決して、綺麗ではないので色々化粧してお客様に出すんですけど、無駄に手を加えてないっていうイメージが大きいです。

田中: 手を加えてないというか、手つかずですね。

片桐: あとはやっぱり、畑が近いというのがメリットですね。

田中: 初めて作ったわさびなんで、ほんま、褒めてもらえてよかった。(笑)

2)お客様を連れていきたいわさび畑

ーー片桐さんは、わさび畑にも直接行かれたそうですね。

片桐さんわさび畑

片桐: サンプルを送ってもらえる、とのことだったんですが、ちょうどスケジュールが合う日があって突撃してきました。

ーー田中さんは、そもそもなぜわさび畑をやろうと思ったのでしょうか?

画像3

田中: 京都から2年前に移住して。僕らは元々クリエイターなんですけど、地域の農家さんと出会うなかで農家さんの課題解決やファンづくりに取り組むようになりました。ただ、よそから来て、農業を知らない僕らに「農家の何ができんねん」てなるじゃないですか。それで、自分たちも農業をしようと。今は高齢化も進み休農しているところも多い。どんどん引き継げる体制を作りたいね、と話していた時に、安曇野のわさび農家さんから、「南箕輪で後継者いないわさび田があるけどやらない?」と相談があり、全面的にサポートしてもらいながら、わさび作りをスタートして。今年が初めての収穫でした。

片桐: 今回わさび畑にお邪魔して、一番の感想は「お客様を連れてきたい!」だったんです。自分で引っこ抜いたわさびでお蕎麦を食べれるような、イベントというかツアーができたらとても楽しいなあと。畑でやってもいいし、連れていって、とってきて、自分たちで根っこを全部掃除して。

田中: モノ(商品)じゃなくてコト(体験)ですね。出張きりの実とかやりましょうか。僕らもあのわさび畑をいかにエンタメにしていくか考えてます。畑の真ん中に2個くらい茶室を作ってみたいとか、その場でお蕎麦打ってすするとか。農家って、作ったものだけ売るんじゃなくて、もっと他に売れるものがあるよなあと思っていて。僕らはそれが「わさび畑そのもの」であったり、そこから出てくる情報をコンテンツにして発信したいんです。
普段やっているのは生産物(モノ)を作ることなんだけど、その過程でも面白いコンテンツ(コト)がたくさんあると思ってます。

片桐: 食べるだけではなく、自分で収穫したり、その価値を学びながら最後に口に入れる、そんなストーリーが体感できるような場があれば、すごく、いいなあと。観光でもいいし、食育として地域の子供たちと一緒にやっていく、でもいいですね。

3)地産地消を地域にインストールにする大切さ

ーー片桐さんは、地産地消をコンセプトにお店を経営してらっしゃいますが、地元の契約農家さんは何軒くらいでしょうか?

画像4

片桐: 3軒くらいです。年がら年中使うネギと、あとは玉ねぎ、あとは自家菜園で5-6品目くらい。自家菜園は父が気ままにやってるので、内容が変わることもあります。

田中: 地域で飲食店をやっていても、農家さんとのマッチングってあまりないものですか?

片桐: 野菜で言うと青果市場があって、県外産ですけどだいたいの野菜が揃うし、配達もしてくれます。調味料はまるっと商社さんが取り扱っている。やっぱり飲食店を経営する身としては、出来上がった仕組みに乗っかる方が便利なんです。農家さん側も然り。なので、地元をものを地元で揃えようとするのは、簡単なようで結構難しいんです。

画像5

田中: 僕も地域の人たちが地域のものを消費するって、あるようでないような感じがしてて。極力そういう生活をしようとしている人はもう実践してはるんですけど、全体の中でいうたら本当数パーセントで。これはもう、高校生以下を一生懸命食育して20年後くらいを目指していかんと、疲弊するなと思っていて。これって、誰が先生っていうより、街の飲食店とか、農家さんがちゃんと分かってて、関わる人にちょっとずつ話す、という当たり前の環境がないと、なかなか達成ってされないよな、と思うんです。

片桐: もう6−7年前になりますが、フランスのパリに行ったことがあって。パリのスーパーは生鮮物が本当に少ないんですね。じゃあ街の人たちがどこで買ってるかというと、朝のマルシェ。大通りに、地元の農家さんたちが野菜をドカドカ持ってきて、地元の人たちがわーってきて、一気に買って、一気に終わるっていう。そもそもスーパーの入る余地もないし、必要がない。地元の人たちだけで経済が回ってるんです。そういう食文化というか、フランスのマルシェ的なものを目指すような地域が出てくれば面白いなと。

4)美味しさだけじゃない、起源から知ってもらう価値

ーー片桐さんが料理人として美味しさを伝えるときにこだわっているポイントはありますか?

片桐: 美味しさって、出てきたものを食べる美味しさと、それがどうやって作られてどんな思いでやってきたのを知ってて食べるのと、これを食べるのにどういう食べ方が一番美味しいか知ってて食べるのと。やっぱり全然意味合いが違うんです。お店で松川(町)の黒豚を使ってるんですけど、ひょんなことでIターンして豚を育てている若い生産者と出会って。もう本当に自分の子供達のようにというか、紹介してくれるわけですよ。「これが母豚です、父豚です、子供達は尻尾を切らずに飼育してます、その訳は・・」みたいな。自分の仕事に本当に誇りを持っていらして、そういうのを聞くと、最初は「美味しい」だけでお付き合いしようと思ってたのが、なんだか愛着が湧いて、もうどんどん勧めたくなるんですよね。お客さまに出す時にも、「黒豚、一枚ずつしゃぶしゃぶしてくださいね。全部一度に入れないで!」って。(笑)

田中: 食べ方の提案も必要ですよね。なんか、脳で記憶するというより、心でアプローチされる方が、自分たちにも残るし心で覚えてるから、熱量持って誰かにおすすめできる。このわさびだってそうです。できる限り畑にきて欲しい。また、そういうストーリーを動画なり記事なり、きちんとコンテンツにしていけば、ちゃんと売っていけると思っています。僕らクリエイター上がりの農家ができることって、そのプラスαの収益をいかに一緒に作っていけるかだなと思って、現在コンテンツのプラットフォームみたいなものを準備してます。

画像6

ーー農家、料理人、消費者の皆様がストーリーを介して繋がっていく中で、あったらいいなと思うコンテンツはありますか?

片桐: 例えば、農産物が、お料理になっていくまでのストーリーを、苗を植えるとか農地を拓くとか、そういうところから蓄積して行って、消費者の皆様がスタートから見れるようなものがあると、それ自体がすごい期待感になると思うんですよね。私も最近YouTubeを始めましたが、やっぱり根本にあるのはストーリーをみてもらいたい、ということですよね。もう広告を出すなどの販促手法が大きな効果が得られない時代にあるので、だったら自分がインフルエンサーになっちゃった方が早いなと。ファンになってみていただけるような人たちが増えたらいいな、と。まだ模索中ですけどね。

田中: 僕らも、僕らのわさび畑もどんどん活用してもらいたいです。秋にまたわさびの苗を定植するんですけど、一列二列、一緒にどうですか?

片桐: 是非是非、やらせてください。

画像7

プロフィール:
きりの実ダイニング
お蕎麦と信州牛 / 片桐 健(写真左)
郷土料理を提供し続けることで地域の食材や食文化を支え、また、地域にあ新たな食文化を提案することで、地域の食文化をより活発にしている。
「地消地産」を推進し、地域の農業を支える一助となり、地域の雇用を創出。地域のコミュニケーション ・安らぎの場を提供することで地域の食文化を守り、育てていく役割を果たしている。
現在は駒ヶ根に2店舗を経営。8年間の海外生活の経験も。
http://kirinomi.com/

HYAKUSHO / わさび田
生産者 / 田中 暁(写真右)
2018年より京都から長野県塩尻市に移住。
HYAUSHOにて農家プロデュース&デザイン事業を進める中、休耕地を活用し2019年春よりHYAKUSHOわさび畑をメンバーと共に開墾。
「作って売る」だけではなく「環境全て」を商業利用し、クリエイターだからこそ出来うるエンタメわさび畑を計画中。また、わさび畑を「人と人とのコミュニケーションツール」として活用し、新しい出会いや繋がり作りを実践している。
生産者としては1年目につき素人生産者である。
https://www.hyakusho.info/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?