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ヒノキ林の伐採跡地を放置してみる

西粟倉村の山の特徴を紹介するときに、まず森林率、人工林率を挙げることが多いです。どちらも、かなり高い数値です。つまり、山が多く、針葉樹林が多い。

まとまった広葉樹林も無いことはないのですが、国道沿いから見えるものは少ない。実際に、谷底から尾根まで、スギ・ヒノキが植えられている場所が非常に多くあります。

しかしながら、植えた木の成長が極端に悪い場所、地形的に木材として伐り出すことが困難な場所も多くあります。村内の年配の方からも、「尾根の方は広葉樹を残しておけばよかった」という声を聞くこともあります。

針葉樹の多い村内の山

ここ数年、村内の何箇所かで皆伐・再造林を行う機会があったので、スギ・ヒノキの再造林を行う一方で、広葉樹林化についても色々考え、試してきました。

そのうちの1か所では、ヒノキを伐採した後、尾根の近くでは、自然の力に任せて森林を再生させる「天然更新」を行っています。シカなどが入らないように防護柵で囲った内外で、3年後の状況を比べました。

以下は、天然更新を試している3地区の概況です。

柵内①

アカメガシワ、カラスザンショウなど、開けた場所にいち早く進入するタイプの樹木と、クマイチゴ、タケニグサなどの背の高い草が主体。

柵内②

ツツジやリョウブなどあまり大きくならないタイプの樹木が高密度で生える。柵内①にみられる背の高い草は少ない。

柵外

ピンク印の部分に樹木が存在

ツツジ、アカメガシワ、アカマツなど、柵内にもみられる樹木が生えてきている。


写真から一目瞭然ですが、柵の内と外で、明らかに柵外では森林が再生しそうにありません。

生えてきている樹木の種数をみると、柵外でもそれなりに生えて来ていることがわかります。実際には、調査で認識できる以上の種類が生えてきている可能性もあります。ところが、シカに食べられるためでしょう、半分以上は死んでしまい、高さも10cm程度にしかなれていません。

2019-2020年に生えてきた樹木のうち2021までに生き残った割合
10cm以上に成長した樹木個体の平均

国内各地の研究・報告で、シカ等の影響により本来成立すると思われる森林にならない、という例は多数みられます。シカの密度が高い西粟倉でも、防護柵がないと天然更新もうまくいかないことは間違いなさそうです。ただの雑木林をつくるだけでもお金と労力がかるのです・・・

それとは別に、個人的に疑問に思っていることがあります。柵内①と②は、50m程度しか離れていないのに、生えてきている樹木の種類が大きく異なります。

現状から考えると、柵内①は、アカメガシワとカラスザンショウが15mくらいまで成長し、その下でクリ、コナラ、ヤマザクラなどがじっくりと育つように思われます。一方柵内②は、リョウブやヤマウルシなどが7-8mくらいに育ちつつも、大半は1-2mのツツジ類に覆われたままになるのかな?と思えてしまいます。

近くにある広葉樹林からの距離なのか、現地の微地形なのか、水分・養分の環境が異なるのか、それともヒノキを伐採する前からの影響なのか・・・。

大学時代の恩師が調査地の湿原でつぶやいた、「植生は物語るなあ」という言葉を思い出しました。簡単に言えば、環境の違いなどによって成立する植物が異なる、ということなのですが、この柵内の広葉樹たちの物語について、自分はまだその背景を見出せていません。でも、こういう不思議に次々に出会えるから、山歩きをやめられないのです。

(永美暢久)


この記事は、百森 Advent Calendar 2021の14日目です。


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