ディアスク2 2
2/
枕元に置いてある目覚まし時計が音と振動を僕の頭へ伝えてくる。
朝だ。
僕は煩わしさを感じながらゆっくりと閉じていた瞼(まぶた)を開けた。
部屋の窓を覆っている薄めのカーテンを通して優しい朝日が僕の目に入ってくる。
「……んんー」
次にベッドの中でゆっくりと伸びをする。
「ふぁー……」
そのまま欠伸をしたところで徐々に体が五感、その他諸々の機能を取り戻していく。
五感が正常に働きだしたところで、僕の嗅覚が朝ご飯の匂いを捉え、そして僕の聴覚が部屋に近づいて来る足音を捉えた。
僕はゆっくりとベッドから体を起こして、その足音の主を待った。
足音が僕の部屋の扉の前で止まり、数拍あけて、扉が開かれる。
扉を開けた足音の主は、ベッドの上で体を起こしている僕に対して花が咲いたような笑顔を浮かべた。
それから一直線に僕の方へ歩いて来て、僕の前で一度止まった。
彼女は僕が止め忘れていた目覚まし時計を優しく止めて、素敵な笑顔のまま、優しく僕を抱き締めた。
「おはよう、葉歌」
僕に呟きながら抱き締める力を少し強めた。
「おはようございます、恭花さん」
なにより大切でどうしようもなく愛しい恋人に思わず笑顔が零れ、そして僕も抱き締め返した。
食卓テーブルに付いた僕の目の前に数品の朝ご飯が並べられていく。
嬉しそうな幸せそうな微笑みを浮かべテーブルへ朝ごはんを運ぶ彼女は鏡恭花(かがみ きょうか)さん。
僕の恋人である。
そんな恭花さんは毎朝、というわけではないが時折朝ごはんを作りに僕の家へ来て、先ほどのように起こしてくれる。
朝から恭花さんの嬉しそうな顔が見られるのが僕の楽しみだ。
「ん? どうしたんだ葉歌」
僕の視線に気付いた恭花さんが手を止めた。
「いえ、僕って幸せだなぁと改めて思いまして」
「フフフ、そうか」
「葉歌が幸せなら私も嬉しい」と付け足して、恭花さんは最後の皿をテーブルに置き僕の向かいのイスについた。
「さぁ、食べようか」
「そうですね。今日のご飯も美味しそうです」
フフフ、と笑いながら恭花さんが両手を合わせる。
僕もそれに倣った。
「「いただきます」」
僕には両親がいない。
父親は僕が物心つく頃にはすでに家にはいなかった。
写真類も残っておらず父親がどんな人物なのかすら知らない。
そういう理由で僕は母親と二人で暮らして来た。
そんな母親も生まれつき体が弱かったそうで僕が中学の頃にこの世を去ってしまった。
母親以外に頼れる大人はおらず僕は孤独になった。
死のう、そう思った。
しかし、単純明快で複雑な人間の精神性によって僕は今を生きている。
何があったのか、その話は今は置いておこう。
僕が言いたい事はつまり、今現在この家には僕と恭花さん以外の人間はいないと言うことだ。
つまり、朝ご飯を食べ終わって学校に行く時間までの間、居間のソファーの上で恭花さんに膝枕をして貰う僕の至福の時間は誰にも邪魔されない。
「はぁ、幸せです」
「ふふふ、それは良かった」
笑いながら、僕の頭を撫でる手が気持ちよくて、僕はまた吐息を漏らした。
恭花さんは手を止めないまま壁に掛けられた時計を見た。
「葉歌起きてくれ。名残惜しいが遅刻してしまう」
「はーい」
僕は立ち上がり、恭花さんに手を差し出す。
恭花さんは微笑み、僕の手を取って立ち上がった。
それから恭花さんはテーブルの上にあった刀をとり、腰に差した。
再び手を握って2人で玄関へ。
靴を履いてから、どちらからともなく抱き締めあう。
数秒抱き締めあったところで恭花さんの腰の刀がひとりでにガチャガチャ音をたてた。
『いちゃついてないで早くしろ。遅刻するぞ』と低い声で急かされる。
恭花さんがそんな愛刀に軽く手を触れた。
「ふふふ、行こうか葉歌」
恭花さんが手を差し出す。
「行きましょうか、恭花さん」
僕はその手をしっかりと握って、外に出た。
いい天気だ。
空が青い。
「さーて、今日はどんな1日を過ごそうかなぁ!!」
これが僕、霊繋葉歌(たまつなぎ ようか)の最高の1日のスタートである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?