白澤優人の人となり 2
さて、食券機の前まで来たものの何を頼んだらいいものやら。
食券機にずらりと並ぶメニューに一通り眺めてみる。
定食に丼物、麺類にサラダ、デザートなど種類は意外と豊富で、悩ましい。
悩ましい、のだが悩んでいる時間は無さそうだった。
次から次へと俺の後ろに客がやってくるのだ。
既に三人ほどの男女が並んでいるのだが、彼らは一様に先頭で呑気にとぼけた顔で俺に怪訝な顔を向けてきているようだった。
早くしろよ、ということだろう。
しかし、なにせ学食を使ったことがないものだからメニューはそう易々とは決められない。
メニューの中には名前を見てもどんなものなのか想像出来ないようなものもあった。
困りつつ、どうしても気になって列の方をチラリと見てみた。
三番目に並んでいた男子生徒と一瞬目が合ったが、目が合った瞬間に彼は勢いよくこちらから顔を逸らした。
その行動に釣られたように、彼の前に並んでいた女子二人もふっと顔を逸らした。
また、顔を怖がられたのだろう。
最近は幾分、その機会が少なかったので余計にダメージを喰らう、がその間にも四人目が列に並び、俺を急かす。
傷ついている時間もない。
俺は前に向き直り、財布から千円を抜き出して食券機に入れ、名前を知っていて味の想像も容易で無難そうな『カツカレー』のボタンを押した。
食券を渡す場所がわからない、食券を渡したおばちゃんにビビられる、料理の受け渡し口でも別のおばちゃんにビビられる等の出来事はありつつも、何とか無事にカツカレーの乗ったトレイを受け取った俺であったのだが、今度は別の問題に直面していた。
席がない。
そう、昼間のピークであるこの時間、学食の座席のほとんどに人が座っている。
パッと見て、空いている席と言えば複数人のグループで占領しているテーブルの端の席ばかり。
二人掛けの対面座席のテーブルは埋まっている。
学食の奥の端にある壁に面した一人掛けの座席にも空きはあるものの、生徒と生徒の間の一席という感じで、俺が座るには少々ハードルが高い。
どうしよう。
トレイを持ったままウロウロと学食を右往左往する。
こうしている間にも、カツカレーは冷めていく。
俺の顔面にビビっていたが、作ってくれたおばちゃんに申し訳ない。
どうしたものか、と思っていたところで都合の良い事が起こった。
右往左往する俺の目の前のテーブルを使っていた連中がトレイを持って立ち上がったのだ。
彼らはこちらに目を向けることもなく、俺の脇を通って食器を下げに行ったようだった。
席が空いた。
しかし、俺は一瞬悩んだ。
空いた席と言うのが四人掛けのテーブルで、しかも学食のほぼ中央に位置する場所にあったからだ。
この席に独りで座って、周囲から白い目を向けられないだろうか。
不安が頭を過ぎる。
が、依然賑わいを見せる学食で悩んでいる暇などないだろう。
俺は逡巡を挟んで、思い切ってその席に座った。
周囲から白い目で見られることなど、どうせ今更だ。
ほとんど強がりで自分を鼓舞してみたが、なんとも空しい。
おもわず俯いてしまうが、俯いたところでカレーの良い匂いが鼻を突いた。
そんなことを考えていてもしょうがない。
周囲のことは一旦忘れることにして腹ごしらえとしよう。
俺はトレイに載った銀色のスプーンを手に取って、さっそく最初の一口にありつこう――としたところで、声を掛けられた。
「お、これこれは桐間殿ではござらんか! いやぁ、奇遇にござるなぁ! 申し訳ござらんが、食事を同席させていただいてもよろしいでござろうか?」
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