bullet 7

(作成途中のため、内容の変更や執筆の中断をする可能性があります) 

 地面を滑るようにして、転がった銃身を手に取り、素早く構えた。
 拳を構えた副島の動きが止まった。
 お互いに命を狙える距離。
 ほんの一ミリでも動けばお互いに動き出す。
 そんな極限の緊張感を孕んで、膠着状態となった。
 「……」
 「……」
 言葉は無い。
 お互いの呼吸音が聞こえるようだ。
 吸う、吐く。吸う、吐く。吸う、吐く。
 リズムのようなそれを見逃さない。
 その間に挟まれるほんの半瞬程度の小さな隙間。
 生物の構造上生まれてしまう致命的な隙。
 俺はそこで引き金を引いた。
 狙いは副島、ではない。
 その背後、天井からつるされた電灯の鎖だった。
 発砲音、金属のぶつかる音、電灯が地面に落ちて砕ける音。
 それらが一瞬のうちに鳴り響き、ボロボロの倉庫内は一気に灯りを失くし、薄暗くなった。
 そんなことはお構いなしに副島が一気に距離を詰めてくる。
 危機が迫るが、予想していた動き。
 副島の一撃を無理やりに避け、走り出す。
 こんな怪物の相手をまともにする必要などない。
 俺にはやらなければならないことがある。
 運が良かったのは、電灯が天井から落ちた衝撃のせいか次の瞬間にボロボロの天井が崩れ落ち始めた。
 轟音を響かせながら、副島の頭上にトタンの板が降り注ぐ。
 しかし、背後を確認している暇などない。
 俺は現場をいち早く立ち去るため全力で走り、その場を離れた。

5/
 降り出した雨の様子を窓越しに見ながら廊下を歩く。
 放課後の部室棟は昼休みと打って変わって騒がしく賑わっていた。
 その賑わいに紛れる様に、部室を目指した。
 ガチャリと部室のドアを開ければ、既に部長はいつもの席で、いつものようにPCと睨めっこしていた。
 部長が不在でなかったことに俺はホッと胸を撫で下ろす。
 「お疲れ様です」
 「ん、おお」
 部長は俺が来たことに気付いていなかったのか、声を掛けてからこちらを一瞥し適当な相槌を返してきた。
 どうやら忙しいらしい。
 普段なら横柄な態度で俺に淹れさせるコーヒーも自分で用意したようで、PCの横に置かれたマグカップからはうっすらと湯気が立っていた。
 部長が居てくれたことに安心してしまったが、これでは話を聞いてもらえそうになかった。
 俺が部長に何かを言えるわけもなく、出来ることは部長の手が空くのをただ待つだけ。
 早速の手持ち無沙汰だった。
 お互い無言の部室。
 部室棟を使っている他の生徒の声と部長の叩くキータッチの音、それから外の雨音が部室に響く。
 ぼんやり窓の外を眺めれば憂鬱が加速する。
 傘を持ってきてないことを嫌でも思い出させるような雨の様子だった。
 おもわずため息を吐く。
 部長の方に目を向ける。
 部長はいつにも増して難しい顔でPC画面を見ていた。
 時々考える様子を見せ、キーボードを叩き、コーヒーに口を付けて、それからまた難しい顔をする。
 いつもなら「面白い話をしろ」なんていう無茶ぶりが飛んできてもおかしくないのだが、今日はそれもない。
 まだまだかかりそうだ。
 俺は一旦諦めて、スマートフォンを取り出してゲームを起動させた。
 ほとんど惰性だけで続けているゲームは単純作業の繰り返しで、時間は潰せるが時間が潰せるというだけ。
 何かこういう時に有意義に過ごせる趣味があればいいのだが、と思うが今まで生きてきてそういった趣味に出会ったことは無かった。
 友達も居なければ趣味もない、当然恋人などいるはずもない。
 なんとも空虚な人生だ。
 振り返れば暗い気持ちになってしまう。
 天気が良くないせいかもしれない。
 知らず知らずのうちに深いため息を吐いていた。
 ゲームのスタミナもすぐに切れてしまい、早々にまた手持ち無沙汰に戻る。
 スマートフォンを制服のポケットに戻し、部長の方を見た。
 目が合った。
 「暇そうだな、周」
 呑気にコーヒーに口を付けながら部長がそう言った。
 「いや、部長のこと待ってたんですけど……」
 「だろうな」
 部長は口角を上げて意地が悪そうに笑った。
 「……いいんですか?」
 話しかけてきた、ということは多少なりとも手が空いたということだろうか。
 訊ねると首肯が返ってきた。
 「ま、休憩がてら後輩の面倒を見てやるよ。昼休みに相手してやれなかったしな」
 相変わらず上から目線の態度だが文句を言える立場ではないので何も言わない。
 俺は黙って鞄のそこから件の銃弾を入れた箱を取り出して、部長に渡した。
 部長も黙って受け取り、箱を開ける。
 「……お前、わざわざこんな丁寧に保管したのか」
 面倒そうに二重にしておいた箱を開ける部長。
 「だって、銃弾の扱い方なんて知るわけないじゃないですか!?」
 現代日本の未成年者が銃弾の扱いなど知るはずがない。
 知っている方がおかしいと思う。
 「そうだろうけどよ……。……これか」
 部長が銃弾を取り出した。
 人差し指と親指で銃弾を挟み、光に晒すように掲げた。
 黄土色の金属の色が部室の蛍光灯を受けて鈍く光った。
 部室に静寂が訪れる。
 不思議と周囲の音も聞こえない気がした。
 妙な緊張感を覚えて、唾を飲み込んだ。
 「……ど、どうですか?」
 神妙に訊ねる俺の言葉に部長はすぐに答えず、もう数秒同じ格好のまま銃弾を眺めていた。
 部長はそれから掲げるような恰好を止めて、自身の掌の上に転がした。
 「どう、って。まぁ、銃弾だな」
 なんでもないように部長が言う。
 「本物ってことですか?」
 また訊ねると部長がこちらを見た。
 目が合う。
 その視線はいつもの軽妙なものではなく、妙な真剣さが見えた。
 「……本物、だな」

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