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小説

257
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2020年1月の記事一覧

『財団』

 カチカチ、と薄暗い部屋の壁に掛けられた時計が過ぎ行く時を報せていた。
 薄暗い部屋にはPC画面から漏れる光で照らされている。
 部屋の主たる青年はPC画面と睨み合っていたが、やがて限界を迎えた様に机に突っ伏した。
 「……あー……」
 呻き声のような声を上げた後、青年は掛けていたPC用メガネを外した。
 本格的にPCの作業を諦めたようだった。
 PC画面では大学で出された2000字のレポート課題

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『指名手配犯4』

5/
 「さて、と」
 言海は頼まれていた牛乳と卵を買い終え、自宅近くのスーパーの軒先に立っていた。
 空はすっかり星が輝き始めている。
 どうやって宇野聖花を探そうか、ととりあえずスマホを確認した。
 『協会』からの連絡があれば探しやすかったのだが、画面にはなんの連絡も表示されていなかった。
 こうなると手段は二つ、『協会』側の知り合いに情報を提供してもらうか、FPを展開して聖花の所在を探知する

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『指名手配犯3』

 向川勝也(むこうがわ かつや)がFP能力に目覚めたのはつい数日前だった。
 彼は元よりアウトローとして生きてきた人間であり、社会的に大人として認められはじめた現在においてもその生き方は曲げていない。
 未来を顧みず、今の事だけを考え、自分を認めないもの、自分の気に入らないもの、そういったものに対して容赦なく暴力で解決してきた。
 そんな彼には当然敵も多く、昔から喧嘩を売って、売られての生活を繰り

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『指名手配犯2』

2/
 教室には初夏の爽やかな風が吹き込み、カーテンを不規則に揺らす。
 下校時刻を過ぎたこの時間の教室には既に生徒の姿がほとんどなく、部活動に励む生徒たちの声がグラウンドや他の教室から響いていた。
 
 「今日、何するんだ?」
 「ゲーム?」
 「うちにあるのほとんど一人用のRPGだぞ」
 「あー……、そうだっけ?」
 「……『昔』からそうだろう」
 「『昔』からね、なるほど……。あー、でも、R

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『指名手配犯』

 「……ククク――」
 男は笑いをこらえる様に肩を震わせた。
 やがて、我慢できなくなったかのように天を仰いだ。
 「ハーハハハハハハハ!!」
 夜闇に紛れるような路地裏に一人立つ男の周囲では多数の人間が倒れている。
 うずくまり小刻みに動いている者もいれば、完全に動かなくなってしまっている者もいる。
 その中央で男は狂ったように笑い続けた。
 路地裏でただ一人、月に照らされる己を勝ち誇るように、

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