マガジンのカバー画像

小説

277
物語です。
運営しているクリエイター

2019年11月の記事一覧

『雨宿り』

 「うーん……」
 川沿いの土手に腰を下ろした外国人の青年が唸った。
 手にはアコースティックギターとタブレット端末。
 彼、ジェームズ・ハウアーは唸りながらタブレットに何かをメモし、ギターを弾き、また唸りながら何かをメモする。
 この繰り返しをかれこれ一時間近く行っていた。
 また何かを弾きだし、手を止めてメモを始めた。

 「うーん……ん?」
 作業は順調に進んでいる様子であったが、ポツリとタ

もっとみる

『すり替えておいた』

 「……割とうまかったな」
 「そうだな。また来てもいい」
 男二人がラーメン屋から出てきた。
 二人は共に背中に楽器を背負っていた。
 今日はライブだった。
 三バンド合同のライブで、少なくとも二人の所属するバンドは大いに成功した。
 ただ、残り二つのバンドはそれほど盛り上がりを見せずに終わってしまい、それが面白くなかったようで打ち上げの席でも若干険悪なムードであった。
 そのため彼らのバンドは

もっとみる

『透明人間』

 昼のピークを過ぎたハンバーガーショップの店内は落ち着いた空気が流れていた。
 店内にはスーツや制服を着たものが多く、騒がしさは落ち着いているものの座席自体はそれほど空いてはいなかった。
 「うーん……、どうしようか」
 スーツを着た青年――久我 健太郎(くが けんたろう)は注文した商品の乗ったトレイを持ちながら空いている席を探していた。
 けして広いとは言えない店内をぐるりと見渡すと、大通りに面

もっとみる

『死んだ恋人の幻影に囚われ続けている男』2

2/
 午後になると街の方の喧騒もさらに騒がしくなってきた。
 学校も終わる時間になったのか、街の外れにあるこの家の周りにも近所の悪ガキが駆け回っているようだった。
 午前中、女の来訪の後に貯めていた洗濯なんかの家事を終わらせたため、意外と時間がかかってしまいこんな時間になってしまった。
 疲れも溜まったので外で一休みしようか、と玄関を開けたところで近所の悪ガキ集団に見つかってしまった。
 「おー

もっとみる