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小説

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2019年10月の記事一覧

『死んだ恋人の幻影に囚われ続けている男』

 朝が来る。
 夜が来る。
 また朝が来て、夜が来る。
 何千何万回と繰り返してきた日常が今日も通り過ぎていく。
 あとどれくらい繰り返すのだろう。
 あとどれくらい繰り返さなければならないのだろう。
 
 どんな間違いを犯していようとも、どんな願いを望んでいようとも、どんな後悔を抱えていようとも日常は等しく万人の目の前を通り過ぎていくのだろう。
 通り過ぎていく時は心の内の傷を忘却させ、癒すこと

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『謎の少女と僕の出会いとそこから始まる不思議な話』

 「はぁー、なんか面白いことでもないかね」
 その日、天気は雲一つない快晴であった。
傾き始めた日差しと晴れ渡る青空の下、眼鏡をかけた少年が呟いた。
 
 夏休みを目前に控えたなんの変哲もない、中学校からの帰り道。
 周りに人気はなく、歩いているのは眼鏡の少年とその隣を歩くもう一人の少年の二人だけだった。
 眼鏡の少年の呟きに隣を歩く左目に眼帯をした少年は呆れたようにため息を吐いた。
 「面白いこ

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『生まれた時から傭兵だった男』

 目の前には複数のFP能力者と複数の空間亀裂が確認できた。
 向こうもこちらをすでに認識しており能力者たちは既に臨戦態勢に入っていた。
 空間亀裂に関しても、すでに数体の漆黒に蠢くバケモノがずるりと出現していた。
 敵の数は全部で十。
 すべて駆逐し、空間亀裂を壊してしまえば、今回の任務は完了となる。
 全身を重厚な騎士鎧に身を包んだ男は、腰に挿した剣を鞘から引き抜き、目の前で祈るように構える。

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『地図に載ってない島』

 ダンジョンがひしめき、魔物が跋扈する世界。
 人々は剣と魔法を引っ提げて、世界の開拓を目指している。

 酒場。
 多くの冒険者たちが夜な夜な集まり利用する、そんな酒場の片隅。
 店内の騒々しさもどこ吹く風、と一人端の席で食事と酒を嗜んでいる男がいた。
 食事こそ酒場の一般的な質素なメニューだったものの、テーブルの上に乗った酒は普段酒場の奥にしまってあるめったにお目にかかれないような確かに一級品

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『不治の病』

1/
 病院の雰囲気が苦手だ。
 この白亜の箱に訪れるたびに考えてしまう。
 周囲の騒音から切り離され、そのせいか多くの人々の生活からも乖離しているような感覚は、なんだか能力による結界で実際に世界から隔絶させているような気がしてしまう。
 そんな考えが浮かんでは消えるを繰り返すこと自体が苦手なのだが、そんなことになるのはこの白亜の箱が殊更に生と死を孕んでいて、否が応でも心が内側の方へ向いてしまうか

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