見出し画像

#42 孟母三遷

 適当につけたタイトルで、孟子の母とは関係ありません。

 息子の大学合格発表があってからの妻はまさに八面六臂。一人暮らしのための不動産屋とのやりとり、入学手続き、生協の加入や保険関係、必要な家電家財道具をリストアップして、手配。学校で必要なパソコンのスペックやサポートまで調べている。膨大な量の書類と作業を前に、恐るべき処理能力を発揮し、難題を次々と片付けていく。仕事をしながらその合間に料理や掃除や洗濯のやり方まで息子に教えている。かっこいい。

 携帯ショップでのスマホの契約変更、銀行での入学金振り込み、郵便局で書留による書類の送付、コンビニでマイナンバーカードを使った住民票の取得。こうした窓口でのやりとりは本人がやることで経験値もあがる、と、息子に自らやるよう指示。ただ間違いがあってはいけないので、後見人として情けない父親がついていく。ほかに私がやるのは、Amazonでの購入・配送の手配や運送屋に荷物を運ぶくらいだ。まあ結構な量ではあるけれど。

 合格発表があってから、息子は友人と食事にいったり、バンドの練習と卒業ライブで忙しい。荷造りなど全然進まず、ふだん穏やかな妻も少々いらだっている。私は指示がないと動かないタイプで、よくないとは自分で思っているが、今回の一連のことは、ほとんどのことを妻がやった。あなたはあまり動かなかったね、と、やんわりと非難された。申し訳ありません。言われたことだけやって、俺はこんなに働いた、という顔をするのはよろしくないよね。

 息子の部屋さがしは、受験前から妻がネットであたりをつけ、業者とやりとりし、さらに入試の日に不動産屋をはしごして物件をいくつか実際に見て、合格発表前に部屋を仮押さえしていた。受験前には、息子はあまり住むところに興味はなかったので部屋決めは完全に母親主導。まあそんなものだろう。

 合格前の部屋さがし、ムダになると思わなかったのか。聞いてみたら、なんとなく合格する気がしていた、と妻。ウソでしょ?すごいな。息子にとって最大の幸運は、この偉大でかっこいい母親の元に生まれたことだろう。もちろん私にとっても。本当にありがとう。温泉宿でもに連れていってねぎらいたいと思います。いつになるのか。

 近く大学の入学式が行われる。今まで学校行事にほとんど行かなかったのだが、入学式に行ってこようかな、と妻に冗談で言ったら、行くべきだ、とはっきり言われた。いやでも交通費も宿代も結構かかるし仕事も年次替わりで忙しいし、と言ったところ、息子が一人暮らしするところをあなたの目でしっかり確認して、入学式の写真を撮ってきてほしい、という。妻が強めに主張することは珍しいので、思うところがあるのだろう。小中高の入学式卒業式にすべて参列した妻は、今回は行かないそうだ。理由は分からない。

 妻の頼みなら、行きますよ。それっぽいところで写真を撮るだけで式は出ないけど。大学から東京競馬場が近いな、写真だけ撮ったら行くか、と思ったけど、開催は2週間先だった。


 息子はあす、家を出て行く。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?