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#19 武蔵国蒸され旅

 地理にも歴史にも詳しくないが、横浜は相模国ではなく武蔵国とありました。

 今回は横浜で、初めてのプライベートサウナである。「湯遊ワンダーランド」の原作を読み返し、ドラマも観て、こちらのサウナ脳もちょっとどうかしているタイミングでの初訪問。至福の時間だった。

 さかのぼること2カ月。家族の用事で2日間にわたり横浜方面に出かけることになった。日帰りでも行けないことはないが、宿泊することにした。ついでに久々の阪神戦を観戦しようということになり、DeNA戦のチケットも急遽押さえた。妻にお願いして、横浜スタジアムの近くに宿を取ってもらった。そのホテルにはプライベートサウナがあったからだ。

 プライベートサウナは、宿泊とは別に予約するシステム。まだ利用したことはないが、登録だけはしてあった近所のプライベートサウナのシステムと同じものだったので、新たに登録する必要はなかった。緊張のうちに予約を完了。100分2,980円也。相場はよく知らないが、近所のよりはだいぶ安い。とはいえ、セレブでもないのにプライベートサウナなど入ったら地獄に墜ちるのではないだろうか?戦々恐々と初体験の日を待つ。

 横浜、猛暑の夜。試合は近本の活躍などで阪神の快勝だった。ハマ風も心地よく、よい気分でサウナに向かう。丁寧な説明を受け、サウナ室へ。清潔で、広すぎず狭すぎずいい感じ、というのが第一印象。サウナ室はふたりくらい入れそうで、まだ新しく木の香りがうれしい。本格フィンランドサウナのストーブとのことで、セルフロウリュ(自分でサウナストーンに水をかけることで蒸気が発生し、室温がぐっと上がる)ができる。水風呂は、ちょっといいホテルの真っ白なバスタブ。チラー(水風呂の水温を下げ一定に保つ機械)からつながる管が、普通の湯船とは違う。レビューで書かれていたほど狭い感じはしない。

 予約の際に、サウナと水風呂の温度を指定できる。これがプライベートサウナの大きな利点のひとつだろう。サウナは90度以上、水風呂は13~17℃に設定した。この設定がバッチリだった。

 セルフロウリュも初めての経験。熱気とアロマの香りがぶわっと広がる。そうか、こんな感じで蒸気が感じられるのか。他人のいないサウナは五感をフル稼働できる。

 十分に体をあたため水風呂へ。たいていの水風呂では禁止行為のためできないが、この日は存分に頭まで潜る。思わず声が出るが、誰もいないので、声も出し放題だ。冷たいが体の周囲はほんのり暖かい。羽衣というやつだ。手足をバスタブの外に放り出す。最高。気持ちいい。もっといい表現はないのか。いやもうそんなものもうどうでもいい。水風呂は外気浴の前座という位置づけだったが、水風呂そのものが異様によい感じだ。

 自分の感覚に集中できるため、体が冷えてくる感じがよくわかる。これ以上は冷えすぎ、というちょうどのタイミングで水風呂からあがる。ととのい椅子を向かい合わせに並べ、足を放り出す。じんわりと多幸感に包まれ、やがて笑い出す。外から見たら危ない人だ。でも誰も自分のことなど見ていない。

 チラーの音が響くこともあってか、フロントでBluetoothスピーカーを貸してくれる。スマホで好きな音楽を流すことができるのも、プライベートならでは。ちょっと考えて、坂本龍一をかけた。いろいろな想いが浮かび上がり、流れ去ってゆく。

 あっという間の100分で、最高の時間だった。プライベートサウナというものは、施設や設備そのものより、世間との遮断というコンセプトの勝利という気がする。普段のサウナは、やはりそれなりに他人に気を遣っていたのだなあ、と思い知る。ひとりで過ごす時間というものが大事だと理解しているつもりだったが、これはひとりの時間の、ひとつの究極の形なのだろう。

 マイサウナを作ってしまう人の気持ちがよくわかった。宝くじでも当たったら建ててみたい。贅沢というのは人それぞれだろうが、私にとっては、たったひとりのサウナ空間は間違いなく贅沢といえるだろう。とりあえず、まもなく訪れる誕生日の自分へのプレゼントとして、近所のプライベートサウナを予約してみようか。多少高価でも、たまにはいいか、という心持ちになってしまっている。

 以下は余談。サウナのあと、久しぶりの天下一品でビールを飲んだ。うまかったが、隣のテーブルの高齢女性のグループが騒がしかった。午前0時過ぎだったので、ちと驚いた。いや男だろうが女だろうが何歳だろうが何時だろうが、天一で飲んで騒いでもいいのだが。

 翌日の空き時間は、妻はテート美術館展へ、私は初のIMAXを楽しむため日比谷へ。観た映画は「トランスフォーマー ビースト覚醒」。素晴らしい休日だった。

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