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#2 待ち人きたり

  下校時間になった。店の窓から帰宅している学生たちの姿が見える。俺が学生の時より早くなった気がする。それは大人になり、夜に活動する時間が増えたからだろうか?それとも時代的に時間が早まったのか?まあ今それはさして問題じゃない。今問題なのは昼間の女子高生がローファーと靴下を取りに来るということ。両方ともしっかり乾いたので渡しやすいようにビニール袋に入れ、扉の片隅に立てかけてある。
賠償金とか言われたらどうしよう、、、。そんな子には見えなかったから平気だとは思うけど、緊張してきて胃が痛くなってきた。小心者だよなと自分で苦笑いをした。店の裏で煙草を一本吸って落ち着こうと思い席を立った時に、カランカランと低めのカウベルが鳴った。扉が開いた合図だ。すぐに煙草とライターをカウンターの中にしまい営業声をつくる。
「いらっしゃいませー、お一人様でしょうか?」
「はい、一人でございます。カウンターに座ってもよろしいでしょうか?」
「あ、はい大丈夫です。今準備しますので少々お待ちを」
カウンターに座りたいなんてめずらしい客もいるもんだなって思いながらそそくさ片付けた。
「メニューをどうぞ。今の時間だったらドリンクと焼き菓子のセットがおすすめですよ」
カウンターに座りたいと言う客も珍しいんだが、学生が来るのも珍しいな。この店は学校に並列しているのだが学生の客は少ない。
その理由は少し歩くとある駅の方に、大手のコーヒーショップが軒並みはばをきかせているからだ。
やはり若者にはお洒落なアレンジ珈琲の方が人気みたいって事だな。それに比べてこの店は内装からメニューまで昔から変わっていない。
何回か改装しようとしたが、このお店を支えてくれている先代からのお客さんのことを考えると忍びないと思い行動に至れていない。結果、店の周りの客層に合わなくて開店休業状態が多いってことなんだが、、、。
「すいません、頼んでもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「それではおススメの焼き菓子セットでドリンクはブレンドでお願いします。」
「はい、かしこまりました。では、」少々お待ちくださいと言いかけたのを遮られた。
「それと、朝水浴びさせてもらった靴と靴下もよろしいでしょうか?」
俺は朝と同じように恐る恐る顔を覗き込んだ。

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