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「光のメッセージ」ショートストーリー【2500字】


「あそこ、何か光ってる?」

私の名前は詩織、病気で倒れたおじいちゃんの家に滞在している。
おじいちゃんの家は島の小高い岬の上に建っていて私は大好きなおじいちゃんとおばぁちゃんの手伝いをしたかったのだ。


朝食を運んでおじいちゃんの部屋で窓の外を見ると、少し離れた島で何か光った気がした。
目を凝らすと島の中腹に見える家からキラッキラッと何か一定のリズムを刻んでいるように見える。

「おじいちゃん島の向こうから光が見えるんだけどなんだろ、点滅してるように見える」

「どれどれ」 
おじいちゃんはベットの背もたれを起こして窓の向こうを見た。

「何かのリズムみたい」

「あれは光信号だねぇ。モールス信号ってのは聞いたことあるだろう?」

「内容は…0、8、4だ」
モールス信号、聞いた事がある、確か昔の通信方法だ。

おじいちゃんは貨物船の通信技師だったから一度小さいころに見たことがあった。

ツー-・・ツートントン・・・・-トントントントンツー
おじいちゃんのメモから長い光と短い光の組み合わせだけで遠くの人に言葉を伝える最も古い通信手段としながらも今現在も使われているらしい。
「0、8、4とは何の暗号じゃろか」

「おじいちゃん簡単だよ、【お、は、よ】だよ」

「なるほどな!語呂合わせだな」

私は島の向こうからモールス信号で挨拶をしてるるんだと分かった。

「私もやってみたいな」

私はおじいちゃんに聞いて物置にある作業灯を持ってきた。同じように「おはよ」と点滅させ返信してみた


しばらく対岸の光は止まっていたが私も何度か繰り返している反対から違うリズムで光が送られてきた。

「【ありがとう】じゃな」
おじいちゃんは笑って私に教えてくれた。
久しぶりに見たおじいちゃんの笑顔が嬉しい、私の方こそ【ありがとう】だ。
ヘタクソな光信号でそんな気持ちを込めて交信を終了したのだった。


次の日も朝同じ時間おじいちゃんに食事をあげているときに同じようにモールス信号が反対の島から届いてきた
「おはよう」
「ありがとう」
「またね」
そんな短い会話を鏡の反射した光で続けるのが日課になっていた。

おじいちゃんに簡単な数字や挨拶をメモしてもらい少しずつ簡単な会話をできるようになっていった。

特に陽が沈んでからは光が良く届き分かりやすい。
おじいちゃんの解読メモを見ながらの交信をする様になった。

月明かりの映る海面と満天の星空
その間で瞬く光信号は二人だけの秘密の会話だった。


相手のこともいろいろわかった
名前は啓太くん。

私と同じ高校3年生で今バイクを買うためにガソリンスタンドでアルバイトをしているらしい。

「いつか後ろに乗せてね」って伝えてある。
想像してはニヤニヤ妄想にふけった。

「どんな人なんだろう…」

朝、おじいちゃんを交えて挨拶をしてお互い帰宅したら「ただいま」「おやすみ」を光信号で送ったりしていた。


そんな何気ないやりとりが3ヶ月ほど続いたある日。

おじいちゃんが再び倒れてしまった。

昨日
「おじいちゃん!おじいちゃん!啓太くんが近くこっちに遊びにくるって言ってるよおじいちゃんにも会いたいって!」

「それは楽しみだなぁ」

そんな話をしたばかりだった。

楽しい日々は永遠では無かった。
それがおじいちゃんとの最後の会話だった。

以前にも増して優しい笑みを浮かべていたおじいちゃん。

一緒に食事しながら啓太くんと私とおじいちゃんの楽しい食事の時間、そんな思い出がたくさん出来た、それなのに涙が止まらない。

葬儀を終えた帰り道おばあちゃんは私におじいちゃんとの思い出話を話してくれた。

「おじいちゃん、いちど出航すると半年に1度ぐらいしか戻れないからなかなか寂しくてね」

「出航する時はこの岬の家から船が見えなくなるまで見送ってたんだけど、おじいちゃんはよく光信号を送ってくれたんだよ。

「愛してるよって」

私がここに手伝いに来て以来1度も涙を流していなかったおばあちゃんは初めて私の前で一筋の涙を流した。


おじいちゃんのいない部屋に戻ると、そこにはおじいちゃんの姿だけがない。


机の上には一冊のノートがある。
そこには私とおじいちゃんで解読したモールス信号の言葉が書かれている。

「おじいさん、いつもメッセージを解読してくれてありがとう、会える日を楽しみにしています」

今度三人で会おうって話していたんだな。

「ごめんね啓太くん、それは叶わなくなっちゃった…」


ここ数日忙しさと悲しさであっという間に過ぎてしまって、啓太くんと話ができていなかったのをふっと思い出した。

夕暮れの海が窓の外に見える。

「啓太くんごめんね」
メッセージを送った。

「おじいちゃん死んじゃったんだ約束守れなくてごめんね」

反対側からチカチカと一定のリズムが刻まれる

これは数字だ、数字だけは覚えてる。
私はそれをノートにメモした

11桁の数字

「これは番号?」

私は携帯をかけた
「少し緊張するな…」

「コホン、もしもし聞こえますか? 啓太です」

私はクスリと笑った。

「携帯だもん聞こえるに決まってるよね」
私はくすくす笑った。

「そ、そうだよね」

啓太くんも笑った。

「えっと、このたびは誠にご愁傷様でした」

たどたどしいご挨拶文、緊張しているのは啓太くんも一緒だった

ずっと光の交信しかしていない私たちで、会ったことも無いのにずっと昔から知っているような気持ちになれた。

「ありがとう番号教えてくれて」

「えっと、辛かったね、今度一緒にご飯食べに行こうね」

「…うん私も啓太くんに会いたい」

でもこれだけは言いたかった。

「携帯持ってるならもっと早く教えてよ」

言いながら最後は笑ってしまっていた。

2人はくすくす笑った。

私の目から優しい涙が一筋こぼれる。
なんだかとても温かい涙だった。



私はおばあちゃんと一緒にこの家に住むことになった。
今の私の部屋は大好きなおじいちゃんの部屋。

朝起きて窓を開けると海が見える
煌めく海の向こう島から光るメッセージ

もうメモはいらない

「ーー・ーー・ーーー・ー・・ー・ーーー・ーー・」

「あいしてる」

二人だけの秘密の光が交わり今日も笑顔で始まれる。

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