「空きデパートを買い、王様気分になってみる」ショートショート【1400字】

過去に賑わいを見せていた12階建のデパートは長期間空きビルになってしまった。

どのくらい経っただろう。
解体の予算もないらしく、早期退職金を頭金にすれば多少無理すれば買えそうだ。
建物は頑丈で設備も整っている。

「仲間を集めていっそここに住んでしまおうか」
そう思った。

最上階近くには温泉もあり、屋上にはプールもあるし、事務所やバックヤードを外装して得意の日曜大工で部屋にすれば住めそうじゃないか。

リストラになって現在無職、何か大きな失敗をしても大した問題ではない、それならばいっそ誰もやってないような新しいチャレンジをしてみよう。

SNSで仲間を集めた。
「一緒に盛大に引きこもりませんか?」

まずは街やこの施設内で様々な依頼を受け、仕事を割り振ったり、助け合ったりして収益化をはかる。

サービスカウンターとはいかにも百貨店ぽいので、
「ギルド本部」とアニメっぽく窓口を作ってみた。

SNSの反応は良く、元からのオンラインの友人も含めて200名ほどの仲間がすぐに集まった。

朝昼晩と三食、やはりギルドの住民になった料理人や料理好きな仲間たちが腕を振るう。

誰もいなくなったカフェテリアが蘇った。
モーニングコーヒーを飲みながら見下ろす街の景色は最高だ。

中にある映画館は使い放題、24時間アニメや映画が流れている。

噴水広場にステージを作り素人集団での演劇や、楽器演奏などはなかなか文化祭の様で楽しい。
この舞台があることも話題になり仲間や来場したお客も楽しめた。

「ギルド本部」には様々な仕事が舞い込み、空いた時間でそれをこなす。
仕事を請け負う仲間の呼び名は「冒険者」と呼び極力シャレを効かせていたらこれが意外と受けた。

冒険、と言っても近隣の家に食事を運んだり、草刈り、お年寄りの送迎、観光客の案内などなど、そんな誰でも出来る仕事。

普段とは違う体験がまさに「冒険」ではないか。

動画や配信サイトでそんな生活を見てもらいギルド仲間の中にもちょっとした有名冒険者も誕生し会いに来るお客さんも増えてきた。

動画のネタ欲しさに冒険者は剣術を磨いたり、体を鍛えたり違法スレスレのモデルガンなどを備え、武装チーム的なチームも出来上がり半ば遊び半分で、門や城壁を築いて白いビルを囲われた。

「ホワイトキャッスル」そんな風に誰が呼んだか知らないがそう呼ばれる様になった。

地下牢なんかも作り、ホワイトキャッスルツアーが人気になりその効果で移住者も増え、賑わいを見せてきた。

貴族や剣士、神官や司書なんて職業の肩書を作り配信する事で収益を得る様になった。

悪さをすると騎士団に捕らえられ牢にぶち込まれムチ打ちの刑をさせた、その辺もお笑い番組風に配信してウケた。

動画はますます過激になり、一応動画上の職業は「王」である俺様に不満をぶつけたりする配信もウケている様だ。

「今の王や貴族は身分によって俺たちを差別している許してはならない！！」

うん、なかなか迫真の演技でまた再生数が伸びそうだ。

深夜、ベットについた頃ふと目が覚めて配信を観てみると、城内を武装騎士団が侵攻する光景がライブ配信されている。

どうやらクーデターを起こし王を暗殺する設定の様でライブ中継を数万人が観ている表示が画面に出ている。
コメント欄が大いに荒れている。
「王をやっちまえ！」
「許してはならないそ！

これでまた再生数が上がりそうだ、炎上商法って奴だ。
伸び悩んでいた収益も一気にまた上がり期待出来そうだ。

そう思いながら安心し俺は皆に作らせた王の間のフカフカのベットで眠りについた。
両脇には俺が任命した夜のお世話役の美人女性の間にダイブして眠りについた。

そう、これはすべて設定。
動画の再生数を稼ため。

暗殺など実際にはされるはずがないのだ。