見出し画像

スナイパーが見える人から学んだ「人間関係に大切なこと」

これは、初めて精神科に入院した時に学んだことで

いまでも大切にしていることのお話。

Aさんという人から学んだ、人間関係で大切なこと。

☆☆☆☆☆

精神科の閉鎖病棟。

良いイメージのある人は少ないと思う。

病棟の出入り口が常時施錠され、面会も許可制。

病状が落ち着いていないと面会の許可も下りない。

入院の対象とされるのは、原則として

『精神保健及び精神障害者福祉に関する法律』に基づく

措置入院や医療保護入院による強制入院による人、とされているんだけど

元々開放病棟(施錠なしで割と自由)がなかったりするパターンもある。

私の場合、強い恐怖や不安を抱えている状態で

『外から入ってくる情報を制限した方がいい』っていうのと

『子どもとの早期面会を叶えるために集中して療養できるように』

という明確な治療方針があったため

同意書を交わして入院の運びとなった。

因みに、隔離室及び保護室のような個室ではなくて

普通の4人部屋だった。

本来なら、保護室に入ってもおかしくないような状態だったらしいが

ちょうど保護室がいっぱいだったため、難を逃れたようだった。

☆☆☆☆☆

最初は、薬の影響と子を乳児院に預けたショックで

歩くこともおぼつかず

転倒のリスクが高いという事で車椅子。

あとは精神的な動揺が強いという事で

2日間くらいは看護師さんがあれこれ世話を焼いてくれた。

そのおかげで、3日目からは自分で歩けるようになり

病棟内を散歩する余裕も出てきた。

そんな中で出会ったのが、Aさんだった。

☆☆☆☆☆

「ほら!見てよ!そこにスナイパーがいるの!!」

「私を撃とうとしている!!」

そういってしゃがみ込んで両手で顔を覆って泣き出す。

彼女は統合失調症。幻覚がひどいんだと同室の方に聞いていた。

「私、狙われてるの!」と叫ぶ様子を横目で見ていると

「どれどれ!?どこにいるの!?」

「大丈夫!私が守ってあげるから!!」と声が聞こえた。

看護師の登場。まだ若い女性だったが

小さな体を弾ませて

両手を大きく広げてAさんを守るような動作をする。

☆☆☆☆☆

どうやらその看護師さんは、異動してきて間もない人だったらしい。

古参の入院患者が聞いてきたと言っていた。

「あんなことして落ち着くなら、薬なんていらないっていうの。ねぇ。」

そう言って笑う人もいた。

私もそう思っていた。

薬だけが、自分の状態を良くしてくれると思っていた。

予想外の経過

その看護師さんは、いつも日勤帯に登場し

Aさんの幻覚が出てくるたびに

「私が守ってあげる!」と両手を広げアピールした。

それが周りの「比較的落ち着いている患者」にも伝染し

その看護師さんがいないときも

「私たちが守ってあげる!」と声をかけるようになった。

そのたびにAさんは「ありがとう、ありがとう」と泣きながら拝んだ。

そんなことを繰り返しているうちに

Aさんの幻覚は落ち着いていき

叫ぶ以外は独り言しか言えなかったのに

世間話ができるほどに回復。

結果的に私より少し早く

「みんな、ありがとう」と頭を下げ、退院していった。

薬の効果もあるかとは思うが

Aさんの回復ぶりには、最初はバカにしていた人も

「あんなに早く落ち着くなんて」と驚くほどだった。

学んだこと

信頼関係を構築するなら

「モノ」の提供だけではダメだという事。

このケースでは「鎮静剤」で

同じ看護師という肩書でも

全く違う対応をする人もいた。

すぐに押さえて鎮静剤を使用するために

無理やり別室に連れて行ったり。

そういう看護師に対してAさんは暴言を吐き

退院直前の穏やかな状態でも

頑なな態度を崩さなかった。

反対に、守ってあげる、大丈夫と声をかけた看護師に対しては

とても穏やかで笑顔も見せていたし

その人と接した日は夜間の不穏も落ち着いていた記憶がある。

鎮静剤の使用に至る回数も少なかったようだ。

☆☆☆☆☆

鎮静剤を打つことが悪いわけではない。

病院として当然の「モノ」を提供したまで。

違っていたのは

「モノ」のまえに「信頼関係」があったのか

「安心感」を提供できていたのかというところだと思う。

精神障碍者には、残念ながら理解者は少ない。

「誰もわかってくれない」という気持ちが

人間不信につながっていく。

病状が快方に向かっても

人が怖くて引きこもったりする人も沢山いるのが現実。

彼女にとって「大丈夫、私が守る」という言葉がどれほど心強かったのか

どれだけ安心できたのか

察するに余りある。

実生活に落とし込むとしたら

ここまで極端な例は

実社会では巡り合うことなどないが

安心、信用、信頼という点においては

多分、ビジネスにも通じるものがあるのかもと

漠然と思ったりもしている。

わたしには売るものなどないけれど

「妻、母としての自分を売りこまなければならない時」

というのが確実に存在する。

特に子ども関係に関しては

義両親、ママ友、学校の先生、塾の先生

スポ少のコーチなど

「うちの子をよろしくお願いいたします」と

頼まなければならないことが多いからだ。

大人同士、互いの信頼関係が構築されていないと

子どもが間に挟まれて宙ぶらりんになってしまう。

実際に大人の板挟みで悩む子を何人も見てきたが

多少の不満はあったとて、それをのみこんで

「安心して任せる」「安心して任される」という

関係というのが、子どもに力を発揮させるベースになるんだと

そのたびに感じていた。

☆☆☆☆☆

しっかりした「ベース」なしに

モノだけをどんどん乗せようとしても意味がないのだと思う。

酷く肌荒れした上に高価な化粧品でメイクをしても映えないように。

太ってたるんだ身体で高価な洋服を着てもあか抜けないように。

人間関係だって同じで

信頼関係も出来上がっていない相手とは

うわべの付き合いはできても

実際に協力していくのは難しいものなのだ。

「この人なら大丈夫」「ちゃんとやってくれる」

そんな気持ちを

相手に感じてもらえているか?

いつもAさんのことを思い出しながら

自問自答している。


































ご覧いただきありがとうございます。いただいたサポートは全額、今後の活動費として使わせていただきます!