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歌詞小説 【何度でも:DREAMS COME TRUE】

春の木漏れ日が心地よい春に、高校生になった。小学と中学は地域の野球チームがあり、そこに所属していた。女の私は、中学2年になるとレギュラーを外されていた。監督に何度もお願いしたが、もう男の子とは体力的に不利になるし、怪我したら大変という判断だ。こみ上げてくる涙を何回拭いただろう。小学生の時の夢は甲子園に憧れた。中学生にもなると現実を嫌でも知ることになる。女の私は甲子園に行けないと……。誰かや何かに怒っても出口なんてなく現実だけがここにあった。だからこそ、野球部のないこの学校を選んだはずなのに。今年から公式野球部が復活するらしい。
 そっと覗きに行くとまだ数名の部員が荒れ放題のグラウンドを整備していた。みんな私と同じ一年生で、近くの中学から来ている人。中には、県外から来ている人もいた。練習着姿がとてつもなく羨ましかった。男の子だったら、きっと……あの中にいてみんなと甲子園に行こうぜ!とか言えていたのかな。なんて考えていたら悲しくなりグラウンドを離れた。それでも、好きなものに抗えずついグラウンドへ足が向いてしまう。
 グラウンドに通い続けて1週間が経ったとき。いつものように見ていると背の高い女性に声を掛けられた。
 「野球に興味あるのかな?」
 その女性は野球の練習着を着てグローブにボールを打ち付けていた。突然のことで声が出なかった。
 「ごめんね。いつもここからグラウンド見てるから興味あるのかなと思って。私、ここの野球部の監督させて頂いてます。山吹 桃(やまぶき もも)と言います。いまマネージャー募集していて良かったらやってくれない?」
 「あっ……えっと無理です……ごめんなさい!」
 思い切り頭を下げて断ると逃げてしまった。少しだけ後ろ髪引かれるけれど、その想いを断ち切るように走った。家に帰るなり動きやすい恰好に着替え自転車で近くのバッティングセンターに行った。ずっと通っていたこのバッティングセンターで久しぶりにバッターボックスに立つ。まだまだ非情にも、バッティングの腕は衰えてなくて気持ちいい程ボールは飛んでいく。ふと気づくと人だかりが出来ていた。バッターボックスから出ると見ていた人たちが口々に言う。男なら甲子園に行けるんじゃね?でも女じゃな……って。誰よりもわかってるよ……って呟いたら涙が零れそうになったとき野球チームの時のバッテリーだった理央に手を引かれてその場を離れた。
 「理央……ありがと……ごめん……」
 「ったく!泣きそうな顔してんなよ!ひより。てかなんで、別の高校行ってんだよ。俺と甲子園行く約束忘れたのか?」
 「女の私が行けないの知ってるじゃん。馬鹿なの?だから野球はもういいの」
 「なら、なんでここにいるんだよ。ひよりの夢はそんなもんなのか?あ~ぁ、ひよりなら、どんな形でも夢叶えると思ったのになぁ!ひより!俺が甲子園で優勝するとこTV見とけよ!じゃな!」
 そういうと理央は自転車で帰って行った。その背中に向かって心の中で、ふざけんな!って叫んだと同時に何かが吹っ切れた。自転車に乗って図書館に急いだ。図書館に着くなりマネージャの仕事について調べたり。野球の指導方法、身体づくりについても調べた。理央が夢を叶えるところ指を咥えて見てるのなんて、ごめんだ。マネージャーでもいい!とにかく甲子園を目指したいと思った。
 次の日いつものようにグラウンドに向かい山吹監督を探した。山吹監督を見つけ駆け寄った。
 「監督!あのっ!私マネージャーやりたいです!甲子園に行きたいんです!駄目でしょうか?」
 「来てくれると思ってた。確か、少年野球リーグのドルフィンズの大空ひよりさんでしょ?確か結城理央(ゆうき りお)君とバッテリー組んでいたピッチャーよね。」
 「はい。よく知ってますね。」
 「私も、野球経験者なのよ。だからね。情報は知ってるのよ。」
 監督は、いきなり私を抱きしめて言った。
 「悔しかったね。女の子ってだけで甲子園に選手で出られないなんて……わかるよ。一緒に甲子園行きましょ!」
 あぁ、監督も私と一緒で悔しい思いをしてきた側の人間だ。そう思うと気持ちが溢れて柄にもなく泣いてしまった。
 「悔しいです。男の子に生まれたかったよ。なんで女の子なのって。野球したいのに出来ないの苦しいです!甲子園でマウンドに立ちたかったです。」
 「ひよりちゃん。育てましょ!甲子園に行ける選手を。だから、協力して!一緒に甲子園行きましょ。」
 涙を拭きながら精一杯頷いた。
 あれから、月日が経ちチームは今、甲子園出場をかけて試合中だ。ベンチから、精一杯がんばれ!って叫んだ!ここまでの道のりは長かった。試合の度に相手チームのデーター解析をしたり、意思の疎通ができないバッテリーの間に入ったり。未経験者のフォローにと。朝は早く夜は遅くまで練習している皆の為におにぎりを大量に作ったりと。
 後1点で勝てる!お願い!と心から叫ぶ。そんな声も空しく負けてしまった。泣きながら戻ってくるチームメイトに笑顔で頑張ったね!って言った。学校に戻ると監督が皆を集めて言った。
 「皆が精一杯頑張って、力を出し切ったけど届かなかったね。落ち込んでる暇ないよ!皆は次はどうしたい?どこ目指したいか自分達で決めなさい。それに向かってメニューを考えるから」
 そう言うと監督は行ってしまった。みんなで話し合った結果。甲子園優勝を目標にすることになった。負けたけど負けてないんだ。このチームは……。
 改めて、私は覚悟を決めた。何度でも何度でも立ち上がって頑張れ!って叫び続けてやる!皆の名前を声が枯れるまで10000回でだめでも、望みなくても10001回目は来るから。

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